21話
私達はカタルの街に辿り着くと早速ギルドへ向かっていた。
「よく来たな勇者アイナよ! 国から話は聞いている協力は惜しまんからな!」
ギルド長さんはアイナさんにそう言うと私達を笑顔で迎えてくれた。
「ありがとうございます。 早速明日ダンジョンに行きます」
アイナさんの顔には相変わらず笑顔は無かった。
「頼んだぞ!」
ギルド長からダンジョンについて話を聞いた私達は案内された宿屋に入っていた。
「次はメキナの洞窟か……さっきの話だとかなりの高難易度ダンジョンみたいね」
アイナさんが話を始めると私は顔を向けた。
「……マキナのダンジョンよりさらに難しいとなると……いつ誰が死んでも不思議じゃないな」
ガドインの死という言葉を聞いた瞬間アイナさんは過剰に反応した。
「そんな不吉な事言わないで!」
明らかに冷静を欠いているアイナさんに私はたまらず口を出した。
「いえ、アイナさん。それはこの旅が始まった時皆覚悟している事ですよ」
私はもちろんガドインもアロンズさんも覚悟はできていた。それはしょうがない事で世間では高難度ダンジョンとなると死人が出るのは当たり前だと認識されている。
「私が絶対皆を死なせないわ……」
「アイナさん……」
私はあれからアイナさんの表情に余裕がなくなっているのが気になっていた。
「いずれにしろ明日は慎重に進むぞ。場合によっては仲間を増やすことも考えたほうがいい」
ガドインは譲らないアイナさんにかける言葉が見つからないのか話を逸らした。
「そうですね。仲間は多い方が得策ですしギルドに少し相談してみましょう」
私が話が終わるとアイナさんは立ち上がり暗い表情のまま部屋を出て行ってしまった。
「あんなに張り詰めて大丈夫かな?」
アロンズさんはアイナさんが出て行くのを目で追いながら普段言わないような心配する言葉を口に出すと私も心配になりアイナさんが出ていった扉を見ていた。
「笑顔もなくなりましたね……」
以前とはまるで違うアイナさんの様子に私は心配していた。アイナさんは装備を早く集めることしか考えていない様子で普段でも笑うことは無くなっていた。
「あいつが死んだ後からずっとな……本当は休ませてやりたいが魔族どもがこの地に来る前に何としても装備を集めなければこの国……いや、人間は全滅だ」
「私達は人々にとって最後の希望なのですからアイナさんには悪いですが休む暇はありません。何としても侵略をしてくる魔族を倒さなければならないのです」
「ここにいる僕達の命をかけてもアイナ君の使命を守るんだ……それが死んだ彼の願いだったからね」
アロンズさんの言葉にガドインは無言で頷くと私もそれにならった。
その後部屋に入った私は気分を変えようとハーブティーを入れ椅子に座った。
しばらく私はマキナの洞窟での戦闘を思い出し確信した事があった。
それはリアンさんの重要性について……。
確かに今までとはモンスターの強さが上がっていたのは間違いなかった。実際にその強さに驚いたし魔法も節約することを考えられなかった程だった。
でもそんなのは今までも深淵のダンジョンでも経験している。先に進むにつれいきなりモンスターの強さが変わる階があったはず。
その時を思い出してみるといつも記憶にあるのはリアンさんの活躍ばかりだった。多分パーティの皆もそう言うと思う。
リアンさんがいつも休みを返上してダンジョンや戦闘に関する情報をかき集め勉強していたのを知っている。レベルが私達より低いのを負い目に感じていたのを周りからの批判で分かっていたけど私達がリアンさんを必要としていると分かれば外野などほっておけばいい、そう思って何も言わないでいたけどリアンさんはひどく気にしていた。
今になって思えばリアンさんに直接そう言ってあげればよかったと後悔している。
いつしかリアンさんの知識は私達の大きな力となっていた。
どんなモンスターでも種族がありその特徴を理解しているリアンさんは戦闘中私達にそれを惜しみなく教えてくれた。その上周りをよく見て声をかけてくれるので精神的にも安心することができた。
僧侶である私よりも縁の下の力持ちな存在だった。
それが欠けた時、前のように追い詰められるような攻略になってしまった。私にはリアンさんのようになれる自信がない。
でも今更そんな事を言ってももうリアンさんはいない……アロンズさんが言った通り私はアイナさんを命に変えても守る。
それがリアンさんを死に追いやった私ができるせめてもの償いなのだから……。