37話
「おお〜これは⁉︎ 何だこの夢見たいな光景は‼︎」
セラニは散らばっている装備やアイテムの数とその豪華な内容に舞い上がっている。
「皆んなで回収してさっさと帰ろう」
隠し部屋にあった宝を手分けして回収した俺達は最下層へと戻ると早速異空間で整理を始めていた。
「皆んなで覚えられるスキルがないか探そう」
「おう!」
「楽しみだわ!」
俺達はスキル結晶の山を前に覚えられそうなスキル結晶を探し始めた。
探した結果俺は2つのスキルが覚えられそうだった。手に取るとスキル名が浮かんでいる。
「俺はこれとこれを覚えるか……」
俺は2つのスキルを唱えると結晶から光が頭に吸い込まれていった。
「どんなスキルなの?」
エニィが興味津々に聞いてきたので俺はスキルを覚えた後頭に入ってきていたスキルの効果を話した。
「瞬間移動って名前の場所を一瞬で飛んで移動できるスキルだ」
「凄い! 何処でも行けるの⁉︎」
「いや、行きたい場所に目印をしなきゃならないみたいだな、だからこれから行く場所にはいつでもすぐに戻れるな」
実はこの結晶は以前から楽しみにしていたレベル300の結晶石だったのでそれ相応の効果に俺は満足していた。
「凄い便利じゃない⁉︎ もうひとつは?」
「もうひとつは闘神乱撃っていう攻撃スキルだ、破壊力が凄いらしくて一日1回しか打てないらしい」
「制限付きなんて威力が凄そうね……」
「ああ、エニィは何かあったか?」
「うん、私は範囲攻撃する矢のスキルよ」
エニィは広矢の雨撃という広範囲に矢を降らすスキルを覚えていた。
「攻撃スキルみたいだな」
「ええ、範囲に打つ弓スキルが無かったからこれでパワーアップよ! しかもこれアリスに聞いたらレベル100以上の代物よ」
「じゃあかなり威力に期待できそうだな」
「うん、戦闘でちゃんと使えるように練習するわ」
「なあ! 俺も覚えたぞ!」
そこへセラニが嬉しそうに会話に加わってくる。
「セラニは何を覚えたんだ?」
「えーと一個は強固の陣ってやつで周りの味方も一緒に防御力が上がる防護スキルだ!」
「なるほどな、セラニは守りに特化してるから更にパーティ全体の防御が硬くなるな」
俺達には僧侶がいない為攻撃に偏りすぎていた。それをセラニの加入で守りが強化された事で少しはバランスが取れたパーティになっていた。欲を言えばウェンディのような僧侶がいたらと思ってしまう。
「そう言う事! あとは反射の構えってやつで攻撃を受けた時その攻撃の幾らかを反射するみたいだな。防具もカチカチにしてやればまさに無敵よ!」
スキル習得後に俺は宝箱にあった盾をアリスに鑑定してもらうとやはり「ガイアの盾」で間違いなかった。腕に付ける装備でなかなか使いやすそうな印象を受けた。
あと武器で全部揃うのが待ち遠しくどんな効果があるのか想像もつかないので楽しみに待つ事にした。
次の日になりアイナ達がダンジョンの最下層に近づいていたのを確認すると俺達はダンジョンを後にした。
「あとひとつ……か……」
俺はダンジョンを出ると無意識にそう呟いていた。
「セト寂しい? 勇者達に会えなくなるのが……」
エニィは俺を見て少し悲しそうな顔で聞いてきた。
「いや……俺はもう死んだ人間だから……もう決心はしているよ」
「そんな顔に見えないけど?」
エニィは俺の顔を覗き込んでいたので俺は気まずくなると馬車が来る場所に向かって歩き出した。
街に着いた俺達は宿屋に移動すると一番豪華な部屋でくつろいでいた。前はアリスと二人だけで持て余していた部屋も今や人数が増えてちょうど良くなっていた。
「ねえセト?」
ソファに寄りかかって物思いにふけていた俺にエニィが話しかけてくる。
「何だ?」
「最後の装備を勇者達が取ったらセトはどうするの?」
「そうだな……別の大陸で暮らそうかな、見たことのない場所に旅に出るんだ」
「お! いいじゃねえか!」
セラニは乗り気の様子だ。
「楽しそうね」
エニィも嬉しそうにしている。
「行きたい!」
アリスも賛成のようだ。
「じゃあ後少し頑張るか!」
そうだ、それでいいんだと俺は自分を納得させるように言い聞かせると無理矢理笑顔を作って声を出した。
「じゃあ俺は家作ってくるわ!」
「私はご飯作るね!」
「お菓子食べる!」
皆自分のやる事を言い出したので俺は異空間を出すと目を瞑りソファに寝っ転がって眠る事にした。
モヤモヤした時は寝ればそれも無くなる筈だ……何を悩むんだもう忘れろ……。
俺は心の奥で迷いがある事を自覚していた。
アイナが装備を集めたらそれで俺はオサラバできるのか?
勇者の装備を集めたからといってあの魔族に勝てるのか?
俺は……それで良いのか……。