38話
ゴゴゴ!
ガドインが重い扉を押していくと私は一応戦闘に備えて警戒をしながら中に入って行った。
「やっぱりいないわね……」
私の声はシーンとした大きな空間にこだました。
「いないに越したことはない。装備を取って帰るぞ」
ガドインはホッとした表情で武器をしまう。
「あとひとつですね」
ウェンディはこのダンジョンで初めて笑みを漏らした。
「この調子ならいけそうだね」
アロンズはこのダンジョンで手応えを感じ自信を取り戻すことが出来たみたい。いつもの余裕ある表情を久しぶりに見た気がする。
最初のダンジョンでは最下層にやっと辿り着くようなギリギリの状態で立っていることもままならなかったあの頃と違い今では余力さえ残していた。
驚いた事に勇者の装備を求めて3つのダンジョンを攻略した期間で私のレベルが105から107に上がった……これは尋常じゃない速さだ。
普段なら一年かかるはずなのに……それほど強力な敵だったのは間違いなかった。
皆のレベルも3つ上がったと聞いたから今の状態にも納得できる。
装備を集めたらいよいよ魔族と戦う事になる。どれほどの強さなのか全く想像できないけどこの調子で強くなっていけばきっとこの大陸を守れるはず。
私は奥へ行き3つ目の装備である盾を取るとダンジョンを後にした。
翌日街に帰還するとギルド長に装備を取った事を報告した。すると周りの冒険者達から「ワァ!」と歓声が起こった。
「良くやってくれた! あとひとつだな! 今夜にも宴を用意するからゆっくり疲れを癒やしてくれ」
「ありがとうございます」
そして宴の準備がされている間ギルドの一室へ移動すると私達は話し合いを始めた。
「いよいよ最後の装備だな」
ガドインはニヤッと口元を緩ませている。
「長いようであっという間でしたね」
ウェンディの顔も最初とは変わって余裕が見えた。最後のダンジョンもいけると思っているのかもしれない。
「3つのダンジョンはさほど強さは変わらなかったから次も行けそうだね」
アロンズらしい軽快な言葉が出る。
パーティの雰囲気は以前とは真逆になっていた。
「最後のダンジョンも気を抜かずに行きましょう」
最後に私が締めると出発を2日後に決め宴に向かった。
「では、勇者アイナとその仲間達の帰還を祝おう!」
そのギルド長の掛け声と共に参加している貴族や著名人達が手に持った酒を掲げ宴が始まった。
私はこの時間が好きではなかった。
周りには多くの男達が私を囲み我先にと面会を申し出てくる。
そんな暇なんてないのに……今はこの大陸が狙われているのを知っているはずなのに誰も危機感を持っていない。
私は嫌悪感を抱くと気分が悪いと会場を後にした。
ギルドの屋上にある庭で星を見上げていると誰かが近づいてくる足音が聞こえた。
「隣いいですか?」
ウェンディの声に私は頷いた。
しばらくの沈黙が流れふたりで星を見ているとウェンディが口を開いた。
「なんで……何で周りの人達はいつも通りでいられるんでしょうか……」
ウェンディは私と同じ疑問を持っていた。
「今日来た人達みんなアイナさんは魔族と戦って倒すのが当たり前みたいな感じで……それがどんなに辛くて怖くて死ぬかもしれないのに!」
「ウェンディ……」
「それが悔しくて……でもそれを言えない自分がすごく情けなくて……」
ウェンディの震える声に私は自分の考えを話し始めた。
「人って勝手だよね……私は自分の身の周りの人達を救いたい、子供達や私達の為に応援してくれる人を救いたい……下で呑気に酒を飲んでる人なんておまけよ」
「アイナさん……」
「ウェンディひとつ聞いていい?」
「はい」
「ひとつ前のダンジョンで言ってたウェンディが瀕死状態の時にリアンの声を聞いたって話……」
「私も自分が変なことを言ってるって分かってます。でも確かにあの時薄れていく意識のなかでリアンさんが私の名前を呼ぶ声が聞こえたんです……私を心配するような優しい声だった……」
私の夢に出るリアンはいつも悲しい顔をしていた……ただ何も言わずに私を見ているだけで……。
「リアンは私を恨んでるかな……」
「アイナさん……」
「ごめんなさい! 私が弱かったから……リアンをあんな目に……」
私はウェンディに謝った。リアンが死んでから中々言えずに溜まったものを吐き出すように。
「あの時様子がおかしいアイナさんを止める事ができなかった私も悪いんです。だからひとりで抱え込まないで下さい」
そう言ってくれたけどウェンディは悪くない……私が彼を殺したの……。