110話
モンスターは知性を持たない。ただひたすら獲物を狩り、繁殖をするわけでもなく生きていた。作物を荒らし、生態系を脅かす害悪以外の何者でもないその存在は何故存在するのだろうか。
俺はそんなモンスターに故郷を奪われた。脳裏に焼きつく崩壊した村がモンスターを見るたびに頭の奥から呼び起こされ苦しんできた。それから俺はモンスターを憎み生きてきたのだ。この世界にはそんな人間が山ほどいる。アイナの願うモンスターのいない世界を作らない限り苦しむ人はこの先も増えていくのだ。
そうならない為にもこの戦いは負けられなかった。まずはボス戦前の肩慣らしをするようにモンスターを次々と葬り、体が温まってくるとササラさんが突然現れた。
「リアン様! 別方向から城に向かうモンスターの群れがいます!」
「分かった! 皆んな行ってくる!」
俺は急いでササラさんについていくと確かに数百体のモンスターが別行動をしているように動いていたのだ。城には沢山の兵士や冒険者達が守っているとはいえこの数だと死人は100では抑えられないだろう。
「早く倒して戻らないと……」
すぐに討伐に向かい数百体を葬り去った。
「さ、流石リアン様……じ、次元が違いすぎます……」
ササラさんの顔は驚きを通り越して引き攣っていた。
「まずいな、この調子だとまた本体から逸脱する群れが出てくるかもしれない」
俺は始祖を倒さないといけない中で余計な思考を割きたくなかった。相手の力は未知数で、集中して臨まないと勝てない気がしていたのだ。
「リアン様! 向こうにも逸脱したモンスターの群れが!」
「ちっ!」
予想は現実となり、城に向かうモンスターの群れを見過ごす訳にはいかずモンスターに踊らされているような気がして思わず舌打ちをしていた。
このままじゃ……。
やがて本体から抜け出すモンスターが溢れて俺の手には負えなくなっていた。
ゴォォォ‼︎
「何だ⁉︎」
突然俺の周囲に炎が広がりモンスターを焼き払った。まるで俺がいてもお構いなしといった潔い魔法の撃ち方にハッと似た光景を思い出してこんな時なのに苦笑してしまった。
「ははっ! もう君を魔法でからかう事はできないみたいだね」
爽やかで懐かしい声が耳に入ると俺は小さく笑った。
「久しぶりの挨拶がそれかよ! アロンズ!」
数少ない俺の友といえるその姿に俺は自然と笑顔になっていた。
「君は本当に面白い男だね。まさか生きていたなんてさ!」
アロンズもいつもは何を考えているのか分からないようなスカした顔が珍しく笑顔になっていた。
「お前も相変わらずだな!」
「ふっ、君には言いたいことがいっぱいあるけどこの戦いが終わったらしようか!」
アロンズは魔法を唱えると以前とは見違えるほどの威力をした炎がモンスターの群れを襲った。
「さあ君にはやる事があるだろ! ここは僕達に任せてボスを倒すんだ!」
「僕達?」
「後ろを見なよ!」
俺は後ろを振り向くと城から多くの兵士や冒険者達が飛び出していた。
「皆んなの気持ちは一緒だ! 君達だけに任せる訳にはいかない! これは僕達人間の戦いだからね!」
「アロンズ……」
「ここには僕のお師匠さんやその弟子達も来てるんだ! 負けないさ!」
所々で魔法が唱えられていて、そのどれもが凄い威力だと分かる轟音が戦場に鳴り響いていた。
「ありがとうアロンズ! 頼む!」
俺はモンスターと人間達があちこちで戦う中を走って始祖に向かう皆んなの元へ急いだ。
「リアン! もうすぐ始祖が来るよ!」
皆と合流した時、空からモンスターを蹴散らしていたアリスがそう言って降りて来る。俺はそれを肌で感じていた。気付かないうちに体が震えていたのだ。
「リアン、大丈夫よ。私達なら勝てるわ」
「力を合わせて倒そう!」
近くに来ていたエニィとアイナに声をかけられ自然と勇気がみなぎってくる。駆けつけてくれたアロンズや冒険者達に兵士達のおかげで始祖戦に集中できる。それに今頃ホーネス王国でもマーナ、セラニ、ウェンディが頑張っていると思うと震えが止まった。
「ああ、絶対に勝つんだ」
俺は視界に禍々しい闇を纏う始祖を捉えると、レスナが言っていた意味が分かった。確かに始祖の周りはボヤけたように歪んで見える。
「まずは小手調べだ!」
俺は始祖の元に飛び込むとスキルの蒼炎剣で斬りかかっていった。