46話
魔族の気配を追う俺達は10階まで戻ると魔族と戦っているアイナ達を発見し岩陰に隠れた。そっと様子を見るとまだアイナ達が生きていた事にホッとする。
「良かった、間に合ったな」
「どうするの?」
エニィに聞かれた俺はすぐにでも動き出したい体を必死に抑えて言った。
「……少し様子を見る」
「大丈夫かよセト⁉︎ 危ないと思うぜ!」
セラニの言う事は最もだったがまだ蘇生薬があると言い聞かせて早く助けに行きたい衝動を抑えて見守る事にした。
そしてアイナ達が大きな衝撃を受けて気を失った瞬間俺は岩陰から飛び出すと皆に叫んだ。
「俺とアリスはアイツらと戦うからエニィ達はアイナ達を頼む!」
「分かったわ! 気をつけてねセト! アリス!」
「楽しそう!」
「頼もしいな! 行こうアリス!」
「うん!」
「まだ生きてたか……これでこの世から消え去れ!」
ヒュン!
「何⁉︎」
アリスの風魔法が間一髪の所で棍棒を振り下ろそうとした魔族の攻撃を阻止した。
「何だお前達は!」
「今度は俺達の番だ」
「本当に人間とは愚かな存在だな、自分の力も測れないとは……いいだろう! ここで朽ち果てるがいい!」
ダッ!
地面を蹴りあげ大柄の魔族と一気に間合いを詰めると攻撃を繰り出す。
「グラトバーンド‼︎」
バババババ!
「速い⁉︎ くっ!」
魔族は俺の5連撃を避けると驚いた表情で俺を見た。
「まさか人間でこれほどの奴がいたとは……だが!」
魔族の表情は先程の笑みが消えて真剣なものに変わっていた。
「今度はこちらから行くぞ!」
持っていた棍棒をブンブン! と振り回して周囲に突風を発生させると消えるように移動した。
「潰れろ‼︎」
俺の上に現れた魔族はそのまま俺に棍棒を振り下ろした。
ガキィ‼︎
剣でそれを受け止めると魔族は力任せに押し込もうと圧をかけてきた。
俺は体を回転させて受け流すと体勢を崩した魔族の横腹を蹴り飛ばした。
ドカ‼︎
「グォ⁉︎」
魔族は地面に倒れると腹を抑えながら立ち上がった。
「やるではないか!」
俺は少し楽しくなっていた。魔族の攻撃は凄まじかったが俺はそれに対応できている。
この魔族は俺と力はほぼ互角! いけるぞ!
魔族との拮抗した戦いは続きその中で俺は作戦を考えていた。
ガ‼︎
カランカラン!
避けたと思った魔族の攻撃が俺の仮面を弾き飛ばした。少し油断したと俺は心の中で舌打ちをする。
「くっ!」
「お、お前は⁉︎」
魔族の驚く声に俺は魔族を見た。あきらかに俺を知っているような様子だった。
何だ? 俺を知っているのか?
「何故俺を知っている‼︎」
「まさかあの洞窟から出てくるとはな!」
「なんだと!」
あの洞窟とは恐らく禁断の洞窟の事だろう。俺が禁断の洞窟に入ったのは突発的な事だ、それを知っているという事は監視していたということになる。
「何故それを知っているか聞かせてもらおうか!」
「いいだろう!」
魔族の視線は俺の後ろで倒れているアイナに向けられた。
「あの勇者に魔法をかけたのさ! 思惑通り不安に駆られてお前を置いていってくれた! ククク、本当は孤立したお前を殺すつもりだったが愚かにもレシナの洞窟に入っていったから死んだと思っていたんだがな! しぶとい奴だ!」
「そういう事か……」
俺は今までおかしいと思っていたことがこの魔族の話しで全て解決した。
通りでおかしいと思った……アイナがいきなりあんな事を言うなんておかしい筈だ!
「ありがとよ、お前のお陰でスッキリした‼︎」
内に湧き上がる怒りで剣を握る手が震えた。
「闘神乱撃……」
俺は怒りに任せて初めて使うスキルを唱えた。一日に一度の制約がついた俺の最強スキルが発動すると体に青色のオーラが纏わり溢れんばかりの力が与えられた。
ガ‼︎
俺の足は地面に穴を開ける程の力で蹴ると魔族との距離が一瞬で縮まる。
「何だ⁉︎」
魔族の驚きと恐怖が混じった顔が目の前に現れた瞬間、体が俺の意思を無視して魔族に襲い掛かった。
ガス‼︎ ザン! ザシュ‼︎ ドス‼︎
「ガ‼︎ グア‼︎ グ⁉︎ グァぁぁ⁉︎」
魔族の体に面白いように次々と攻撃が当たっていくと最後は胸を剣で突き刺した。
ドサ!
魔族の男を倒したのを確認するとスキルの副作用だろうか体が少しだるくなっていた。
「ちくしょう……」
魔族の手のひらで踊らされていた事を知った俺はやりきれない気持ちに苛まれていた。
「それ〜」
俺の戦闘が終わると奥ではアリスの楽しそうな声が聞こえていた。
「ぐっ! 何だコイツは⁉︎」
もう一人の魔族はあきらかに動揺しているように見える。きっとアリスの強さに驚いているのだろう。
「まさか俺が……恐怖を感じるなど……」
「もっと遊ぼうよ〜」
「く⁉︎ 」
はじめ冷静に見えた魔族の男はその面影もなく恐怖に慄いていた。迫る恐怖に後退りして体が震えている。
「なんだ〜つまんないの〜」
アリスは落胆した声を上げた。
「ひ、ひぃ」
魔族の男はアリスを見て顔を歪ませると悲鳴を上げた。
「もういいや、バイバイ」
「ああー‼︎」
アリスに慈悲はなく、つまらなそうに魔法を唱えると躊躇なく魔族を消し去ったのだった。