25話
「ふぁ〜何か昨日のセト達の戦闘を見た後だと勇者達の戦闘が大したことないように見えるわね……」
俺の隣でエニィがつまらなそうにあくびをかいて座っている。
アリスとエニィを連れて遠くからアイナ達の戦闘を見ていたが戦況は深刻な事態になりかねないほど悪くなっていた。
「まずいな……」
「どうしたの?」
俺が無意識に呟いていた言葉にエニィが反応したのでアイナ達のいる場所を指して説明をする。
「あの場所は広くてちょうど3つの道が合流しているからモンスターが多いんだよ、戦っている音でどんどんモンスターが集まってくるんだ」
「そっかぁ、それでいつまでも戦闘が終わらないのね」
「ああ、冷静に考えれば場所を変えて仕切り直すのが最善なんだけどな。皆次第に動きに精細を欠いてきている……このままだと全滅もあり得るぞ」
「どうするの?」
「エニィ、アリス、悪いんだけど2つの道から合流してくるモンスターを倒して合流できないようにしてきて欲しい。俺は状況を見ながら行動するよ」
「うん!」
「分かったわ!」
アリスとエニィがそれぞれ入り口に向かって移動して行ったのを見送ると俺はアイナ達を監視しながら気づかれないようにモンスターの間引きを始めた。
その時だったウェンディの叫び声が聞こえ俺はウェンディがいた方向に視線を動かすとアイナがウェンディの名前を必死に叫び抱き抱えて泣いていた。
「ごめんなさい……ウェンディ」
アイナがそう言ってガドイン達に合流したのを確認した俺はすぐにウェンディの元に駆け寄るとそっと体を抱き起こした。
痛々しい傷を負ったウェンディに心が痛む、急いで蘇生薬を取り出し蓋を開けた。
「ウェンディ……君はこんな所で死ぬような人じゃないだろ?」
俺の声が聞こえたのか分からないがウェンディの目から涙がスッと落ちた。
「これを飲むんだ」
薬をウェンディに飲ませようとしたがウェンディはもう微動だにせず飲む事ができない状態だった。
「しょうがない……悪く思わないでくれ」
俺は口に薬を含むと口移しにウェンディの体に流し込んだ。
「うっ……」
さすが蘇生薬とあってありえない早さで傷が治っていった。やがてウェンディの呼吸が安定するのを確認した俺はその場を離れた。
「ふたりともありがとう」
アイナ達が場所を離れると俺もふたりと合流しお礼の言葉をかけた。
「セト聞いて! 凄いのよこの弓! 攻撃力が高くて勇者達が苦戦してたモンスターも一撃よ! それにこの服も全然ダメージを受けないの!」
俺と合流したエニィは装備の凄さを興奮しながら怒涛の勢いで話し始めた。
「そうか、良かったよこれでエニィも立派なパーティメンバーだな」
「うん!」
「ねえセト! 早く隠し部屋に行こうよ!」
アリスは雑魚ではもの足りなかったらしく力を持て余しているようだ。俺の手を引っ張っておねだりを始めた。
「場所は分かるか?」
「うん! こっちだよ!」
アリスは嬉しそうに歩き出すと俺とエニィは後を付いて行った。
アリスの足が最下層の入り口で止まったのを見て前回のダンジョンでも同じような場所に入口があったのを思い出した。
「やっぱりこの辺りなんだな」
「よいしょ!」
アリスはなにもない壁に手をつくとゴゴゴと音を立てて壁が動き出す、冷たい空気が扉の隙間から流れてくるとエニィは身震いしながら暗い隠し通路へ向かった。
「へぇ〜よく見つけられたわね」
エニィは感心した様子で扉から闇に包まれ少し先さえも見えない暗闇の中を覗き込んでいた。
「ここからは強いモンスターの巣窟だからな、油断するなよ」
「分かったわ! セトもちゃんと私を守ってね」
「任せろ」
うずうずしているアリスは臆する事なく暗闇の奥へと吸い込まれていくと俺はエニィと頷き合いアリスの後を追って行った。
持っていた灯りで辺りを照らしながら進んでいく、何匹かモンスターの気配が俺の頭に警笛を鳴すと立ち止まって後ろで俺にピッタリとくっ付いているエニィを見た。
「エニィ、ここから戦闘が始まる、出来るだけモンスターと間合いをとって俺を援護してくれ」
「分かったわ! 行きましょ!」
エニィは俺から少し離れると弓を手に気合を入れていた。
「よ〜し! 暴れるぞ〜」
アリスも気配に気付いていたのかやる気満々にそう言って一足先に奥へ走って行ってしまった。
俺とエニィはモンスターを倒しながら奥へと進んで行ったが奥では暴れているだろうアリスが激しい戦闘音を轟かせていた。度々奥から眩い光と地面からくる振動に爆音が加わり体に伝わってくる。俺はアリスが暴れている姿が手に取るように分かると苦笑してしまう。
「私達の出番あるのかしら……」
エニィは進む途中にあちこちに転がっているモンスターを横目にそう言った。
「まあアリスは強すぎるからな、これでも本気を出してないんじゃないか?」
「あの子本当に何者なのかしらね、味方であればいいんだけど」
「アリスが敵だったらこの世界は終わりだよ、そう願う他ないな」
実の所俺はレベルが500になったとしてもアリスに勝てないと思っていた。アリスは魔法だけではなく素早さもケタ違いで瞬間移動のように動き、目で追えない時がある。その上アリスが使う魔法も全てを見ていない俺はどんな魔法が来るのすら読めず対処するのは無理に近いだろうと踏んでいる。
やがて爆音もなくなり静かになった頃、大きな扉の付いた部屋に入ると奥にいたアリスは嬉しそうな笑顔で俺達に駆け寄って言った。
「ボス倒したよー! 楽しかった!」
アリスの後ろを見ると戦闘でできたであろう穴が所々に空いている。
「早すぎだろ……どんな奴か見てもいないんだぞ……」
「大きな足がいっぱいあるモンスターだったよ!」
「セト、あっちに色々落ちているわ! 行きましょ!」
唖然としている俺の手をエニィに引かれると落ちているお宝を見に行った。
「す、凄い……宝石に結晶、装備まで見たことない物ばかりだわ」
「とりあえず異空間に入れて後でアリスに鑑定して貰おう」
「そうね、ここだとなんだか落ち着かないわ」
隠し部屋のボスモンスターがいた場所とあって禍々しい雰囲気が残っていた為俺達はお宝をさっさとしまうと奥にある出口を目指した。