40話
俺とエニィは貴族用なのか綺麗な内装の部屋に通されるとソファに座って待っていた。
「さて、どんな奴がいるのか……選ぶのが大変だな」
「私に任せて、これでも人を見る目に自信があるの」
エニィの自信たっぷりな発言には頷くしかない。
確かにエニィは人の心が読めるのかと言うくらい的確に俺の思っている事を当ててくるのでエニィには嘘をつけないのだ。
「そうか、なら任せるよ」
エニィが審査員ならこれほど適任者はいないだろう。
「一応面接する時の質問をセトがして欲しいの、その時の表情や目の動きを見て私が判断するから」
「分かった、その質問とやらを教えてくれ」
俺はエニィから質問事項を紙に書いていると扉から音が聞こえ受付にいた男が入ってきた。
「お待たせしました。馬車を扱える者はこの店には10人いますがもっと絞りますか?」
男の質問にエニィは首を横に振った。
「いえ、ひとりずつ話をさせて下さい」
「ではこの部屋に1人ずつ入れましょう、その中で気に入った者がいれば教えて下さい」
そして俺とエニィは奴隷と面接を始めるのであった。
一人目は大きな体をした男だったが一つ目の質問でエニィが首を振ったので次にする。
二人目は痩せ型の男だったがやはり一つ目の質問でエニィは首を振るのであった。
「やけに判断が早いな」
俺は二人目が出たところでエニィに聞いた。
「だって嘘ついてるんだもん、そんな人嫌じゃない?」
「よくわかるな、俺には分からなかったよ」
「ふふ、目を見れば分かるわ」
そして三人目は温厚そうな中年の男だった。
質問は2つ目に入るとエニィは残念そうに首を振った。
俺はそれが気になると男が部屋を出て行った後にすぐに聞いた。
「何か引っかかったのか?」
「ええ、最初はいいかもって思ったんだけど多分あの人犯罪者よ、それもかなりの大物ね」
「何で分かったんだ?」
「二つ目の質問よ、あれの受け答えが完璧すぎる……表情も変えずにまるで本当のように言っていたわ」
「俺なら完全に信用していたかもしれない」
「ふふ、大丈夫よ、私を騙そうなんて無理よ」
そうして4人目以降もエニィが首を振り続け、あと一人というところまで来ると俺は次の店に行く事を考えていた。
「あと一人か……次もエニィの審査を通るとは思えないな」
「しょうがないわ、私たちの命を預けるかもしれないのよ、妥協はできないわ」
「そうだな」
ガチャ
「ゴホ! ゴホ!」
俺は一瞬部屋を間違えたのかと思うほど馬車を扱えると思えない人物が入って来る。
「あ、あの私はサリナと言います……ゴホ」
それは俺より少し年上に見える女性だった、顔は痩せこけ誰が見てもすぐにお断りすると思う程痩せ細り俺はエニィがすぐに首を振るだろうと思っていた。
そして質問を始めると俺はエニィが首を振らずに話を聞いているのでまさかと思いながらも質問を続けていた。
「……質問は以上だ、体調が悪そうなところ色々聞いて悪かったな」
「はい……では」
部屋を出ていった瞬間エニィから思いがけない言葉が聞こえてきた。
「今の人にしましょう」
「無理だろ⁉︎ あんな体ではキツすぎるよ!」
「ねえ、セトの持っている薬でどうにかならないかしら」
「そんなに気に入ったのか?」
「あの人……私の目が間違っていなかったら多分かなりの裕福な家で育っていたと思う……大物貴族か下手をしたら王族の……」
「それが何でこんなところに」
「何か訳があるのかもしれないわ。あの病気が原因かも……」
「身分だけで採用するのか?」
「いえ、あの人馬車を扱えるわ。嘘は言ってなかったし人柄も気に入ったわ」
「そうか、エニィがそこまで言うなら」
「ありがとうセト」
そうして俺は最後に面接した女性を買ったのだがまさか買うと思わなかった店の主人であるジトールは驚いて何度も確認してきた。
そして部屋にまた女性が入って来ると契約を交わし店を出るのであった。
「とりあえず戻ろう」
「そうね」
「ゴホ……あ、あの、何故私などを? 私はこの通り不治の病を患っていましてお役に立てるか不安です」
「それを含めて買ったんだ、安心してくれ無理を強いるつもりはない」
宿屋に着くと早速俺は異空間に薬を取りに行きついでに中にいたセラニとアリスも呼んで来た。
「これを飲んでくれ」
「ゴホ、これは?」
「薬だ、それで治るはずだ」
「無理です、今までどんな薬も医者も神官でも治らなかったのですよ⁉︎ 薬が無駄になるだけです!」
「いいから飲め、これは命令だ」
「はい……」
ゴクゴク
「ああ……体が……そんな……」
女性の体は震え嗚咽を漏らして泣いていた。
「あなたの正体が知りたいの、何処で生まれて育ったのか教えて」
体が治り痩せこけていた顔も若返りを見せたように生き生きとした女性はうつむいて考えていたが決心がついたように顔を上げた。
「私は亡きホーネス王国の王女マーナです……」
「エニィの言った通りだったな、確か何年か前に死んだと国葬までしなかったか?」
王国の王女が死んだとなればその事は世界に広がる事で俺はダンジョンの情報にしか興味ないこの手の情報には無頓着だったが流石にそれは知っていた。
「亡き者にされたのね」
「はい……私が10歳の時この病に罹ると最初は治そうと色々と手を尽くしてくれたのですが治らないと判断されると秘密裏に抹殺されかけた私をお父様は国から安全な所に移そうとした途中で襲われたんです。恐らく城の中に私に早く消えて欲しい人がいたのでしょう」
「後継者争いね」
「お父様には3人の王妃がいます恐らく私の母以外のどちらかの王妃だと……」
「これからどうするんだ?」
「私はもう死んだ人間です。どうか私をあなたの奴隷として働かせて下さい!」
頭を下げるマーナを見て俺はエニィにどうしたらいいかエニィに視線を送った。
「流石に王女様を奴隷に何てできません」
エニィはそう答えるがマーナは引かなかった。
「何でもします!」
俺はマーナを国に帰そうと思った。だからそれまで馬車を任せようと決めると頭を下げるマーナに言った。
「じゃあ俺達の仲間になってくれ」
「はい! 是非私に馬車を任せて下さい! これでも馬に乗るのが得意で扱いも熟知しているんです!」
マーナは病気で萎れた花の様に貧弱に見えたが本来元気で明るい性格なのだろう。病も治りその明るさを取り戻したマーナの顔は綺麗に咲く花のように活気に満ちている。
「ああ、頼んだよ」
俺は皆を紹介すると年も近いのかすぐに打ち解けていたようだった。