39話
アイナ達がギルドに帰ったと報告を受けたのは2日後の事だった。
「勇者一行が先程帰ってきたとのことです」
「ありがとうございますササラさん」
「いえ……これも未来のご主人様の為です」
「じゃあアイナ達の行動が分かったらまた教えて下さい」
「了解しました……では」
スッと消えていくササラさんを見届けると俺は皆の元に帰って行った。
「セトおかえり! どうだった?」
宿屋の部屋に帰るとエニィが笑顔で迎えてくれた。
「ああ、朝にアイナ達が帰ってきたって」
「そう、じゃあもう出発する?」
「すまないな、もう少しだけ付き合ってくれ」
「謝ることなんてないわ、私は今が一番幸せよ」
「エニィ……ありがとう」
俺は嬉しくてエニィを抱き寄せた。
「あー! またイチャイチャしやがって‼︎ ずるい!」
後ろからセラニの声が聞こえると俺はエニィと顔を見合わせて苦笑した。
「さ、ご飯出来たから食べましょう」
皆で楽しく昼食を食べると俺達は次の街を目指して行った。
ガタンガタン!
浮き沈みの多い道を馬車が走る。
「ふあぁ……次は何処に行くんだ?」
昼寝から起きてまだ眠そうなセラニの声が背中ごしに聞こえた。
俺は青空の下で風に揺られる草原を観ながら答えた。
「次はケムナの街だな」
「あそこって奴隷の売買が盛んな街なのよ。犯罪や貧困、それに訳ありで奴隷になった人が集められているの」
俺の後を引き継ぐ様にエニィが説明をいれてくれた。
「なら少し治安が良くなさそうだな」
「その辺は大丈夫よ、よく貴族とかも買いに来るから」
「……セト!」
いつの間にか馬車に揺られて眠っていた俺はアリスに揺さぶられて起こされた。どうやら街に着いたみたいだ。ザワザワと人の声があちこちから聞こえる。
馬車から降りて街を正面に捉えると想像していたものと違う綺麗な街並みが姿を現した。
「……何か想像と違うな」
俺は頭では暗くてボロい家が乱立するスラム街のような街並みをイメージしていたが普通に綺麗な建物が多かった。まあ貴族も来るってエニィが言ってたからそりゃそうかと納得する。
「とりあえずもう夜だし宿屋の部屋を確保してから明日街を散策するか」
「そうしようぜ! 馬車旅は疲れるぜ」
セラニはお尻が痛いのかさすっている。
「今度から途中で異空間の中で休んでもいいかもな」
俺の提案にエニィが頷いた。
「それいいわね! でも異空間の存在はあんまり知られたくないわ馬車を動かす人が身内じゃないと心配ね」
「確かにな、奴隷を買うのもありか……」
「もう行こうぜ! 腹減ったぜ〜」
「私も!」
俺はセラニとアリスに手を引っ張られながら街に入って行った。
「……こりゃまた凄い家を作ったもんだな」
俺は宿屋で一番豪華な部屋を取り寛いでいたが笑みを浮かべるセラニに連れられて異空間の中に入っていた。そこでセラニに家が完成したと言われ唖然としながら屋敷のようなデカい家の前に立っていた。
セラニがちょっと来てくれと言われて来たけどまさか家が完成していたとは……。
「セラニ凄い!」
俺の隣でアリスも驚いて見ている。
「これもレベルが上がったおかげだぜ! おかげで更に物作り系のスキルが増えたんだよ」
「楽しみね! セラニ中を早く案内してよ」
エニィは早く中が見たいようでソワソワしている。
「おう! びっくりすんなよ!」
中を案内された俺達はセラニの言った通り驚くしかなく要望通りの出来に仕上がっていた。
「これはもう屋敷だな」
「そうね、一体どうやってこの家具とかお風呂なんて作ったのかしら」
さっき取った宿屋の豪華な部屋と遜色ない部屋の数々にもう宿屋なんていらないとまで思わせるものだった。
「もうここで暮らせるな」
「ついに夢が叶ったねセト」
「セラニ! 私のお菓子を置く家を建てて!」
「いいぞ! 可愛い家を建ててやるよ!」
アリスはセラニに抱きついてお願いするとセラニは頼られるのが嬉しいのか快諾していた。
そのやりとりを見て俺は心中ホッとする。アリスの大量のお菓子に胸焼けする日々が終わると思うと少し良かったと思うのだった。
これであのいっぱいの菓子を見ないで済むな……。
「どうだ? 気に入ったか?」
フカフカのソファーで横になっているとセラニの顔が俺を覗き込んでいた。可愛い顔が視界いっぱいに入っている。
「ああ、最高だよ」
「きょ、今日の夜はこの家の寝室で一緒に寝ようぜ」
セラニは顔を赤くしていた。
「あ、ああ」
そういえばこの家の寝室を見たが凄く広くてベッドも5人は寝れる程デカかったな。
「よし! じゃあアリスの家でも作るかな!」
嬉しそうに出て行くセラニと入れ違いにエニィが来ると俺の隣りに座った。
「セト、街に行きましょ?」
アリスとセラニを異空間に残して街に出た。俺と俺の腕をとり楽しそうに歩くエニィの姿を街の人々は珍しい物でも見るような視線を向ける。
「ねえ、あれって……」
「エニィ様だ! いつ見ても可愛いな〜」
「隣にいるのは噂の結婚相手かな」
「そうでしょ、あんなにくっ付いて幸せそうにしてるし」
「でも本当に仮面をしてるのね、誰なのかしら?」
「噂だとランド王国のクルド王子だって!」
「え? 私はガードル王国のカスティ王子って聞いたけど」
ざわざわ……。
何だか俺はどこかの国の王族と間違われているらしい……エニィほどの有名人なら普通はそう思うか。
「周りの視線が集まってるな……」
「私はもう慣れたわ。奴隷を見に行くんでしょ?」
「ああ、馬車を任せられる奴を探そう」
「うん! こっちよ!」
俺はエニィに手を引かれこの街で一番だと思われる大きな建物の前にやって来た。
「ここはこの街一番の店なの、ちゃんとした所だから安心よ」
エニィがそう言うなら大丈夫だな。
「分かった、行こう」
「いらっしゃいませ……これは! もしやエニィ様では⁉︎」
エニィが頷くと店員らしき男は急いで奥へと入って行った。
「おお! これはこれは!」
奥から出て来たのは大きなお腹をした中年の男だった。
「私はこの店の主人であるジトールと申します、ようこそおいでくださった!」
「奴隷を見せてもらえるかしら?」
「はは、どのような奴隷をお探しで?」
「えーと馬車を扱える人を集めてもらえるかしら」
「分かりました、では至急集めますのでそれまでこちらへ……」
俺達はそれから豪華な骨董品が飾られた広い部屋に案内された。