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54話

 私は夜になるとアリスちゃんと城にある湖を眺められる広い船着場に星を見に来ていた。


 きっと私を狙いに来ると戦場に広い敷地で人気のないここを選んだ。


「アリスちゃん眠い? ごめんねこんな所に連れてきて」


 ベンチに座り隣でお菓子を食べるアリスちゃんに話しかけると笑顔で私に振り向いた。


「マーナ! 戦うんでしょ? 楽しみ!」


 アリスちゃんの嬉しそうな顔に私は苦笑してしまう。


 気配を感じるまでにそれほど時間は掛からなかった。ベンチに立て掛けていた槍を持つとアリスちゃんを見た。


「来たみたいね」


「うん!」


 暗闇には数人の男が潜んでいた。


 私は武器を手にそこを睨むと気付かれたと分かったのかガサガサと音を立て男達が姿を現した。


「不用心だな王女様よう、せっかく帰ってきた所に悪いが消えてもらうぞ」


「へへへ!」


「弱そう……つまんない〜!」


 アリスちゃんは男達を見てがっかりした様子で肩を落としていた。


「何だぁ⁉︎ おい! 行くぞ!」 


 私とアリスちゃんを取り囲むと薄ら笑いを浮かべ掛け声と共に襲い掛かってくる。


「誰に頼まれたのか聞かせてもらうわよ!」


 私はそう叫ぶと男達に向かって行った。


 数秒後……私とアリスちゃんが立っている周りには何が起こったのか分からないといった顔をした男達が崩れ落ちるように倒れていった。


 これはただの当て馬! 黒幕は何処かで私達を見ているはず!


 私は木の上に気配を感じるとそこへ向かって声を上げた。


「出てきなさい! そこにいるのは分かってるわ!」


 ガサッと音がすると黒いローブを着た男が空から降りて来る。


「ヒヒヒ……王女様らしからぬ強さですなぁ! 私が動く事になるとは思いませんでしたよ」


 深く被ったフードから顔は見えないが異様な雰囲気を漂わせている。只者ではないと体が緊張するのを感じて神経を集中した。


「楽しそう!」


 そんな私とは逆にアリスちゃんはローブの男を見て嬉しそうな声を上げて一歩前へ出た。


「あなたが私と戦うと? ヒヒヒ!」


 男が笑うとアリスちゃんはそれに構わず魔法を発動した。


「どうやって遊ぼうかな〜♪」


 アリスちゃんは自分の周りに炎、氷、風、土を次々に出現させると男の様子が変わった。


「何者ですかこの子は……これは真剣にやらないと危ないですね……」


「行くよ〜♪」


 アリスちゃんとの戦闘がはじまると次第にローブを着て顔が見えない男でも明らかに困惑していると感じた。


 多分相手はまだ小さな人間のはずなのにと思っているのかもしれない。


 男はアリスちゃんの攻撃を避けてはいたけど、だんだん息を切らしてきている。


「まさかこんな事が……俺が遊ばれているだと⁉︎」


 男は体を震わせて怒りの感情が溢れ出ていた。さっきの余裕ある口調も今は本来に戻ったのか荒々しくなっていた。


 男はフードを下ろすとそこから現れたのは紛れもなく魔族だった。


「クソがぁ‼︎」


 男からは闇のオーラが漂いはじめた。


「殺してやる‼︎」


 男は隠し持っていた黒い剣を取り出し笑みを浮かべるアリスちゃんに襲い掛かった。


 ブン! ブン!


「はあはあ! おのれぇぇ!」


 男の剣はアリスちゃんではなく空を斬る。顔には焦りが見え始めていた。


 魔族の男には数メートル先にいるアリスちゃんとの距離が果てしなく遠く近づくことすら叶わなかった。


 周りにはアリスちゃんから放たれた幾つもの魔法が魔族の男に狙いを済ませている。気の抜けない張り詰めた状況に私だったら恐怖で気が狂いそうになるだろう。


「ふあぁ〜眠いからもういいや……」


 死に直面している魔族を前にアリスちゃんはあくびをかいて眠そうな顔を擦った。


「こ、こんな奴に俺が……弄ばれ命を握られて……くっそぉーーー‼︎」


 怒りの感情が爆発した魔族の男はアリスちゃんがスキを見せたと思ったのか正面から向かって行った。


 ビキ‼︎


「ガッ⁉︎」


 男は突然体が動かなくなり何をされたのか分からない状況にパニックになった。声も出せずにただアリスちゃんを見て怯えていた。


「ンーーー⁉︎」


「バイバーイ!」


 アリスちゃんのあどけない笑顔を前に男は周りの魔法を次々に受け跡形もなくこの世から消えていった。


「あ〜楽しかった! あははは!」


 ゾク……。


 私は一瞬アリスちゃんの凍るような視線に体が痺れたように動かなかった。


 セト様はアリスちゃんを命の恩人として可愛がっているしあの洞察力に長けるエニィさんもまるで親子の様に仲が良かった。


 私の見間違いだったのか……。


「マーナ! 帰ろう?」


 アリスちゃんはいつもの可愛らしい笑顔で私の袖を引っ張る。


 きっと気のせいだ。私は頷くと城に残っていた兵士を呼びにもどったのだった。

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