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50話

「ここがホーネス王国か綺麗な城だな」


 緑豊かな場所に佇む白い大きな城は息をのむ程美しく俺はしばらく絶景を楽しむように見入っていた。


「ああ、懐かしい……またここに帰って来られるなんて……」


 マーナは城を見て昔を思い出したのか目に涙を溜め感傷に浸っていた。


「まだマーナの存在は隠さないとな」


 俺は住民にマーナの顔を見られるとまずいと思い帽子を渡した。


「よし、宿屋に行って作戦会議だ! マーナ宿屋までよろしくな」


「はい!」


 マーナは帽子を深くかぶると涙を拭って元気に返事をした。


「さて、マーナを両親に会わせるいい方法はないか?」


 宿屋に部屋を取ると早速俺はエニィとマーナを交えて意見を募った。


「そうね……いきなり城に押しかけても混乱を招くだけだわ下手したら門前払いよ、誰か信用できる人に接触できないかしら」


 エニィの意見には俺も同じ考えで、だったら誰か仲介してくれる人物はいないかマーナに話を振った。


「マーナ誰か信用できる人物はいないか?」


「……私を逃してくれた家臣のゼルドか私に槍術や馬術を教えてくれた騎士団長のカーシャは信用出来ると思います」


「そのふたりと何処に行けば会えるのかしら」


「そうですね……ゼルドの屋敷は覚えています逃げる際に立ち寄ったので、カーシャは城に住んでいるので会えるのは難しいですね」


「まずはそのゼルドに会いに行こう」


「多分私がお父さんの使いで来たって言えば会ってくれるはずよ、お父さん顔が広いから」


「こういう時エニィがいると助かるな」


 そうして俺達はマーナの記憶を頼りにゼルドの屋敷へ向かった。


 途中で城下町の住人から屋敷の場所を聞くと迷わず目的地に到着することができた。


 エニィが門番にカイアス家の紋章を見せるとあっさりと中に通されたのだった。


「これはカイアス殿の御息女ほどのお方がワシなぞになんの用ですかな?」


 応接室で待っていると出て来たのは高齢の老人だった、優しさの中にも知性を感じさせる目だった。俺達を見るとソファーに座った。


「突然の訪問申し訳ありません」


「ホッホッホ、ワシはもう隠居生活をしていましてのう、残りの時間をゆったりと過ごしております」


 俺は横に座るマーナを見るとマーナは必死に涙を堪えて下を向いていた。


「ゼルド殿に会って欲しい人がいるんです」


 エニィの言葉の後マーナは被っていた帽子を取るとゼルドを真っ直ぐに見た。


「あ、あ……そんな……」


「じい……ううっ」


 ゼルドは皺くちゃの顔を更に歪めると涙を流してマーナを見ていた。


「姫……大きくなりましたな……しかも元気になられて……」


「うわぁん〜〜!」


 マーナは立ち上がるとゼルドに抱きつき大声で泣き出した。


 ゼルドは優しい眼差しでゆっくりマーナの頭を泣き止むまで撫でていた。


 マーナが泣き止み落ち着くとマーナがこの国から逃げた後の話をした。それは俺も詳しく聞いていなかった事だった。


 マーナはこの国から逃げた後追手に襲われ護衛が全滅してしまったらしい、そこで殺されると思った時たまたま居合わせたあの奴隷商人の一行が助けてくれそこでマーナは奴隷として生きていくことになったらしい。


「そうでしたか……姫申し訳ありません、さぞ辛い思いをされたでしょう」


「仕方がないわ、でもこうしてまた元気にじいに会えた」


「セト殿本当にありがとう、こうして生きている間に姫に会えたのはそなたのおかげじゃ」


「セト様には私の病気も治してもらったの」


「なんと! あの誰にも治せなかった病を⁉︎」


「俺というより薬のおかげだけど」


「いえ! それを手に入れて私に使ってくれた……セト様のおかげです!」


「それよりマーナを王に会わせたいんです、何とかできませんか?」


「ワシに任せろと言いたい所なんじゃが国は今かなり緊迫した状況にあるのじゃ」


「どういう事?」


「姫がいなくなってから国は2つに分かれてしまったのじゃ、二人の妃が自分の息子を王にするべく争っていてな」


「今は魔族が侵攻している時なんだぞ、そんな事をしてる場合じゃないだろ」


「この国ではまだ実感がないのじゃよ、勇者が必死に装備を集めている最中でもお構いなしじゃ」


「これじゃ魔族が攻めてきたら一瞬で崩壊ね」


「それに姫を抹殺しようとした奴も見つけないといかん、実はあれから姫を襲った犯人を探しておったのじゃが分からんかった」


「どちらかの妃側が怪しいと思うが」


「まあ普通に考えればそうであろうな」


「あの、私に案があります」


 マーナの声に俺達の視線が集まると話を続けた。


「私が城に行って生きていることが分かれば犯人はまた私を襲うのではないでしょうか」


「そこを押さえるって事か……」


「はい、私をひとりにすれば狙いに来ると思います」


「姫! それは危険です! もうわしはあなたに危険な目に遭って欲しくないのです……」


「ありがとうじい、でも大丈夫よ皆んな強いから」


「私達には時間がないわ、それが一番はやく終わらせることが出来る、私は賛成よ」


 エニィは俺に視線を移して言った。


「分かったマーナ、ひとりだと俺も少し不安になる、アリスとふたりで行動してくれないか?」


 幼い女の子がいても敵はなんとも思わないだろう。


「ふふ、アリスなら相手も躊躇わない、ま、相手にはご愁傷様ってところね」


 エニィはお菓子を食べるアリスを見て苦笑いして言った。


「じい明日お父様に会いに行きます」


「ははっ!」


 その後はゼルドの屋敷でおもてなしされた俺達は豪華な食事を食べて寝床についたのだった。



 ひとり寝室から抜け出す人物がいた。


 中庭の椅子に座りキラキラと光る星空を見上げていた。


「眠れませんか? 姫」


 そこへゼルドがやって来るとマーナに声をかけた。


「あの時……この国から逃げた日の夜……ここから見た空は闇のように真っ黒だった、まるで先の見えない私の人生のようで……でも今見ている夜空はこんなに綺麗で明るい……」


「姫……良き仲間に出会えましたな、あの時の姫の目は死人のようでしたが今はキラキラと輝く宝石のようですじゃ、それにセト殿に惹かれているのもすぐに分かりましたぞ」


「ふふ、セト様は死を待つだけだった私に生と幸福を与えてくれました。私はあの方に一生尽くすつもりです」


「おてんば姫だった姫が立派になられて嬉しゅうございます」


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