53話
マーナが生きていた事は国中に知れ渡り城は宴が始まってもなお人々は歓喜に包まれていた。
俺は周りの喜びようにマーナがいかに親しまれていたか十分過ぎるほど分かると嬉しくなって隣で豪華なドレスに身を纏ったマーナに話しかけた。
「前から凄い人気だったんだなマーナは、皆心から喜んでる」
マーナは俺を見て微笑んだ。その顔は美しく綺麗で引き込まれるような輝きを放っていた。
「私も驚いてるんです……こんなにみんなが喜んでくれて嬉しいです」
豪華な料理を競うように食べるアリスとセラニや忙しそうに顔見知り達に挨拶をするエニィを目にすると俺もマーナの婚約者として貴族や家臣達に話しかけられ時間はあっという間に過ぎていった。
俺はマーナの命を狙う犯人として怪しいと見ていた2人の王妃だったが宴の間話す事はなかった。一応参加はしていたみたいだが顔も分からずどんな人物なのか見ることさえできずに歯痒い思いをしていた。
しかしまさかマーナに声もかけないとは……相当な溝があるのか分からないが大丈夫かこの国は……。
「……セト様心配してますね? この国は大丈夫か? って」
俺は心底この国の先行きが心配になってくると顔にそれが出ていたのかマーナが見事にその考えを当ててくる。
「悪いけど当たりだよ、王女が帰ってきたんだぞ王妃が声をかけに来ないのはさすがにおかしい」
「……昔はそこまでじゃなかったんですけどお父様が私を後継者にすると発言してから何かがおかしくなってしまったんです」
マーナの顔は悲しそうで俺はなんとかそれを消そうと思いマーナの肩を抱いて言葉をかける。
「金や地位で人がおかしくなるのはよくある事だ……だからって人を殺したり落としめる奴を俺は許さない。マーナには俺やエニィ達がついてるんだからそんな顔をしなくていいんだ」
「ありがとうございます……」
その夜俺とマーナはふたりで昔マーナが使っていた部屋で夜空を見ていた。
「マーナ、今更こういうのは良くないと思うんだけど……」
俺にはどうしても確認したいことがあった。マーナがこちらに振り向いて綺麗な顔を横に傾げて話の続きを待っている。
「俺には婚約者が多いいだろ? その辺をどう思ってるのかなって」
「私は全然気にしていませんよ、エニィさんもセラニさんも凄く話しやすいし良い人なので嫉妬する気持ちもありませんし」
「俺はみんなが好きだ。だからこれからもみんなを愛せるように頑張るし守っていくよ」
「ふふ、そんなに気張らなくてもセト様から愛されているって感じてます。今私は幸せ過ぎて夢の中にいるようです」
「マーナ……」
次の日俺達はマーナとアリスを残して城を出て行った。
「さて、うまくいってくれるといいんだが……」
「大丈夫よ、あの人かなり怖い顔してたから絶対しっぽを出すわ」
遠ざかる城を見ながら言った俺の呟きにエニィが自信満々に答えた。
そう俺達は犯人の目星が付いていた。あの宴の中でエニィはマーナに憎悪を向ける人物を探していたのだが隠せないほどの憎悪を放っていた奴がひとりいたらしい。
「じゃあ手はず通り俺達はダンジョンに行くぞ!」
そして城では大勢の兵士達が演習として城を出て行ったのだった。これもガルス王と俺達で仕組んだ犯人を誘き寄せる作戦でマーナには幼い女の子であるアリスが付いているだけでアリスの強さを知らない者が見れば危険だと思うだろう。
恐らく犯人は今日の夜に仕掛けると俺達はみている。後はマーナとアリスを信じるだけだ……。
宴でマーナに憎悪を放っていた人物は普段誰も使うことのない部屋に立っていた。
キィ……
扉が静かに開くのに気付くとやっと来たかと女は少しイライラしながら相手が入ってくるのを待っていた。
「ヒヒヒ……まさかまた会う事になるとは思わなかったですね」
黒いローブを着た男はそう言って深く被ったフードを取らずに椅子に座った。
「また仕事を頼むわ」
「……あの王女ですかね?」
「分かってるじゃないか」
「あの病でまだ生きているとはしぶといですなぁ」
「その病気もすっかり治っているのはどう言う事? 治せないと言っていなかった?」
「あれを治すとは……是非どうやったか聞きたいですね」
「じゃあ頼んだよ……報酬はあれかい?」
「ヒヒヒ! そうですねぇまた色々と機密情報をもらえれば……」
「……成功したら渡すわ、今日は兵も演習でいないからチャンスよ」
「では明日にでもいい報告ができそうですねぇヒヒヒ」
男はそう言うとスッと暗闇に消えて行った。女は微笑む、その顔は醜く歪んでいた。