52話
あのカーシャが一撃で倒されてしまった。
私は幼い頃からカーシャに憧れて一緒に戦闘もして来てその強さを知っていた。でもセト様はたった一振りでその奥の手と言われるカーシャのスキルをいなしてしまった。
隣ではお父様とゼルドが驚いたまま固まっている。
「あ、あれは本当だったのか……」
信じられないといった表情をするお父様が独り言のように話し始めた。
「先日2度目となる勇者の旅について報告する会合に出向いた際カーライル王の言った言葉だ。レベルが200を超える者が現れたそしてカイアス殿でさえ勝てない強さで将来人々の希望となる英雄になりえると……」
「な、なんと! ではあの男が……」
ゼルドの言葉に頷くお父様はカーシャに手を差し伸べるセト様を見て言った。
「ワシはその時本当の事だとは思わず半信半疑で聞いていたが今なら信じられる。間違いない」
カーシャとセト様の元へ皆が集まると私は俯いているカーシャに優しく話しかけた。
「カーシャ……そんなに悲観する事はありません。セト様はもはや勇者でさえ敵わない人なのですから」
「姫様……優しいお言葉をありがとうございます……なるほど通りで強すぎるはずです」
「あのカーシャが手も足も出ないとはな! セトよ見事だ! マーナとの結婚を許そう!」
お父様の言葉に私は嬉しすぎて思わず涙が溢れてしまった。
「お父様! ありがとうございます……私は幸せです」
「王よこれからの事を話したい」
ゼルドが興奮冷めやらないお父様に話しかけるとお父様がそれに頷く。
「うむ、では場所を変えるとしよう」
場所をある一室に変えるとゼルドは早速私を狙った犯人探しをお父様に提案した。
「王よ姫が生きていたと知った今昔命を狙った者がまた行動を起こすかもしれん」
ゼルドの言葉を聞いたお父様の顔は燃え上がるような怒りを見せていた。
「分かっている……何としても捕まえてやるさ」
「……お父様、私達に提案があります」
私は前に話し合った策を聞かせるとお父様は心配なのか腕を組み考え込んでしまった。
「お父様大丈夫です! セト様と心強い仲間がいるんですもの」
私の自信たっぷりな言葉がお父様に伝わったのか顔を少し緩めて首を縦にしてくれた。
「分かったよ、お前がそういうなら信じよう」
そして話が終わると私は久しぶりに城の住人との再会を果たそうとお父様と一緒に部屋を出て行った。
私には早く会いたい人がいた。ソワソワとしているのをお父様も分かっているといった顔でそこへ連れていってくれた。その途中懐かしい廊下から見える庭……いつもあそこで槍の練習をしていた事を思い出して足を止める。
「お前があそこで槍の練習をしていたのをよく覚えている……最初は困ったものだと呆れていたがいつしかそんな姿が城の者を惹きつけていた。病に倒れてからその姿が無くなると城全体が暗くなっていたものだ」
お父様は庭を見ながら昔を思い出すように遠い目をしていた。
「私は守られるだけの存在になりたくなかった……だからあの頃は強くなろうと必死になっていたんです」
「その強い精神があの憎っくき病に抗い続けてくれたのだな」
再び歩き始めると段々と胸の鼓動が速くなるのを感じていた。そして扉の前に立つと震える体を抑えようと深呼吸する。お父様は嬉しそうに扉を開け私は中に入って行った。
「あ……お、お母さま……」
数メートル先には少し老いたお母様が涙を流して立っていた。
「マーナ……本当にマーナなのね……」
「お母様ぁー‼︎」
大好きなお母様に涙でクシャクシャな顔で飛びついた。
「うぅ……こんなに嬉しい事がまた来るとは思わなかった……」
お母様の体から伝わる温もりが懐かしく私は涙が止まらなかった。
しばらくそのままいると泣き止んだ私はお母様の顔を見た。随分と痩せている事に胸が締め付けられた。
でもお母様は笑顔で私を見ているあの頃と同じ優しい顔に私も自然と笑顔になれた。
「お母様、ただいま帰りました……」
「おかえりなさいマーナ、よく顔を見せて……こんなに生き生きとして……」
「はい……ある人のお陰で……」
「いい仲間に巡り会えたのね」
「はっはっは! 聞いてくれ! マーナに婚約者が出来たのだ! マーナはその男に夢中のようだぞ!」
横からお父様が嬉しそうに声を上げると私はセト様の顔を思い出して顔が熱くなってしまった。
「まあ! あのおてんばでやんちゃな女の子がもう……良かったわねマーナ」
「はい……私は人生で今が一番幸せです」
「マーナにそんな顔をさせる男性に早く会いたいわ」
その後宴が始まるまでの時間今まで離れていた時間を埋めるように家族でずっと話し込んだ。
私は今までの事をすべて話した。辛かった事、その後起こったセト様と出会えた奇跡の話を……。