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20話

 アイナの俺を見る目は凍りつくように冷たい……ガドイン、アロンズ、ウェンディも俺をそんな目で見ていた。


 俺が死に走るといった馬鹿な事を非難するような皆の顔に耐えきれずその場に崩れ落ちた。


 やめてくれ……そんな目で俺を……見ないでくれ‼︎


「ハッ⁉︎」


 目が覚めると豪華な照明が灯る天井が映る。


 夢……か。


 今見たばかりの散々な夢に気持ちは最悪といっていい程沈んでいた。


 ゴソゴソ


「ん……?」


 物音が耳に入ると視線を上から音のする横の方に移していった。


「なっ!」


 微笑みながら俺を見るエニィと目が合うとあまりの衝撃に思考が停止した。


「ふふ、起きたわねセト」


 よく見るとエニィは少し顔を赤くして微笑んでいる。


「な、何をしてるんだ⁉︎」


 少しずつ近寄ってくるエニィに動揺が隠せない俺はそう言いながら次第にベッドの端まで追い詰められていた。


「とぼけなくていいわ待ってたんでしょ?」


「え?」


「私を助けた事やあの国宝級の装備をくれた見返りに私の体を求めてたのよね?」


「そ、それは違う! 俺にそんな下心はないんだ!」


「ふふ、嘘よ。あなたがそんな人じゃないって分かってる……」


 エニィは俺の制止にも構わず擦り寄ってくると体を震わせ涙ながらに話し始めた。


「あなたが辛い目にあって暗い影を落としてるのを知ってる……だから癒やしてあげたいの。命を助けて貰った私が今出来ることはこれしかないの……だから!」


 俺は何とか冷静に心を落ち着かせると触れそうなくらいすぐ近くにいるエニィの肩に手を置いて諭すように語りかけた。


「俺は大丈夫だから……そんな事で大事な体を汚したらダメだよ」


 しかし納得したような効果はなかったようだ。エニィは少しむくれた顔をすると後ろに振り返り、何やらゴソゴソと音を立て始めた。


 コト!


 エニィは何かの道具を取り出していた。それは壺のようなアイテムで白い煙がゆっくりと上がっていくのを見ていると次第に俺の体にある変化が起きていた。


「あれ? か、体が熱くなって……」


 あれだ……初めて酒を飲んだ時の感覚に似ている……フワフワした気分で意識が遠のくような感覚にそれでいて何か滾るものが……。


「セト……」


 パサッパサッ


 エニィもあのアイテムで俺と同じ感覚になっているのか部屋の明かりを消して少し息を荒くしながら自分の服を全て脱ぎ去ると俺に迫った……夜の淡い光に照らされたエニィの美しい姿に俺は自分を抑える事ができなかった……。



 顔に暖かいものが触れ目を開けた。


 窓から差した光が俺の顔に当たっていたらしい。


 もう朝か……ハッ⁉︎


 隣ですうすうと気持ちよさそうに寝息を立てるエニィが映り昨日の夜に起きた事が段々と蘇ってくると頭を抱えた。


「そ、そうだ……俺はエニィと……」


 昨日の事を思い出すとまだ会ったばかりのエニィと関係をもってしまった事に罪悪感を感じてしまう。


 アイナの事が好きだったがそれも終わりを告げ失恋したかのような寂しさを感じていたのは否定できなかった。しかも最近は呪いの激痛やらパーティを出されたトラウマやらで充分な睡眠をとる事が出来ていなかった日々が続いていた。


 こんなに目覚めがいいのはいつぶりだっけな……。


 久しぶりにスッキリした朝を迎えたのは間違いなくエニィのおかげだ。


 俺はなんとなく気持ち良さそうに眠るエニィの柔らかい頬を指で触れるとエニィが目を覚ました。


「……う〜恥ずかしい」


 エニィは俺を見て昨日の事を思い出したのかバッと布団で顔を隠してしまった。


「何言ってんだ。そっちから来たくせに」


「だって……セトが苦しんでいるのが辛くて……私ができるのはこれしか無いって思って……」


「大事な体を汚しちゃダメだって言ったのに……」


 それを聞いたエニィは赤くなっている顔を被っていた布団から出して反論した。


「違うの! セトならいいって思ったの……まだ会ったばかりだけど好きになってたのよ。他の人なら絶対にしないわ! それに私初めてなのよ……」


 俺はエニィの策略にはまったとはいえ再び罪悪感に襲われとんでもない事をしたような気持ちになっていたが同時に空っぽだった心が満たされていたのを感じる。


「……責任はとるよ、エニィは俺が守る」


「セト……ありがとう大好きよ」


 エニィが俺をギュッと抱きしめると温かいエニィの体温が冷え切った俺の心と体を暖めていく。


 俺は初めて言われた好きという言葉にドキッとしてしまった。


「セト……もう少しこうしてていい?」


「ん? ああ……」


 そう答えるとエニィは嬉しそうな顔をして微笑んだ。


「私ね……今まで男の人と距離を取ってたの……私ってお父さんが有名で貴族だから色々な人が近寄って来るのよ。だから高圧的な態度の人とか優しそうな言葉で騙そうとする人ばかりで嫌だったの」


 エニィは俺と目を合わせると少し頬を赤くして話を続けた。


「でもねセトは違った……最初は仮面で表情が見えなかったから少し疑っていたけど今なら分かるわ。あなたは優しい……瀕死だった私を当然のように助けてくれた! 私を安心させようと優しく声をかけてくれた……」


 エニィは涙声になり震えていたので頭を撫でた。


「私、涙が出るほど嬉しくて……この人とずっと一緒にいたいって思ったの」


「ずっと一緒にいよう」


「嬉しい……」


 しばらくそのまま俺とエニィは時間を忘れそのまま寄り添っていた。


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