42話
その夜俺は異空間の屋敷で大きなベッドにひとり寂しく寝ていた。
エニィ達が珍しく宿屋の部屋で女の子だけで話し合いをしたいと言い出し俺はひとり寂しく大きなベッドで眠りについていたのだった。
「そういえばマーナが入って更に女の子だらけになったな……何を話しているんだろうか……」
そんな事を考えているといつの間にか眠りについていた。
ガタ!
「ん……」
物音がして目が覚めるとうっすらと瞼を開いた。
トストスとじゅうたんを歩く足音が聞こえて顔を横に向けた。
誰か来たみたいでまだ寝起きで歪む視界に誰かが立っていると分かると声をかけた。
「エニィか? セラニ?」
「あ……」
そこには顔を赤くして立っているマーナの姿が……。
「マーナ⁉︎」
俺は一気に目が覚めた、マーナの姿は下着一枚になっていたからだ。その瞬間俺の頭にはほくそ笑むエニィの顔が浮かんだ。
くっ! またエニィの仕業だな! だが今回はそうはさせない!
「エニィに言われたな?」
「はい……今の私にはこれしかできません」
やっぱりそうか……だけど今回はあのアイテムを使われる前に止められるはずだ!
「マーナ俺はそんな事は望んでいない、自分の体を大事にするんだ。後悔するかもしれない」
「いえ! そんな事は絶対ありません! 私はあなたにずっと付いて行きたい……だから」
マーナは真剣な顔で俺に近づいて来る。
俺の目はキョロキョロと周りを警戒し何かを探すように動くとマーナの顔には疑問符が浮かんでいた。
「どうしたんですか?」
「マーナ、エニィから何か渡されなかったか?」
「ああ、あれですか?」
セラニの時と同じ戦法で来たと確信した俺はあのアイテムを使わせないよう慎重にマーナに話しかけた。
「それを大人しく渡すんだ使ったらダメだ」
「え? エニィさんがそれをセト様が起きる前に使えって言われたんで」
「なっ!」
俺はマーナの後ろから煙が立ち込めているのを目にすると同時に体に異変が起き始めた。
エニィ……。
「セト様……私体が熱くて……」
マーナは唯一着ていたものをハラリと床に脱ぎ捨てるとベッドの上に乗った。
その瞬間逃げられない事を悟った俺は抵抗することを諦めた……。
「ん……」
大きなベッドの真ん中で目を覚ました。
「スースー」
隣からマーナの安らかな寝息が聞こえると俺はゆっくりと起き上がってマーナに布団をかけると部屋を出て行った。
「あ! おはようセト」
宿屋の部屋に行くと料理中なのかいい匂いがする。まっすぐ台所に移動すると笑顔のエニィがいつものように俺を迎えた。
「おはようセト」
「エニィ……」
「昨日はお楽しみできたかしら?」
「またエニィにやられたな、マーナをけしかけるなんて相手は王女なんだぞ」
「でもマーナもあなたに好意を向けてたし何かしたいって言うから」
「だからって」
「言ったでしょ? あなたには強力な仲間が必要なの王族を味方にできるのよ」
「逆に王族を敵に回しかねない行為だと思うけど……」
「まさか! 王女を救ったあなたをそんなふうには思わないはずよ」
「それに俺に好意を向けていたなんて全然思ってなかったけど」
「セトは鈍いから……マーナの視線はもう一目惚れ目だったわ、確認したら白状したし」
呆れた顔で言うエニィに自分が少し情けなくなる。
「でもそんなあなたも好きよ……チュ!」
それから俺は皆を集めてマーナに旅の話をした。
「そうですか……許せません! セト様を追い出すなんて!」
みんな同じことを言うな……。
「とにかくこれからの事だけど、さっき情報が入ってもうすぐアイナ達がこの街に着くみたいだ」
「じゃあ今日の夜に出発ね」
「ああ、それまで自由時間にしよう。マーナは俺と来てくれ装備を渡したいんだ」
「はい!」
異空間にマーナと入ると早速装備を探した。
「マーナってレベルはいくつ?」
「すいません私ギルドカードは持っていなくて」
「そうかじゃあこれを持ってくれ」
俺は金属板を渡した。
「これは?」
「開けと言うと自分のレベルや特殊能力が映し出される物なんだ」
「凄いですね! では……開け!」
金属板が少し光るとマーナは文字を読んでいるのか目を動かしている。
「レベルは40みたいです」
「以外と高いな、何かやっていたのか?」
「私、昔はおてんば姫と呼ばれるくらい元気な子供だったんです。その頃騎士に憧れていまして隊長をしていた槍使いの者に馬術と一緒に槍術を教えてもらいました。レベルが高いのもモンスター討伐戦によく一緒に行っていたので」
「そうか、じゃあ槍を使ってみるか?」
俺は装備の棚から一本の槍を取り出してマーナに渡した。
「こ、これは軽くて扱い易そうです。それに不思議な力を感じます」
まあ禁断の洞窟で拾った国宝級の槍だからな。
「それを使ってくれ、あとは防具だな」
俺は防具も一式用意した、これも全て国宝級の物だ。
「セト様、こんなに凄い装備を頂いてよろしいのですか?」
「ああ、マーナに怪我をしてほしくないからな」
「嬉しいです……」
マーナは涙を流して喜んでいた。
「今日は夜にダンジョンに行くから休んでおくんだ」
「分かりました、少し槍の練習をしてから休みますね」
そして夜になると俺達は馬車に乗り込んだ。
「では行きますよ」
マーナは馬車の台に座り手綱を持って俺の方に振り向くと俺は頷いた。
今まで馬車の御者を務めていた男はカイアスさんの屋敷で働いていたのをやめてこちらに付いて来てもらっていた。家族が向こうにいるって言っていたから悪いなとは思っていた。
だから代わりの人を雇ったと言ったら嬉しそうに帰って行ったのだった。
「マーナ頼んだよ」
「任せて下さい!」
「途中で休みを入れるから無理はしないでな」
「ありがとうございます」
目的地のダンジョンに着いたのはそれから数時間後の事だった。
馬車から降りると最後のダンジョンを前に俺は何とも言えない寂しさを感じていた。
「どうしたの? セト」
そんな俺を見てエニィが声をかけてくる。
「いや、これが最後だと思うとな……」
俺の旅の目的が終わる……これからどうするかは終わってからゆっくり考えればいい。
エニィは俺の手を取ると優しい口調で言った。
「何か迷っているなら相談してよね、私はどんな所でもあなたに付いていくわ絶対にね」
「そうだぜ! 隠し事は無しだからな!」
「私もあなたを支えたいです」
セラニとマーナも手を乗せてそう言ってくれた。
俺は嬉しかった。パーティから抜けてひとりになった時、もう生きる意味が無いとまで絶望していたが今は違うこんなにも俺を慕ってくれる仲間がいるんだ。
「ありがとう皆んな……行こう!」