エピローグ
「……そうして英雄リアンは無事始祖を倒して皆の元に帰ったのでした……」
私は今日も聖都の講堂に集まった世界中の人々に英雄リアンの英雄譚を聞かせていた。
「アリス様? どちらへ?」
講義が終わり、外に出ようとした私に見張りから声が掛かる。
「少し散歩に行ってくるわ」
「大丈夫ですか? そのお身体で……」
「大丈夫よ、皆んなにお花をあげに行かなくちゃ……」
誰かを呼びにいかれる前にその場を後にした。
シントが昔私に使った体を維持する薬……数年前その効果が切れてから急激な老化が始まっていた。それに気付いた時、もう私の寿命も長くないと思うとこれでやっと皆んなの所に行くことができる嬉しさが死の恐怖を上回っていた。
聖都の街並みを一望できる山を自由の利かなくなった体を休ませつつあの場所に歩いていく。
「ふう、やっと着いたわ……」
今は一年に一回の行事以外誰も来なくなった草木が生い茂る場所に私は足を踏み入れた。
「……皆んながいなくなってもう100年経ったのね」
目の前に並ぶお墓に花を手向けようと一番左の墓に移動すると私は一輪の白い花を供えた。
「セラニ……いつも元気なお姉ちゃん。一緒に笑い合っていた日々が懐かしいわ……」
旅をする中で出会った冒険者達の装備強化や行く先々の村や街の防護壁を作っていていつも忙しそうにしてたわね……でも、そのおかげで沢山の人がモンスターの恐怖から解放されたのよ。あなたの名前は今でも語り継がれているわ。それだけ凄く感謝されていたのよ。
隣のホーネス王国の紋章が彫られているお墓にも白い花を供えた。
「マーナ……おしとやかでも芯が強い人。あなたのおかげで魔族と人間は分かり合えたのよ……その為にいっぱい頑張ってくれたのを知ってる……本当にありがとう。私、凄く嬉しかった」
マーナは始祖との戦いで魔族に助けられてから人間と魔族の架け橋になって見事それを実現してくれた。最初から上手くいくはずがなく、凄い苦労していた事を知ってる。でも、あなたは負けなかった……本当に強い人だった。きっと長らく病に耐えられたのもマーナの強さだったのね。
隣のお墓に移動すると青い花を供えた。
「ウェンディ……聖女と呼ばれるほどあなたは多くの人に慕われていたわね。普段は大人みたいに装ってたけど私達といる時は可愛い女の子だった……いつもリアンを取り合う私とアイナを羨ましそうに見てたわね。ふふっ、だからかしら、朝起きるといつもリアンの腕に抱きついて寝ていたのを覚えてる」
旅が終わった後、魔族の元で必死に回復魔法や病を治す魔法を覚えてそれを世界中に広めてくれた。そのおかげで何人の人が助かったのか……数えきれない人が救われたのよ。あなたが亡くなった時世界中の人が駆けつけてあなたの死を悲しんでたわ。
隣の錆びてしまった剣が祀られているお墓に赤い花を供えた。
「アイナ……いつもふたりでリアンを取り合ってたわね。あなたがいなくなってから凄く寂しかった……」
今モンスターを地上で見ることが無くなったのはあなたのおかげね。皆んなで世界中を旅してモンスターから人を救った後も各地に討伐隊を作ってモンスターのいない世界を作ろうと頑張ってくれたからよ。あなたも世界中の人から感謝されていたわ。勇者アイナの像があちこちにあるのはその証拠ね。
隣のお墓には黄色い花と一緒に私が大好きなお菓子を供えた。
「エニィ……あなたはお母さんみたいな人だった。いつもはしゃぐ私を優しい目で見てたね。時々エニィの作る美味しい料理が恋しくなる時があるの……だから私、いっぱい料理の勉強してエニィが残してくれたレシピ通りに作れるようになったわ。でも……ふふ、やっぱりエニィの料理の方が美味しいわ」
最後は皆んなのお墓に囲まれた大きなお墓に色とりどりの花束を供えた。
「リアン……世界で一番大好きな人。皆んながあっちに行ってからはしばらくふたりで過ごしてたわね……悲しむ私をいつも励ましてくれた。自分だって辛いのに……あなたがその時に言ってくれた言葉があるから私は今まで生きてこられたの」
あなたは最期にこう言ってたわね……皆んなを幸せにできたのかなって……私が答える前にあっちに行っちゃったから言わなかったけど今言うわ。セラニ、マーナ、アイナ、ウェンディ、エニィ……皆んな最期はあなたに笑顔でありがとうって言ってたじゃない……皆んなリアンに会えて凄く幸せだったよ。私もあなたに会えて幸せだった……。
「アリスお婆様!」
「あら……リアナに見つかっちゃったわ」
後ろから聞こえた女の子の声に私は思わずいたずらしているのを見つかった子供のように小さくなる。
「お願いだから無理をしないで下さい……」
「ごめんなさいリアナ、心配かけさせちゃったわね」
泣きそうな顔で近づいてくるリアナに謝った。まだ17歳になったばかりでリアンとエニィの血を受け継いだ子……。
「ほら泣かないの……リアナはこれからお父さんの後を継ぐんでしょう?」
皆んなリアンとの子供を授かりセラニの子供は鍛冶屋になり、アイナの子供は討伐隊に入った。ウェンディの子供は聖都のガイアグラスの神官になった。マーナの子供はホーネス王国の王にとそれぞれ親の後を継ぐようになっていた。
始祖との戦いが終わってから世界中で人間を脅かすモンスターを倒すという長い旅が終わるとリアンは教皇の後を継いだ。その後をエニィの子供が継いでこの子は将来3代目になる。
「はい……それにアリスお婆様の話す英雄リアンの英雄譚も私が引き継ぎます」
この子の両親は忙しく、小さい頃から私とガイアグラスで暮らしていた。リアナは毎日私が話すリアン達と過ごしたあの輝かしい日々の話を聞いて育った。だから私にとってそれが一番嬉しい事だった。
「ありがとうリアナ……これで心置きなくあっちにいけるわ」
「いやだ! アリスお婆様と離れたくない!」
リアナは最近私の側から離れようとしなかった。きっと勘のいい子だから私の死期が近い事を感じてるのかもしれない。だからか、最近特に私といる時は年相応の女の子に戻って甘えていた。私に抱きついて涙を流す姿に少し胸が痛くなる。
「ふふっ、もうふたりの時はこんなに甘えて……さあ行きましょうか」
泣きじゃくるリアナの頭を撫でていると私は背中に気配を感じて後ろを振り返った。
目には見えないけど私にはそこに皆んながいるような気がした。
ちゃんと皆んなで迎えに来てね……。
私の思いに応えるようにお墓に添えられた花達が風に乗って空に舞っていった……。
「ハッ!」
俺の剣がモンスターの弱点である腹に突き刺さり息の根を止めた。
「ナイスよリアン!」
アイナと勝利をハイタッチで喜ぶと後ろからアリスに抱きつかれた。
「リアン! やったね!」
「これでこの地域は安全ね」
エニィがそう言って近づいてくる。
「リアン様! こちらも討伐終わりました」
「あー疲れたぜ!」
マーナとセラニも合流してきた。
「リアンさん! もう今日は終わりましょう」
ウェンディの言葉に俺は頷いた。
「じゃあ今日は異空間でゆっくり休もう!」
「「「おー!」」」
皆んなの笑顔が今日の疲れを癒やすと異空間に入っていった。
「今日もいっぱいモンスターを倒したな!」
「もう一年かぁ……早いね」
「でも、毎日が凄く楽しいわ」
「そうですね、こうして皆んなで楽しく旅ができて、それに色々なものが見れて私は幸せです」
「次はどこに行くの〜?」
「次はそろそろ上の大陸に乗り込むなんてどうかしら?」
「いいかも! 楽しみだわ!」
「いいですね! 私はガイアの日記にあった幻想湖に行ってみたいです!」
「さ、そろそろ寝ましょうか」
「今日は誰と寝るんだっけ?」
「今日はマーナね」
「よ、宜しくお願いします……リアン様」
「な、なんでそんなに顔を赤くするんだ……?」
「リアンは最近獣だからね〜」
「そ、そんなことはないぞ!」
「昨日は全然寝かせてくれなかったのよ」
「エニィ……」
「あ、ごめんリアン」
「「「あははは!」」」
パーティ解雇の絶望から死のうとした俺、美少女達に救われれ暗躍します! 完
最後まで読んでいただきありがとうございました。
所々おかしな部分や誤字脱字に顔をしかめる事もあったと思いますがここまで読んでもらえて感謝しかないです。
よければ最後に評価をしてもらえると嬉しいです。