44話
次の日俺はみんなを異空間に残し単独でアイナ達の様子を見ていた。
「なるほど3つのダンジョンを乗り越えただけあって動きが以前とはまるで違うな……」
アイナ達の闘う姿を見ていて少し寂しい気持ちになっていたのは否定できなかった。
俺がいなくて連携がうまくいってないんじゃないか?
パーティからいなくなって後悔してるんじゃないか?
……心の奥でそう願っている自分がいた。
その願いも虚しくアイナ達はそれを補おうと必死に戦っていた……まるでもう俺の居場所はないと突きつけられるような、そんな感じがして早くこの場を離れたかった。
その気持ちが通じたのかアイナ達がテントの準備を始めたのですぐにその場を離れていった。
「おかえりセト!」
いつものようにアリスが天使な笑顔で俺を迎えてくれるとモヤモヤした気分も晴れていく。
最下層のボス部屋に帰るとみんなで何かしていたようだった。よく見るとあたりは戦闘の跡を残してアリス以外のメンバーは床にひれ伏して息を切らしていた。
「ただいま、何かしてたのか?」
「う、うん、みんなで戦闘訓練してたのよ」
エニィが重そうな体をあげてそう答えるとマーナが続けて口を開いた。
「はあはあ、セ、セト様のお役に立ちたくて私からお願いしたんです」
「くぅ〜! アリスにみんなで挑んだんだけど全然攻撃当たらないし遊ばれちゃってたな」
セラニは悔しそうにそう言うと倒れたまま天井を見上げていた。
「私楽しかったよ!」
アリスが笑顔で答えるのを見て何故か体が疼く。
俺もアリスに挑んでみようかな……きっと力の差を思い知らされるんだろうな……。
エニィ達はアリスとの模擬戦の反省会を始めると楽しそうに話し始めた。
そんな光景を見ているとさっきの寂しさもいつの間にか綺麗に消え去っていた。改めて仲間が増えた事に心から良かったと思える。
そう俺にはこんなに素晴らしい仲間がいるんだ……。
「じゃあ隠し部屋で成果でも見るか!」
俺は嬉しくなると皆に声をかけた。
「「「おー!」」」
皆を見るとまだやれるといったやる気に満ちた表情になっていた。
「アリス、入り口まで頼むな」
「うん! こっちだよ!」
アリスは嬉しそうにかけて行った。
ゴゴゴ!
隠し部屋の入り口は今まで通り何もない壁から姿を現し重たい扉が少しずつ開いて行った。
「暴れるぞー!」
アリスは一足先に階段を降りて行く。
「さて……俺達も行くか、アリスがボスを倒すだろうから俺達は道中の雑魚を連携して倒して行こう」
「おう!」
「セト、みんなの指揮よろしくね!」
「よろしくお願いします」
「任せろ! 行こう!」
ゾロゾロと階段を降りて行くと早速遠くの方で大きな爆音が鳴り響いていた。アリスが嬉しそうに暴れてると想像してフッと頬が崩れた。
ザッザッ!
「お! 早速お出ましだ」
奥の方にモンスターがいるのを確認すると俺は剣を手に指示を出す。
「アイツは素早いから前衛の俺とマーナで追い詰めてエニィの矢でトドメを刺すぞ! セラニは他のモンスターが合流しないように警戒しててくれ!」
「了解!」
「やってやるぜ!」
「練習の成果セト様に見せます!」
そうして俺達は戦闘をこなしながらボス部屋へ向かって行った。
奥へ進んでいくと大きく開いた扉が出現した。
ボス部屋に辿り着くと既に扉は開いており中へ入るとアリスがお菓子を食べて俺達を待っていた。
「どうやら終わったみたいだな」
「うん! 楽しかったよ!」
「よし、じゃあお宝を集めよう」
「楽しみね!」
エニィはウキウキとそこらへんに落ちているアイテムに向かって歩いて行くとセラニとマーナも後に続いた。
「おお! 凄え‼︎」
「キャー! これ可愛い〜」
落ちているものは全てレアな物ばかりだからか驚く声があちこちで聞こえてくるのを耳にしながら俺も参加する。
「これが最後のガイアの装備か?」
俺は宝箱に収められた白銀に輝く剣を手に取った。
アリスに後で鑑定してもらおうとそれをしまうと皆で元の部屋に戻って行った。
大丈夫だと思うけど一応アイナ達の様子をもう少し見たら帰るか……。
「今日はもう休もう、異空間発動!」
「そうね、今日はいっぱい動いたから疲れたわ」
ビリビリ!
ゴウォ‼︎
「そっちに行ったぞ!」
「私に任せて!」
ガドインの声に反応したアイナは向かってきたモンスターに剣を振り下ろす。
ザンッ‼︎
「グガァ‼︎」
アイナの剣でモンスターは体を一瞬で切り刻まれ絶命した。
俺は再びアイナ達の元に今度は皆を連れて戦闘を見守っていた。ここは9階で後1つ降りれば最下層というところまでアイナ達は来ていた。
ここまで来ればもう大丈夫だろう……。
「終わったな……」
「セトはよく頑張ったわ」
何とも言えない複雑な感情にいた俺をエニィは褒めてくれた。
「そうだな!」
「セト様は凄いですね尊敬します」
無事に最後のダンジョンが攻略されるのも確実となり皆が俺に労いの声をかけてくれると今までの旅が報われた気がした。
そしてこれからの人生を楽しむと心に決めた。
「よし! 帰るか!」
戦闘を繰り広げるアイナ達を背にその場を離れていった。
一階まで戻った時だった。
ゾク!
俺は物凄い悪寒に襲われ思わず立ち止まってしまった。
そして恐ろしく異様な気配を2つ感じるとそれを探ろうと神経を集中する。
この気配……似ている……まさか⁉︎
「どうしたのセト?」
急に黙ってしまった俺が心配になったのかエニィが心配そうな顔で俺を見ていた。
「どうやら何者かがこのダンジョンに入って来たみたいだ……多分魔族だ思う」
「魔族だよ!」
アリスが嬉しそうに声を上げる。
「え⁉︎」
「マジかよ⁉︎」
エニィとセラニの驚いた大きな声が辺りに響き渡った。