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12話

 やっとアイナ達がいるであろうパラスの街に着いた俺とアリスだったが禁断の洞窟に行く前に身辺整理をして金が無かったのを思い出すとまずダンジョンの至る所に落ちていた宝石を幾つか売ろうと宝石店に入って行った。


 数分後……店のカウンターには仮面の下で物凄く焦っている俺がいた。


「おお! 聞いたか⁉︎ すげぇレア物だってよ!」


「あの人何者なのかしら……」


「仮面付けてるから何か訳ありっぽいな……」


 ざわざわと俺の後ろで話し声が聞こえる。騒ぎの原因だった形は不揃いだが綺麗な青色をした宝石はカウンターの上で微弱な光を放ち周囲の視線を釘付けにしていた。


「お客さま! 少しお待ちください‼︎」


 俺は宝石を見た店員の慌てようにやってしまったと思った。


 もしかしたらという認識はあったんだ。出した宝石は禁断の洞窟で手に入れた物だから多分そうじゃないかと懸念していたが……もしこれを幾つもの出していたらどうなっていたか想像したらゾッとする。


 この街にも俺を知っている奴は居るだろうしあんまり注目されるのは嫌だったんだけどな。


 そんな事を思っているとすぐに店員の代わりに慌てた中年の男が来て個室に連れて行かれると店長と名乗られて値段の交渉を持ちかけられた。


 どうやらその宝石は貴重な物らしく買い手が山ほどいるらしい。結局交渉などよく分からない俺は店長の出した値段で手を打った。


「ありがとうございました‼︎」


 店の前で店員が勢揃いして俺を送り出すのでまた周囲の注目を浴びた俺は気まずそうにそそくさとその場を後にしたのだった。


「しかしあれ1個で1000万金貨だなんて信じられないや」


 アリスと手を繋いで歩きながら突然大金を手に入れた事に実感がわかずそう呟いていた。


 俺がいたアイナのパーティは冒険者の中でもトップクラスで稼ぎも多かった。だいたい一日ダンジョンに潜って10万金貨ほどだが波があり、その上装備のメンテナンスや新調で金がかかる職業でもあるのだ。しかも俺達は他の冒険者と違いひたすら奥へと攻略を進めているのでその頻度も多かった。


 しかしダンジョンに眠るお宝で大金持ちになる可能性を秘めている事から冒険者は結構人気な職業になっている。


 普通の生活なら一生暮らせる金だぞ……金銭感覚が狂いそうだな。


 大金を手にした俺は野営用のテントや異空間用に棚や台を買っていったのだがその途中でまたも周りの注目を浴びる事になる。


「可愛いお嬢ちゃんにはこれをあげよう」


 きっかけはこの一言だった。


 店前でお菓子を売っていた男がアリスに試食用のお菓子を渡すとそれを食べたアリスは顔を綻ばせ満面の笑顔で俺に言った。


「セト‼︎ セト‼︎ お菓子欲しい‼︎」


 アリスは強すぎて子供に見えなかったのだがこの時ばかりは子供らしく俺の腕にしがみついてお菓子を欲しがっている。


「分かったよじゃあ……」


 その後に続く「どれがいい?」という俺の言葉をかき消してアリスらしい次元の違う要求が俺の耳に飛び込んだ。


「お店の全部買って‼︎」


「え?」


 アリスは店のお菓子を全て買い占めるという暴挙に出るとその後もお菓子の店を見る度に俺の手を引いて破壊力満点の可愛い笑顔を前面に押し出して「セト〜お菓子買って〜」と上目遣いに見てくるのだった。アリスがおねだりする笑顔の破壊力は凄まじく当然俺の首は横に振ることは無かったというより許されなかった。


 しかしアリスの存在が一番の注目の的ではないかと思ってしまう。すれ違う人々はアリスに視線を奪われ見惚れている。アリスが一度笑顔を見せれば周りからは「はぁ〜」とため息が溢れていた。


「でも異空間に置けるからほんと楽だよなぁ」


 人のいない所で異空間に買ったものをとりあえず放り込みながら便利な道具に感謝すると宿に向かって歩き出した。


「あ……」


 宿が見えた視界にいつも一緒にいた仲間達の姿が入ると俺の足はピタッと止まりそこから動くことができなかった。何故だろうかまだ二日しか経っていないのに懐かしい気分になる。


「……しまった!」


 しばらくアイナ達を見ていた俺はウェンディの視線がこちらの方を向いたのでバレる! と思わず顔を逸らした。


「どうしたの〜?」


 そんな挙動不審な俺をアリスが首を傾げて見ていた。


「あ、そういや仮面してたんだった……いや、なんでもないよ」


 仮面をしていた事に気付きホッとする俺はそう答えるとまた視線を少しアイナ達に向けた。


 皆暗い表情で話をしているのはきっと俺のせいだ。


 何を言われてもいい怒られてもいいこの仮面を脱ぎ捨ててそこに行きたい……それで……謝りたい。


 後悔と申し訳なさが入り混じり胸がズキズキと痛む。


 ダメだ……迷惑をかけておいて会う資格なんて俺には無いんだ。


「ごめんみんな……」


 俺はぐらつく気持ちを振り払うと元仲間達に背を向け歩き出した。


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