51話
ホーネス王国の一室ではこの国の王ガルスが勇者の進捗状況について報告を受けていた。
「昨日レスナ殿の勇者パーティは3つ目の装備を取り終わったとの事です、しかし被害は大きく勇者と僧侶を残して他の冒険者は死亡したとか」
「そうか……後ひとつ何としても勇者を死なせずにいかねばならん。ギルドへなるべくレベルが高い冒険者を多く集めるように要請を!」
「はっ!」
ガチャ!
兵が部屋を出て行くと入れ違いに家臣のひとりが入って来ていた。
「陛下、ゼルド殿が面会を希望していますがどう致しましょう? 何でも緊急の用という話です」
「久しぶりに聞いた名だ……分かった、通せ」
俺達は城に入りゼルドの後に付いて歩いていた。
「ゼルド殿が入ります!」
大きな扉まで来ると前にいた若い兵士の声に反応する様に扉が開かれた。
部屋に入ると奥の椅子には初老の男が座っていた。酷く疲れているのか顔色は悪く体も少し痩せているように見えた。
「ゼルドよ久しいな」
「もうここに来るとは思ってもいなかったがのう」
「もうあれから3年か……はやいものだな」
王は何か思い出したのか少し表情が険しくなっていた。
「何か緊急の用があると聞いたのだが? そういえば後ろの面々は誰だ?」
ゼルドはこちらへ振り向くとマーナに目で合図をした。
スッとマーナは前に出て真っ直ぐに王を見た。
「ああ……そんな……マーナ!」
「ただいま帰りました……お父様」
王とマーナはタイミングを合わせるように互いに駆け寄ると抱きしめ合った。
「これは夢ではないのだな……死んだとばかり思っていた」
「うう……」
死んだと思っていた娘に突然再会した王は涙を流しマーナの顔をじっと見つめていた。
「大きくそして美しくなったなマーナ」
「はい、あの病も治り元気になりました……」
「何と! あの病が治ったというのか⁉︎」
「あの方……セト様に治して頂きました」
マーナは俺を見て王にそう言った。
「どなたかは分からないが感謝してもしきれん、礼を言う」
「いえ……困っている人を助けるのは当然の事です」
「ガルス王よこれからどうする? マーナ王女が生きていた事を公表するか?」
「当然だ! マーナは私の後を継ぐべきだ!」
「お父様! 私は女王になるつもりはありません!」
「何故だ! お前にはその器がある! 他のふたりの王子など王妃のいいなりなだけで頼りないのだ」
「私は今これまでで一番幸せなのです! それはこのセト様が側にいるからです!」
マーナは俺の側に来ると王に向かって言った。
「その者は何者なのだ?」
「この方はあのカイアス様に認められるほどの強者です。強さもさることながら人の幸せを願う大変素晴らしい心の持ち主です!」
マーナにそこまで言われるとかなり恥ずかしくもあり嬉しくて顔が熱くなる。
「マーナを救ってくれた事は誠に感謝しているが、ではその男に付いて行くというのか!」
「はい!」
王はマーナにハッキリとそう返されると黙り込んでしまった。
まあ俺が同じ立場だったら納得できないよな……俺だったらなんていうかな、そうだな……。
「ではその男の力試させてもらおうではないか!」
うんうんそう言うよな……って⁉︎
俺は頭でこう言うだろうと考えていたセリフがそのまま王の口から出ると少し驚くのが遅れてしまう。
「ワシは自分で見ないと気が済まないのだ! どうするかね?」
「分かりました……お受けします」
城ではマーナが生きていた事が一気に広がると歓喜に包まれ元気なマーナの姿に涙する者も多く夜には宴が開かれる事になっていた。
そんな盛り上がる周りを目にそれどころではない俺は訓練場に足を運んでいた。
「姫ぇー‼︎」
城の中央に位置する広い訓練所に到着した俺達に物凄い勢いで近づく人物がいた。
「姫にまた会う日が来るとは……これほど嬉しい事はありません……うぅ……」
マーナの前に跪くと震えた声に目には涙を浮かべていた。
「カーシャ……ただいま帰りました」
マーナも目に涙を浮かべ目の前の女戦士を見ていた。
「カーシャよ、この国で一番強いとされるお前を呼んだのは戦ってもらいたい相手がいるのだ」
感動の再会を果たして感極まるカーシャに王は話しかけた。
「王の命とあれば喜んでお相手しましょう」
俺達と王にゼルド、カーシャのみがこの広い訓練所に立っていた。恐らく極秘にしているのだろう、俺は今カーシャという鎧に槍を構える女戦士と静まり返る訓練所の真ん中で対峙していた。
「な、なんて威圧なの……只者ではないですね」
目の前で槍を構えていたカーシャさんは俺を見て驚いている。心なしか震えているように見えたが流石一番強いと王に言われるだけあってそれを振り払うと槍を地面に突き立てた。
「小細工は無駄と見ました……全力で行きます!」
ググ……ドン!
カーシャさんは槍を曲げその反動で大きくジャンプした。
俺はそれを見て槍使いの得意とする空中からの攻撃をするつもりなのだろうと踏んだ。
カーシャさんは俺に照準を合わせたのか槍を両手に持ちスキルを唱え赤いオーラに包まれた。
「飛槍撃!」
赤いオーラ! 上級スキルか!
カーシャさんは足で空中の壁を思いっきり蹴ると加速して俺に迫った。
「はあああ‼︎」
上から俺に向かって突撃して来るカーシャさんに対して俺は両手で剣をしっかり握ると下から振り上げた。
ガギーーン‼︎‼︎
俺の剣はカーシャさんの槍の先端を捉えると力任せに薙ぎ払った。
グワァ!
「キャア!」
ズサーー!
訓練場の端まで吹っ飛ばされたカーシャさんは立ち上がることができず勝負が決まったのだった。