103話
一夜を共にしたアリスは朝から俺にベッタリくっ付いて離れなかった。よほど嬉しかったらしく、ふたりで皆の元に行った際には軽い足取りで皆の輪に入っていきハイタッチを交わして喜んでいた。
「ゆっくり眠れたみたいね」
ひとりポツンと立って喜ぶアリスの顔を見ていた俺にエニィが話しかけていた。
「おかげさまでな……」
俺はまたエニィの手のひらで転がされていた事を恨めしい目で抗議するとそれを見たエニィが吹き出した。
「ふふっ! 何その顔! あなたは幸せよ……こんなにいっぱいの人に愛されてるんだから」
「ほんとに分からないよ、何で俺なんかが……」
「ほらまた! リアンはガイアに並ぶ英雄になるんだからもっと自信を持たなきゃ人々に笑われてちゃうわ。それは婚約者である私達も同じなのよ」
「そんな事にはさせないよ。俺は皆んなを守るって誓ったんだ」
「その意気よ……でも、あんな事を言ったけどまだまだ私達の人生はこれからなんだからゆっくりやっていきましょ」
「リアーン! エニィー! 行こー!」
向こうでアリスが可愛い笑顔を咲かせながら大きく手を振っていた。
「さて、そろそろガイアグラスに帰ろう」
「そうね、これから忙しくなりそう!」
エニィは俺の腕を取ると体を密着させた。
「あー! エニィずるい!」
アリスが顔を膨らませてこっちに走ってくるとエニィの笑う声が聞こえた。
「ふふ、大人の姿になってもアリスはアリスのままね」
俺はこの暖かくて明るい雰囲気が戻ってきた事に涙が出そうになるほど嬉しくなっていた。
そして俺達はエルド王に出発する事を告げる。
「そうか……まだゆっくりしていってもいいんだぞ……」
エルド王の目は少し怖かった。それもそのはずでアリスが俺の腕をギュッとしているからだ。
「で、ではこれで……」
「君とは是非とも腰を据えて話をしたいな〜 リアン殿?」
エルド王は俺を睨んでいるとまではいかないが恨めしい目で見ている。
はは……これはエニィの時と同じ状況だな。
カイアスさんと初めて会った時の事が思い出されて心の中で笑ってしまった。
「もうお父さん! リアンが困ってるでしょ!」
アリスに怒られたエルド王はゴホンと咳をして我を取り戻した。
「では、また来るがいい。いつでも歓迎するからな」
「ありがとうございます」
謁見の間を出ると俺は深く一息ついた。
「モテる男は大変ね」
エニィがそんな俺に声をかける。
「エルド王の気持ちも分かるわ。せっかく娘と再会できたのに他の男に取られたら寂しいもんね」
「お祖父様は言っていました。父親というのは娘が凄く大事で可愛いんだ。だからそれを貰う男には厳しくなってしまうんだって」
アイナとウェンディの話を聞いて思った。俺も父親になったらそうなるんだろうかと。
「ラセンにも挨拶をしていこう」
俺達はそのままラセンがいる部屋に行くとちょうどラセンが部屋の前に立っていた。
「ラセン、俺達をいっぱい助けてくれて本当にありがとう」
ラセンには不思議と安心感があってどんな戦いが控えていてもいるだけで勝てそうな気がして精神を安定させる事ができていた。戦闘以外でも精神的な支えになってくれた。
ラセンは俺のお礼を聞いてフッと笑った。
「礼には及ばんよ。わしもお主達に助けられたからな、お互い様じゃ」
「ラセン、また来るね!」
アリスの元気な声にラセンが頷くと俺達はその場を後にした。
「じゃあ、行こう」
俺の体に皆が手を伸ばすと俺はガイアグラスへとスキルを唱えたのだった。
「……ああ」
初めは何が起こっているのか分からなかった。目の前に広がるとんでもない光景に頭が混乱し、言葉を失った。
「どういう事……?」
信じられないと言ったエニィの声が微かに耳に入った。
ガイアグラスは火に包まれ、建物が崩れ始めていたのだ。
「リアン! 早くここから脱出するのよ‼︎」
「ああ‼︎」
後ろからくるアイナの声で俺は我に帰った。
何で……。
「なんで……何でガイアグラスが崩壊しているんですか⁉︎ お祖父様ー‼︎」
ウェンディは取り乱していた。俺は側に行って泣き崩れるウェンディの体を抱きしめた。
「まずは情報が欲しいわ。リアン、お父さんの所に行きましょ!」
エニィの提案に俺は頷くと炎に包まれた聖都を後にしたのだった。