104話
崩壊した聖都を後に動揺が隠せないままカイアスさんがいるカタルの街に飛んだ俺達は、そこでまたも異様な光景を目の当たりにしていた。
「ほんとに何が起こっているのよ……」
エニィの戸惑いが混じった声が耳に入る。
俺もその状況が信じられなかった。シーンと静まりかえる街には誰もいなかったのだ。
「この様子じゃお父さん達も……」
エニィの顔は蒼白になっていた。
魔族の土地から帰って来てまだ誰とも会っていない。ここまでくると人が滅んでしまったのかと段々と怖くなってくる。
「……とりあえずササラさんを呼んでみる」
エニィに俺は大丈夫だと言って肩に手を置いた。そしてササラさんを呼ぶアイテムを取り出すと頼むから来てくれと願いながらそれを使った。
「リアン様‼︎」
それから少しの間をおいてササラさんは慌てたように物陰から飛び込んでくると荒くなっていた息を必死に落ち着かせようと息を整えていた。
「ササラ! お父さん達は何処⁉︎ 皆んな無事なの⁉︎」
エニィはササラさんの肩を掴んで必死な形相で話しかけた。
「はい、今カイアス様を含め街の人々は避難しているんです」
「避難? どうゆう事だ?」
全く事態が掴めない俺達はセラニの問いにササラさんが答えるのを待った。
「カラナ王国の方でモンスターが異常発生したんです。とりあえずカイアス様の元に行きましょう。実は私も詳しい事は分からないんです」
「すいません! 聖都の人達は無事なんですか!」
ウェンディはササラさんに大きな声を上げて詰め寄った。
「無事です。聖都の方々は今、ランド王国に避難しています」
「良かった……」
ウェンディは安心したのか強張った顔を緩めた。
「カイアスさんは何処に?」
「カイアス様もランド王国です。今安全な場所はランド王国かホーネス王国だけなんです」
……という事はガードル王国も襲われたんだな。
「すぐにランド王国へ行こう」
それを聞いた皆が俺の側に集まって来ると次々と俺の体に手を伸ばした。
ランド王国に着いた瞬間周りから人々の会話が聞こえると魔族の大陸から帰ってきてからずっと続いていた緊張感が和らいだ。
「なんかホッとしますね……」
マーナは安堵した表情で変わらない街並みを眺めて言った。
「では、案内します」
しかし安心したのも束の間、街の人々に笑顔はなく雰囲気は暗かった。不安そうな顔で会話をする姿に事態の深刻さが分かる。
「あ! 勇者アイナ様だ‼︎」
歩いていた俺達の中にいるアイナの姿に子供が声を上げると次々と周りが気付き始めて瞬く間に大騒ぎになった。
「良かった! これで安心だ!」
周りからはそんな安堵する声が幾つも上がり、盛り上がる声援の中を抜けていった俺達が着いた先はランド王国の城の中だった。
「この中で教皇を含めた国王達が会議を開いております」
ササラさんから兵士に案内役が代わり、連れられた部屋の前でそう聞かされると目の前の扉が開かれた。
「お祖父様!」
「お父さん!」
俺の横をエニィとウェンディがサッと駆け抜けて行くとそれぞれの親に飛び込んで行った。
「エニィ! 心配かけたな! だが皆んな無事だ安心してくれ」
カイアスさんはエニィを強く抱きしめると嬉しそうな声を上げた。
「ウインディーネ、聖都の皆も無事じゃ。そう泣くでない」
教皇も泣きながら抱きつくウェンディを優しく受け止めて頭を撫でていた。
「リアン殿、ちょうどいいところに来てくれた」
教皇はウェンディとの再会を終えると俺の元に来ていた。
「何が起こっているんですか? 帰ってきたばかりで何が何だか……」
「君達が魔族の大陸に行ってすぐのことだった……カラナ王国の方から近くの森に巨大な卵が発見されたと報告があったのじゃ」
「卵? モンスターのかしら」
それを言ったエニィは頭で考察を始めたようでじっと前を見つめていた。他の皆も考える様子で黙っていると教皇が話を続けた。
「その報告を受けた次の日、カラナ王国が大量のモンスターに襲われた」
「その卵から大量のモンスターが生まれた?」
アイナの言葉に教皇は首を縦には振らなかった。
「かもしれないというのが今のところじゃな、今は確認しようにもできない状況でな。カラナ王国の人々が聖都に逃げて来るとそれを追うように大量のモンスターが聖都に押し寄せて来たのじゃ」
「それで聖都も……」
ウェンディは聖都の荒れ模様を思い出したのか暗い表情で俯いていた。
「昨日ホーネス王国からガードル王国がモンスターに襲われてこちらに避難して来たと報告があった……」
「じゃあいずれここにも……」
「それにホーネス王国も危ない、先ほどモンスターの群れを監視している部隊から報告があってな……ランド王国とホーネス王国にモンスターの群れが迫っているそうだ」
「そんな……」
カイアスさんの話にマーナは顔を青ざめ、ショックを受けていた。
「今戦力をどう配分するか議論していたのだ」
今まで黙っていたランド王国の国王であるカーライル王が口を開くと沈黙が流れた。状況はかなり切羽詰まっている。国が簡単に滅びるほどの圧倒的なモンスターの群れが迫っていると聞いて俺は戦慄した。