表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/114

47話

「エニィ、アイナ達は?」


 魔族を倒しアイナ達を介抱しているエニィに話しかけた。

 

「大丈夫よ気を失っているだけ……じきに起きるわ」


 倒れて気を失っているアイナ達を見ていると段々と胸を締めつけられる。


 俺達は魔族によって引き離された……それが分かった今怒りや悲しみといった感情が交錯し遣る瀬無さを感じていた。


 魔族の仕業とはいえもう元には戻れないところまで来てしまった……あの楽しかった日々はもう戻らない……。


 さよならみんな……。


「よし、安地まで運んだら帰るぞ」


 アイナ達を安全な場所に移しダンジョンを後にすると街まで帰って行った。


「さてと……もうこれからは自由だな」


 異空間の屋敷で最近お気に入りとなった柔らかいソファーに座って体を伸ばすと天井を見ながら小声で呟いた。


「セトはどうしたいの?」


 横に座るエニィの声に俺は答えた。


「やっぱり前にも言ったけど知らない土地に行ってみたいな」


「そうね〜じゃあ海が綺麗で有名なところがあるんだけどどう?」


 エニィの提案に俺は乗り気な態度を演じる……。


「海か! いいな! じゃあそこに決まりだ!」


「海ってなんだ?」


「セラニさん知らないんですか? 果てしなく続く湖のような物ですよ」


「へぇ〜凄そうだな!」


「それに美味しい魚も多くて海で焼いて食べると最高よ!」


「海行きたい!」


 コンコン


 話が盛り上がっていた所にササラさんから用事がある時の合図が耳に入った。


 何かあったのか?


「ちょっと行ってくる」


 話で盛り上がるエニィ達を置いてバルコニーに出るとスッとササラさんが現れた。


「何かあったんですか?」


「突然すいません、実はカイアス様からセト様に会いたいと伝言がきておりますがどうしますか?」


「分かりました、明日向かいます」


「ではそのように報告しておきます」


 用事が終わるとすぐにスッと居なくなってしまった。


 相変わらず仕事が早い。


 ガチャ


「セト、なんだって?」


「カイアスさんが会いたいって」


「何かしら……」


「まあちょうどいいか旅の話もしておきたいしね」


「じゃあ明日行くのね?」


「ああ」


 次の日俺達はカイアスさんの元に向かった。


 ガタンガタン……。


 馬車に揺られ俺は外の風景を見ながら暖かい風に吹かれていた。


 隣ではエニィが本を読み反対側ではアリスがお菓子を頬張りその隣ではセラニが幸せそうな顔で眠っている。


「穏やかね」


 隣のエニィを見ると本を閉じて俺に微笑んだ。


「そうだな……」


「いいのよセト、簡単には忘れることなんてできないわ。忘れるには……時間が必要なのよ」


「ありがとうエニィ、恥ずかしいけどまだ完全に吹っ切れていないんだ……こんな自分が嫌になるよ」


「そこがセトらしいわね、でも私達はそんなあなただから惹かれたのよ」


「みんな俺には勿体無いくらいの女性だから正直怖いよなんで俺なんかをって」


「もう! あなたは今まで周りから蔑まされていたからそう思っているだけよ! いくらレベルが高くても私はあなたの中身が好きよ」


「本当にエニィには感謝しかないよ、これからも頼りにしてるよ」


「嬉しいわ」


 そっと俺に寄りかかるエニィの体から熱が伝わり俺の心を満たしていく。


 そんな幸せな時を過ごしていると外から街に着いたとマーナの声が聞こえた。


「お父さん、お母さん! ただいま!」


「おお! エニィ〜!」


 早速カイアスさんの屋敷に向かうと玄関にはカイアスさんとエミリーさんが待ちきれないのか迎えに出ていた。


 エニィはそんなふたりを見ると嬉しそうに飛び込んで行った。


「お久しぶりです。何か用があると聞きまして」


「まあせっかく来たのだ話す事も多いいだろうし夜の食事が終わったらゆっくり話そうではないか」


「分かりました、ではそれまで寛ぎさせてもらいます」


「エニィ! あれ食べたい!」


 アリスはエニィにしがみつくとお母さんにねだる子供のように言った。


「ふふっ、じゃあ行きましょうか」


 その後豪勢なおもてなしをされるとあっという間に夜になっていた。豪華な居間にはカイアスさんを前に俺達が座っている。


「疲れは取れたかな?」


「はい、美味しい料理をありがとうございました」


「お前はもう私の息子だいつでも来ていいんだぞ? エニィの顔も見れるしな!」


 カイアスさんは笑ってるけど最初会った時とはまさに真逆だな……。


 最初の鬼のような形相を思い出して思わず苦笑してしまった。


「お父さん、用って何?」


「ああ、まずは勇者が装備を全て集めたそうだな協力に感謝する」


「まあ罪滅ぼしのようなものですから」


「君達には言ってなかったが今この国の勇者と同じように他の国でも勇者を選任して装備を集めているんだ」


「初めて聞きました」


 勇者はアイナだけじゃなかったのか……他にもいたなんて。


「東にある我がランド王国、西にあるカラナ王国、北にあるガードル王国、そして南にあるホーネス王国それぞれ装備を集めている段階だ」


「集めたらどうするのですか?」


 俺の問いにカイアスさんは穏やかだった顔を引き締めると俺を真剣な目で見た。


「セトよ会ってほしい人物がいる……」


「誰ですか?」


「この大陸の4国の中心にある街は知っているか?」


 俺はこの国から出たことがなかったけど地図くらいは見ているし一度行ってみたいと思ったことがある場所だった。


「ええ、行ったことはありませんが聖都グラスサウザですよね?」


「そうだ、そこの教祖が君に会いたいと連絡が来てね」


 教祖……この大陸で一番上に立つ人物だと分かると驚きを隠せなかった。


「なっ! 何故そんな偉い人が俺のことを⁉︎」


「すまないがこの国の王には君のことは話させてもらった。もちろん王以外には話してない」


「……」


 俺はすぐに返事ができないと黙ってしまった。


 きっと会えば魔族と戦う事になると分かっていたから……またエニィ達を付き合わせてしまう。


「セト君……君の自由をまた奪ってしまうのは申し訳ないが今この世界は魔族の脅威に晒されているんだ。どうか力を貸してくれ!」


 カイアスさんは両手をテーブルにつくと頭を下げた。


「セト、私達はあなたがどんな決断をしてもついて行く……だから自分の思うままに言っていいのよ」


 エニィは俺の迷いを分かってくれている。いやエニィだけじゃない……セラニ、マーナを見ると笑顔で頷いていた。


「会いに行きます」


「ありがとう」


「でも、その前に行きたい所があります」


「何処だ?」


「マーナを両親に会わせたいんです」


「ん? マーナ? どこかで聞いたような……」


 カイアスさんが首を傾げながら腕を組んだ時マーナが立ち上がった。


「あの……カイアス殿お久しゅうございます」


 カイアスさんはマーナを見て表情が驚きに変わり始めていた。


「ま、まさか……あなたは!」


「はい……ホーネス王国王女のマーナです」


「なんと! 生きておられたのか……最後に会ったのはあなたが10歳の時でしたな」


「はい、あの時は私のわがままで槍の訓練に付き合って下さりましたね」


「はは! マーナ王女に間違いない! 確かにあの時私はあなたと槍の訓練したのをよく覚えていますぞ!」


 そしてマーナの口からこれまでの事をカイアスさんに伝えたのだった。


 マーナの話が終わるとカイアスさんは一息ついた後話し始めた。


「そうでしたか……あなたの両親はあなたが亡くなられてからすっかり意気消沈して今では10歳も歳を取ったように見える。相当なショックだったのだろう」


「そうですか……」


「だが王女に会えば大変喜ばれるであろう!」


 その後は思い出話に花を咲かせるとマーナがいかにおてんばな姫だったのかみんな面白おかしく聞いていたのだった。


 次の日俺達はマーナを両親に会わせる為ホーネス王国に向かう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ