33話
セラニは自分に起きた異変に戸惑い、セトが用意してくれた宿屋の一室でその原因を考えていた。
「俺……何でこんな変な気持ちになってるんだ?」
セトに会ってから俺……なんかおかしいぞ?
俺はあの闇組織に狙われてから色々な人を頼って逃げてきたけど面倒ごとに巻き込まれたくないからか裏切りやデカい見返りを求めてくる奴ばっかで人が信じられなくなってたんだ。
闇組織は人を道具のように扱って死ぬまで働かせるって鍛冶屋の親方から聞いていた。
俺は絶対に嫌だ! 作った装備を金儲けに使われるのは許せない! 人をモンスターから救ってくれる人の力になりたいから俺はこの道を選んだんだ。
だからあの組織に捕まったら死のうと決めていた。どうせコキ使われて死ぬんだから。
逃げ場もなくなって心も体も疲れちゃってもう終わりだって思った時だ。
突然セトが現れた……あいつ初めて会った俺を助けてくれた上に逃すのを手伝ってくれるって言ってくれた。
何で全然知らない相手にそこまでしてくれるのかって思った。そしたらエニィってのが俺の心を読んだみたいに言ってきたんだ。
「セトは誰にでも優しいから安心して大丈夫よ、そういう人なの」
それを聞いて俺は心が熱くなったんだ。
だからセトの力になりたいって思って隠れ家に残してきたとっておきの道具を取りに行ったらあの組織の奴らがいて捕まった。
何とか逃げようとしたけどまた気絶させられて気づいたら部屋に閉じ込められてた……もう俺は終わりだと思った。
いくらセトでもこんな所まで助けになんて来るはずがない……会ったばかりの俺に命を賭けてまで……。
でもセトは俺を助けに来てくれた。
セトを見た時嬉しくてただ泣いて何も言えなくて……。
コンコン
「セラニ、ちょっといい?」
エニィの声だ、何だろ?
俺は涙を拭うとドアを開けた。
「なにか用か?」
「セラニはこれからどうするの?」
俺はセトについて行きたかった。でも勝手に出て行って捕まったバカな俺を連れてくとは思えない。
「う〜ん、セトは俺を連れていくのは嫌そうだったしここの街で働くよ」
「別にセトは嫌じゃないわ。逆にありがたいと思ってるわよきっと」
「でも、考えたいって言ってたしあんなバカな事したから……」
「セトは婚約者の私に気を使ってるのよ、セラニは可愛いから私が嫌な気持ちになるんじゃないかって」
「俺が⁉︎ 可愛いだって⁉︎」
「あなた……本気で言ってるの?」
エニィは白い目で俺を見ている。
「だってそんな事言われた事ないからさ」
小さい時から俺は親父一人に育てられた。母親はモンスターにやられたらしい。
親父は無口でいつも農具を作る仕事をしてていつの間にか俺も手伝うようになっていた。この街に来ても鍛冶屋の親父の元で必死に勉強してて鍛治屋に篭っていたから他の同じ年のやつなんて全然会わなかったし男のような口調になっていたんだ。
「まあいいわ。率直に聞くけどセトの事好き?」
「え……」
いきなりエニィが変な質問するから言葉に詰まっちまった……まずい、怒られるかな? 私が婚約者だからセトは諦めろって。
「聞くまでもないか」
エニィは恐ろしい……俺の考えてる事を何でもお見通しって感じで。でも性格は良いんだよな〜やっぱセトの婚約者だと納得してしまった。
「セトにはエニィがいるからさ! 俺なんて眼中にないよ」
「セラニ聞いて、セトは将来国王のような大きな存在になるわ。だから私は奥さんが何人いてもいいと思ってる」
「どう言う事だ?」
「だからセラニもセトが受け入れるなら結婚できるって事。私はそれでも構わないわ」
諦めた俺の気持ちが復活して嬉しかったけどセトは俺を受け入れてくれるのかな……。
「セトは俺の事どう思ってんのかな……」
「そんなの本人にしか分からないわ。だからね……」
俺はエニィからとんでもない作戦を聞いて変な道具を渡された。
「さ、セトはまだ起きてるから行ってきなさい」
俺は今までで一番てくらいの緊張に襲われて小さく頷く事しかできなかった。
エニィは部屋を出て行った。
しばらく体が動かなかった……セトにどんな反応をされるか怖かった。
でもそんなの俺らしくない! 俺の気持ちをセトにぶつけるんだ!
その勢いのまま部屋を出た。
エニィからセトが通路にあるバルコニーにいると聞いてドキドキと鳴る胸を押さえて行った。
いた……。
セトの少し寂しそうな横顔……窓の外をぼうっと見ていた。
セト……。
俺はセトと一緒にいたいとこの時ハッキリと心に思った。
よーし!
俺はエニィの作戦を頭に繰り返しながらセトに近づいて行った。
いつも通りを装って。