45話
「雷光剣‼︎」
バチバチ! ザシュ‼︎
私が最後のモンスターをスキルで片付けると皆が集まって来る。
「後少しだ、今日のうちに一番下まで行けそうだな」
ガドインの言葉に私は頷いてウェンディとアロンズを見ると顔色は悪くない様子だった。
「そうね、アロンズとウェンディは大丈夫?」
今日中に装備を取りたかった私はふたりにいけるか確認した。
「ああ、まだ魔法は打てるから大丈夫だよ」
「私も問題ありません」
「じゃあ行きましょう。後少しよ」
私は最後の装備に近づくにつれてソワソワとして落ち着かない。
これで勇者の装備が無事に揃えられれば魔族に迎え撃って出れる……そう思うと一秒も無駄にしたくなかった。
ザッザッ
私達の足音だけが響く中10階に降りてから何か嫌な違和感を感じていた。それはどんどん大きくなっていって寒けがする。
怖い……本能が先に行くなと言っているようで足取りが少しずつ重くなっていくと、とうとう足が石化したように動かなくなってしまった。
「アイナさんどうしたんですか?」
ウェンディの声が聞こえて顔をあげると皆が振り向いて私を見ていた。
皆より少し離されている事に気付くと重い体を動かして皆の元に近づいて行こうとするが足が動かない。
ズズズ……。
「誰⁉︎」
その時奥で蠢く闇を見た私は叫んでいた。
「どうしたんだ? 誰もいるわけないだろ?」
ガドインが不思議な顔で私に話しかけているのは分かったがその声は全く耳に入らない。
ズズズ……。
目の前に黒い霧がたちこめると流石にガドイン達も異変を感じて戦闘態勢に入っていた。
「なっ! 誰だ⁉︎」
黒い霧が晴れるとそこに2人の男が立っていた。
頭にはツノが生えダンジョンが薄暗いとはいえ肌が黒く見えた。その内のひとりが私を見て言った。
「俺達の存在を感じとったのは一人か……お前が勇者だな?」
「あの姿……あ、あれは魔族です‼︎」
ウェンディが青ざめた顔で叫ぶ。
「何でこんな所に……」
あれが魔族……私達がこれから戦う相手……何て恐ろしい威圧なの……。
「お、俺達を抹殺しに来たのか‼︎」
ガドインの言葉に魔族は薄ら笑いを浮かべた。
「くくく、そういう事だ。悪いがここまでだ」
「みんな気をつけて! 今までとは比べられないほど強い!」
私は初めての魔族戦に恐怖と不安で押しつぶされそうになる。まだ勇者の装備が揃ってないのがそれに拍車をかけていた。
それでも私はここで死ぬわけにはいかない!
自分を奮起して剣を構えると薄ら笑いを浮かべる魔族を睨んだ。
「ふん! 人間ごときが‼︎ すぐに葬ってやる!」
「油断するなよランザ! ガザがやられた相手だ。何か奥の手を持っているかもしれない」
「分かってる、何かの間違いだと思うがな! さあ行くぜ‼︎」
魔族の大きなガタイの男は棍棒のような重そうな武器を軽々と扱い想像以上の速さでこちらに迫った。
「オラァ!」
武器を振り下ろす魔族にガドインが前に出て盾で受け止めた。
ガン!
「が⁉︎」
私はその威力に絶望した。
ガドインは弾き返すどころかそのまま押しつぶされるように地面に埋まっていくとその凄まじさが伝わる。
「アイナさん!」
ウェンディの声に我に返った私はガドインの援護に向かった。
「雷光剣‼︎」
雷で相手を痺れさせ稲妻如き一撃を放つこのスキルで今まで幾つもの難敵と呼ばれるモンスターを倒して来た。
「何だぁ! 効かねえな!」
それが全く効かなかった時私は動揺が隠せなかった。
「そ、そんな……」
何で動けるの……何で……。
「俺が出る幕はなさそうだな」
もう一人の魔族の男が言った言葉が頭に反響する。
私はここで死という言葉が頭によぎった。
でも諦めない! 私は最期まで抗う!
「みんな! 行くわよ‼︎」
私はみんなにそう叫ぶと再び魔族に向かっていった。
ガス!
重い一撃が私の肩に入るとそのまま吹っ飛ばされ床に叩きつけられた。
「キャア!」
「やはり勇者など俺達の敵ではないな!」
まだ少しの時間にも関わらず私達は床に転がっていた。やっぱり敵わないと思い知らされる凄まじい攻撃を受けて……。
「くっ! これが魔族なのか……」
「私達はこんなものを相手にしなければならないのですね……」
「お手上げだ……」
ガドイン達は既に戦意喪失状態になっていて戦っていたのは私だけだった。でももう立つのが精一杯。
「そろそろ飽きたな、俺がトドメを刺してやろう」
今まで傍観者だった魔族の男は手をかざすと何かを唱えた。
ゴゴゴ!
地面が揺れ始めると、とんでもない攻撃がくる予感がした。
「みんな離れて!」
ガドイン達に叫ぶ私の声虚しく皆はボロボロで動く事が出来ない。
「死ね!」
魔族から放たれた黒いエネルギー体はガドイン達の方に向かっていった。
「ダメ! 死なせない!」
「来るなー‼︎」
ガドインの言葉も聞かず私は皆の元に戻った。
ダメだった……みんなを失いたくなかった私は勇者失格と言われてもしょうがない行動をした。
そして最後の力を振り絞って放たれたエネルギー体を防ごうとスキルを放った。
カッ‼︎
ドゴォーーー‼︎
私のスキルで手前に落ちた黒いエネルギー体はそこで大きな衝撃を起こして私達を襲う。
「ぐぁあ‼︎」
「キャア!」
「ああ!」
私の意識が薄れていく……。
ごめんねリアン……あなたの所に行けなかった……。