48話
目を開けるとそこは10階の入り口にあった安全地帯の中だった。
私は生きている……何故? あのふたりの魔族も見当たらない……。
周りにはアイナさん、ガドイン、アロンズさんが私と同様シートの上に寝かされていた。
私は隣で横になっていたアイナさんを起こした。
「アイナさん!」
「……ん」
「良かった……」
アイナさんが目覚めると心から安心して涙が頬を伝う。
「生きてる……どうして?」
不思議な顔をするアイナさん同様私もこの状況に困惑する。でもひとつ言えるのは生きているという事実で、まだこの先には幾つもの可能性があるということだった。
「分かりません……気付いたらここに運び込まれていたみたいで私達の他には誰もいませんでした」
「もしかしたらボスモンスターを倒してくれていた人達かも……」
「うっ……」
声のする方へ視線を動かすとガドインとアロンズさんが目を覚ましている所だった。
「みんな無事で良かった……」
アイナさんは心の底から安心しているようだった……それを見た私は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「今日はここで休みましょう」
その後私達は無事に最下層に辿り着くと最後の装備である剣を取りダンジョンを後にした。
アイナさんが装備を全て集めた事は瞬く間に広がり街はお祭りのような雰囲気に包まれていた。
「勇者よ! よくぞ全ての装備を集めたな! 今日は宴だ!」
ギルドに報告に来ると大勢の人に歓声で迎えられていた。
でも周りの笑顔とは対照的に私達の顔は王からの使命を成し遂げたと思えない程に暗い。装備を集めた事よりも魔族に歯が立たなかった深刻な問題に笑顔などなれるはずがなかった。
当然そんな事を言えるはずもない。
唯一の希望である勇者の装備が揃ったアイナさんに賭けるしかない状況に私は自分の不甲斐なさで落ち込んでいた。
「ありがとうございます。それでこれからどうすればいいんですか?」
「まずはカーライル王に報告に行ってもらいたい。そこで伝えられるであろう」
「分かりました」
アイナさんは全く感情がないような表情をして話をしている。そしてそれは他のガドインもアロンズさんも私も同じ……あの魔族との戦闘が私達に消えることのない悪夢を植え付けていた。
「まあ出発は焦らなくてもいい。ゆっくりしてから戻るがいい」
「いえ、そうも言っていられないので明日戻ります」
「今日は存分に楽しんでいくがいい! 皆お前達の話も聞きたいだろう」
宴が終わり真夜中になった頃私はガドインに呼ばれた。部屋に入るとアロンズさんの姿も……私は腹を割って話さなければならないと思った。
その後話し合いは日が昇るまで続けられ私達は結論を出した。
部屋に帰りベッドに入ると気を失うように眠っていた。
そして朝を少し過ぎた頃私は目が覚めた。
朝からこんなに辛い気分なのはあの時以来かもしれない……。
支度をすると昨日ガドインに言われた部屋に向かった。
部屋に入るとガドインが座っていた。無言で私に顔を向けずただ皆が集まるのを待っているようだった。
少ししてアロンズさんも入って来ると静かに椅子に座った。
アイナさんが来るまでの時間この部屋は音が無い世界になっていた。
ガチャ
そしてアイナさんが部屋に入って来るとその顔は少し戸惑いの色が見える。
「どうしたの? みんな揃って……」
ガドインはアイナさんに皆がいるとは言っていなかったようだ……アイナさんは戸惑いながら椅子に座った。
ガドインの視線が私を捉えると私は頷き重い口を開けた。
「……アイナさんに話があります」
アイナさんの顔を真っ直ぐに見た。目が合ったアイナさんは私から何か感じたのか泣きそうな顔をしていた。
「アイナさん……私達ここで旅をやめることにしました」
「え……」
「ごめんなさい……もうあなたの重荷にはなりたくないんです!」
私は悔しくて涙が止まらなかった。
昨日皆で話したのは私達がアイナさんの重荷になっている事だった……私達のせいでアイナさんを危険晒すなどあってはならない事でそれがこの後も起こるならいない方がいい……私達はそう結論付けた。
「今まで一緒にやってきたじゃない! これからみんなでもっとレベルを上げてもっと訓練すれば……」
アイナさんは食い下がらず必死に私達を説得しようとしている。
「無駄だ」
そんなアイナさんをガドインの一言が退けた。
「ガドイン……」
「いくらレベルを上げをしても圧倒的に時間が足りない……魔族と戦うのは俺達では無理だったんだ!」
ガドインは悔しさを滲ませ拳をギュッと握った。
「僕もあの戦いで思い知らされたよ。自分がどれほど自惚れていたかを……」
アロンズさんも悔しさを隠せず顔を隠すようにうつむいていた。
「分かったわ……ごめんなさいみんなの考えも聞かないで無理言って」
しばらく沈黙が流れた後アイナさんは悲しそうな声でそう言って部屋を出て行った。
「本当にごめんなさい……」
アイナさんが出た扉を見ながら私は謝っていた。
アイナさんはひとり街を出て自分を勇者に指名したカーライル王の元へ向かって出発して行った。
そして私達は旅の支度をすると街の入り口で別れの挨拶をしていた。
「皆さんお元気で」
「お前はこれからどうするんだ?」
「私はお祖父様の元に帰ります……しょっちゅう帰ってこいと言われてましたから」
「そうか」
「ガドインあなたは?」
「俺も地元に戻ってまた国を守る盾になるさ。勝手に辞めた身だからまた雇ってくれるか分からんがな」
「そうですか、アロンズさんは?」
「僕は師匠の所に行って一から鍛え直すよ」
「流石ですね……ではここで……」
「ああ、今まで助かったぞ」
「お互い様だね」
私達はそれぞれの思いを胸に別の道を歩いて行った……。