30話
俺は朝になるとカイアスさんからアイナ達の情報を貰い明日にもこの街を出発する事を聞いた。
早速俺達は先回りする為出発を告げると屋敷の入り口ではカイアスさん、エミリーさんに見送られていた。
「またいつでも来なさい」
「エニィをよろしくねセト」
カイアスさんとエミリーさんの言葉を受け俺は頷いた。
「はい、任せて下さい」
屋敷を出るとアイナ達より早くカタッツァの街へ向けて用意された馬車に乗り込んだのだった。
「いっぱいお世話になっちゃったな、こんないい馬車まで手配してくれたし」
「余程セトが気に入ったのね。セトのおかげでお父さんとお母さんが凄く楽しそうにしてて……私そんな光景初めて見たかもしれないわ」
「良かったな」
「うん、本当にありがとうセト」
「またあのお屋敷に行こうね! あそこのお菓子が食べたいの!」
アリスは屋敷で作られる数々のお菓子を堪能していて楽しそうに過ごしていたようだ。今もその屋敷で作られたお菓子を手に持っていた。
「私も頑張ってあのお菓子を覚えるから待っててね」
「うん!」
俺達の乗った馬車は日が落ちると共にカタッツァの街へと入って行った。
「さてと今日は宿屋で過ごして明日アイナ達がここへ来たら夜またダンジョンに行こう」
「分かったわ、じゃあ明日のお昼はお買い物をしようよ」
「お菓子‼︎」
「そうだな俺もここへは初めて来たから楽しみだ」
俺達はエニィの案内で宿屋へ向かうとアリスがゴネる前に今度は潔く一番高い部屋を取るのであった。
次の日になると俺達はカタッツアの街を歩いていた。昨日この街に着いた時は特に気にならなかったが街は昼間から賑やかで人が今までの街より多くあちこちに露店が開かれていた。
「人が多いな……今日は祭りなのか?」
俺は人でいっぱいの広場を見て祭りが始まるものだと思っていた。
「ここはいつもこうなのよ。この街は職人が多く住んでてね装備とか家具とか色々作ってて安い物から高い物までここならなんでも手に入るから人が集まるのよ」
エニィはこの街に詳しいのか俺にそう説明してくれた。
「詳しいんだな、よく来るのか?」
「お父さんが武器商人だからよ。昔はよくお父さんにくっ付いて来てたわ」
「なるほどな、じゃあエニィに案内して貰おうかな」
「任せなさい! 見たい物があったら言ってね」
「美味しい物!」
「美味しいお店いっぱい知ってるから期待しててね!」
「やったー!」
美味しい物に飢えているアリスは飛び跳ねて喜んでいる。
そうして俺達は買い物を楽しんでいたが何処からか言い争う若い女性の声が耳に入り顔を向けた。
何だ?
路地裏ではその声の主である女性が数人の男達に囲まれていたので様子を見ようと近づいて行った。
「だから嫌だって言ってるだろ‼︎」
「お前の意志などどうでもいい、強引にでも連れて来いとの契約だ」
「俺は絶対に行かないからな」
「仕方ない、少し手荒いが気を失わせてでも連れて行こうか」
「くっ!」
ダッ!
ドス!
「うっ!」
女性は走って逃げようとしたが素早く動いた男に追いつかれると腹を殴られて倒れた。
「よし、連れて行くぞ」
「ぐあ!」
俺は体が勝手に動きだすとひとりの男を蹴り倒していた。
「何だお前は! 仲間か!」
リーダー格の男は俺を睨みつけている。
「こんなもの見せられて黙っていられないだろ」
「ふ、ただの勇者気取りか……やめておけ死にたくなかったらな」
「さっさとその女性を置いて消えてくれないか」
「威勢がいいな、俺はレベル80の傭兵だぞ? 勝てると思っているのか?」
「そんなのでビビってたらここに来ちゃいない」
俺がそう言うと男はニヤニヤと顔を歪め剣を抜いて襲いかかって来た。
「じゃあ死ね‼︎」
ドス‼︎
「ぐっ……」
俺は攻撃をヒョイとかわすと男の腹を思いっ切り殴ってやった。さっきの女性にやったお返しだ。
「そ、そんな……ヒィ!」
男が倒れて動かなくなると倒されると思っていなかったのか周りの男達は顔を歪めて逃げ出した。
俺は女性を抱き抱えると後ろからエニィの声が聞こえた。
「あーいた! もう! いきなり消えちゃうんだもん!」
「ごめん、ちょっといざこざを見ちゃってさ」
「ん……」
目を覚ましたのは女性と言うより歳の近い女の子のようだ。俺を見て驚いた表情をしている。恐らく仮面のせいだろう。
「わ! だ、誰だ⁉︎」
「さっきのこと覚えてないのか?」
「そうだ! 俺殴られて……助けてくれたのか?」
「まあな、じゃあ気をつけて帰れよ」
俺がそう言って立ち去ろうとすると女の子はガバッと俺の腕を掴んでいた。それは必死さが伝わるような力強いものだった。
「頼む! 俺を匿ってくれ!」
そう言って俺に懇願する女の子の口調は男のようだったが顔は女らしく可愛いかった。何より胸が主張しすぎてどうしても目がいってしまう。
ぎゅう〜!
女の子は俺の腕を胸で挟むように押し付けていた。
絶対わざとやってるな……。
「いいじゃない助けてあげましょう」
エニィがそう言うと俺もそのつもりだったので必死にしがみつく女の子に言った。
「分かったから離れてくれ」
「あれ? 嬉しくないのか?」
やはりわざと胸を押し付けていたらしい。女の子は不思議そうな顔で俺を見た。
「あのな……まあいいやとりあえず場所を変えようか」
俺は嫌じゃなかったが隣にエニィという婚約者がいるのにそんな事言えるわけないだろ! と言いたかったがそれを飲み込むとその場を後にした。