43話
いつもの通り逃げて行くモンスターを見ながらあっという間に最下層に辿り着くと俺達はボス部屋の前にいた。
「さてと、ここからはボス戦だ皆んなで連携をとって倒すぞ」
「緊張しますね……」
マーナは初めての戦闘とあって緊張した面持ちで槍を両手でギュッと握っている。
「マーナ、大丈夫よみんな凄く強いから」
「おう! セトとアリスに敵うやつはいねえよ!」
エニィとセラニの言葉にマーナは少し表情を崩して頷いた。
いきなりボス戦にマーナを担ぎ出すわけにもいかないのでマーナの震える後ろ姿に声をかけた。
「マーナは戦闘を見ていてくれ、いきなりボス戦は危険だ」
「はい、皆さんお気をつけて」
ゴゴゴ
扉を開けて鼻歌混じりに歩いていくアリスを除いた俺達は慎重にゾロゾロと中に入ると部屋の柱に火が灯り始めた。
ズドン! ズドン!
奥から地響きを鳴らしながら大きなモンスターが2体姿を現した。一体はこちらに気づいたのか一直線に向かって来ている。
「今回は魔族はいないか……」
俺はまた魔族がいると警戒していたが気配がないのでホッと息を漏らした。
「つまんないの〜」
アリスは戦いたかったようだ……ガッカリした声を上げる。
最近分かったがアリスは強い相手を欲している。
ただ純粋に戦いが好きなのかそれともただ暴れたいだけなのか分からない、でも驚くべきはその戦闘での引き出しの多さだ。
あの禁断の洞窟に長い期間いただけあってアリスの豊富な戦法がスキルによる魔法だけでないのも分かってきた。
アリスは水のスキルを持っていたのだ。
水を凍らせて鋭い刃に変えたり壁を作ったりと、もはや隙がない状態だ。
最近俺の頭ではどうアリスと戦ったらいい勝負ができるか模擬戦を想像しながら考えるようになっていた。
まあ、勝てる可能性はゼロに等しいけどそれが今後の冒険で活かせればいいと諦めずに思考を巡らしている。
「じゃあセト、指示をお願いね!」
エニィが弓を取り出して俺に指揮を任せると後方に移動した。
「ああ、いつも通り後方にエニィ前方にセラニの布陣で行くぞ!」
「よっしゃ〜!」
やる気十分な声を出すセラニの後ろを俺が陣取り向かってくるモンスターを迎え撃つ。
「私アイツと戦う!」
アリスは楽しそうにまだ奥でモタモタしているもう片方のモンスターの方へ飛ぶようにサーッと向かって行った。
「セラニ! モンスターの攻撃を弾いて隙を作っていくれ! エニィはモンスターの足を狙って動きを制限するんだ!」
「分かったわ!」
「セラニ! 護りのスキルを!」
「強固の護り!」
俺はセラニに指示を出すと守りを固めた。
「ゴォ‼︎‼︎」
ガン‼︎
「ここは通さないよ!」
迫っていたモンスターの突進をセラニが盾で受け止めた瞬間モンスターはのけ反る。
ザン‼︎
俺はすかさずモンスターの肩から下に剣を振り下ろした。
「オオゥン⁉︎」
ヒュヒュヒュン!
ド! ド! ドス!
俺の斬撃で体勢を崩したモンスターに追撃とばかりに後ろからエニィの矢が飛んでくると次々とモンスターの体に刺さっていった。
「いいぞ! ふたりとも‼︎」
流れるような一連の動きに俺は満足した。
そして頭ではこの後マーナの一撃が入れば一気に倒せるなと想像して少し楽しくなっていた。
動きの鈍るモンスターに更に畳み掛けて沈黙させると俺の周りにセラニとエニィが来て勝利を喜んだ。
「凄いです! あの強そうなモンスターを相手に簡単に勝ってしまうなんて!」
戦いを終えた俺達をマーナが驚いた顔で迎えた。
「流石にレベルは上がらないな」
今回のボスモンスターは今までで一番弱かった。先のダンジョンで魔族が密かに勇者が来るダンジョンにボスモンスターを配置していた事を知った。
しかしこのダンジョンにいたっては本来のボスモンスターだったらしい。もしかしたら前に倒した魔族がそれを担っていたのかもしれない……。
「私は少し上がったわよ」
「俺も!」
エニィとセラニがレベルが上がったと喜んでいる傍らマーナは困惑した表情で自分の体を見ていた。
「そういえば何故か私体が軽くなったんです、まるでレベルが上がったような……」
「レベル上がってるわよ」
「え⁉︎」
エニィの言葉にマーナは驚く。
常識ではありえない状況に固まってしまったマーナに金属板を出した。
「ほら、後でマーナのギルドカードも作らないとな」
俺はマーナに金属板を渡した。
「開け! 嘘……レベルが100になってる」
マーナは信じられない表情で金属板を凝視し板を持つ手は震えている。
「驚くのも無理はないわね、私だっていまだに信じられないもの」
「とりあえずボスも倒したしここで休もう、異空間の家があるから快適に過ごせるしな」
「テントの準備とかいらないから本当に楽になったわよね」
「セラニのおかげだな」
「いや〜照れるぜ!」
そうして俺達は異空間の中で快適な一夜を過ごしたのだった。