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10話

 目的地であるパラスの街に向かう馬車の中は誰もいないと思ってしまう程静かで物音ひとつ立たず馬車の走るガタン、ガタンという音だけが振動と共に体に響いていた。


 街でリアンの死を聞いてから皆言葉を失い泣き崩れる私をガドインが引っ張り馬車に乗せた。


 私は少し開いた窓に泣き腫らした顔を向けて外の風に当たっていた。ガドイン達もただ時間が流れるのをじっと下を向いて待っている。


 その時だった。


 あ……。


「止めて!」


 私の視界にリアンを飲み込んだ忌むべき森が姿を現すと思わず大きな声を出していた。


「アイナ⁉︎ 何処へ⁉︎」


 私の大きな声で御者が驚いたのか馬車が急停止したのでその隙にガドインの言葉にも振り向かず急いで馬車を降りて行った。


 ザッザッ


 森に近づくにつれて段々と足が震えてきている……この森の奥にある禁断の洞窟にリアンがいると思うと今すぐにでも行きたかった。


 入り口付近で岩を見つけ鞄からボロボロの剣を取り出した。


 今まで記念にとっておいたリアンと最初に買ったお揃いの見習い剣だ……それを眺めると私の目から枯れたはずの涙が記憶と共にまた溢れ出した。


 ザク!


 岩に勢いよく剣を突き刺すと手に振動が伝わりちゃんと刺さったのを確認するとその場でしゃがみ込んだ。


 スッ


 私は手を合わせると目を閉じて心の中でリアンに誓った。


 リアンごめんね……でもあなたを一人にはさせない。私も禁断の洞窟に、あなたの所に行くからね……でも使命が終わるまでちょっと待っててね……もし途中で私が死んじゃったらあなたは迎えに来てくれるのかな……。


 誓いも終わり立ち上がって後ろを振り返るとそこにはガドイン、ウェンディ、アロンズが私と同様目を瞑ってリアンの冥福を祈っていた。


 パラスの街に着いたのはそれから日も暮れた頃だった。私達は街に到着するなり皆無言のまま宿屋に向かうとすぐに割り当てられた自分の部屋に入って行った。


 私も自分の部屋に入るとベッド上に横になった。目を瞑っても眠れずリアンとのこれまでの旅を思い出していた。


 まだ12歳の頃……私とリアンがいた村はモンスターに襲われ生き残ったのはちょうど村を離れたふたりだけだった。


 そこからこの街に流れ着いて生活の為冒険者となった。最初はリアンが危険だから私は街で待っててくれって言ったけど私は頑なに嫌がった……もう周りの人が死ぬのが嫌だったから。


 まだ冒険者の駆け出しだった頃一番弱いモンスターをふたりがかりで倒し歓喜していた頃とかお金が無くて宿に泊まれないで街の外で野宿していた頃が宝石のようにキラキラと光るかけがえのない思い出として蘇ってくる。


 いつの頃だったか私のレベルが急激に上がり始めた。そこからは段々と目的が変わり人々をモンスターから守りたいと思う様になっていた。もう私の故郷のような事を起こさせたくなかったから。それをリアンに言うと私についていくって言ってくれた。凄く嬉しくて泣いてしまったのを覚えている。


 でも……勇者としての旅を決めた夜に見た恐ろしい夢は頭から離れず極度の不安にかられた私はリアンがいない時にパーティメンバーに打ち明けた。


 それを聞いた皆は驚いた後何も言わず黙っていた。ガドインとウェンディの顔は考え直せとでも言っているようだった。


 アロンズは直接そう言ってきたけどそれでも私は考えを変えることができなかった。夢の話をすると皆無言で首を縦に振った。本当は皆反対したかったんだと思う。


「私はリアンになんて事を言ってしまったの……いつも付いてきてくれたのに……私を理解してくれていた唯一の人なのに」


 私は今になって凄く後悔していた。戻れるなら戻って取り消したい程に。


 それに……なんであの夢を見てからずっと不安が心を支配していたのだろう……あれからそう考える事が多くなった。けど答えは分かる訳がない感情の問題なんだから。


 ベッドでしばらく横になっていた私は急に立ち上がると顔を手でパンパンと叩いて自分に言い聞かせる。


 私は魔族から人を守るの! 考えちゃダメ! 使命を果たすのよ!



 他のメンバーもまたリアンを失った事でそれぞれ部屋で思いを馳せていた。


 ガドインは自分の部屋で酒を飲みながら今朝死んだと聞かされたリアンの事を思い出していた。


 ガドインはアイナのパーティに入ったのが一番後だった。アイナの強さに魅せられたガドインは国の軍を辞めて半ば強引にパーティに入ったが最初どうしても納得がいかなかったのはリアンの存在だった。


 何故あんなレベル50程度の奴がいるんだ……。


 ガドインはパーティで唯一レベルが低いリアンを邪魔に見ていた。そこでガドインはリアンを追い出す策を思いつく。


 それは高難易度ダンジョンに行けばリアンは戦えずに逃げ出すと思ったのだった。それを理由にパーティから追い出せばいいと考えある日嘘を言ってパーティを高難易度のダンジョンに連れて行った。


 しかしガドインの予想に反してリアンは豊富な戦闘知識でどのモンスターにも見事な対処をして見せると仲間にも惜しみなく情報を伝えて戦闘を安定させていた。


 ガドインはそれを見て愕然としたと同時にレベルだけで判断した自分の愚かさを恥じると考えを改めたのだった。


 それから一切リアンの事を邪魔に思わずパーティの立派な一員として認め信頼を寄せるようになっていた。


 しかし昨日アイナにリアンを置いて行くと告げられた際本当は止めようとしたがアイナが思い詰めた顔をしていた為頷くことしかできなかったのだった。


「はやまりやがって!」


 ガン!


 拳を強く握りテーブルを強く叩くとコップや酒瓶は倒れ中の酒が涙のように床に滴り落ちていった。


 ガドインは顔に悔しさを滲ませリアンという若い将来の有望株を失ったことを悔やんだ。



 アロンズは自分の部屋で椅子に座り本を読んでいたがふとリアンが頭に浮かび手を止めた。


 アロンズはアイナとリアンがまだふたりで活動していた頃に出会った。


 最初はふたりが魔法でしか倒せないモンスターに手を焼いており魔法使いを探していた時ちょうど師匠との修行が終わり街に出てきたアロンズに声をかけたのがきっかけだった。


 最初は臨時でパーティを組んでダンジョンを攻略していたがアロンズはアイナに特別な能力があると気付くと自分からパーティを組みたいと申し出たのだった。


 それは有名なパーティの一員になりたいというアロンズの夢が叶うとアイナにその光を見たのだった。


 リアンの事は何とも思っていなかったがその頃はアイナのレベルが急激に上がり始めていた時でアロンズはリアンはじきにレベル差でパーティを抜けるだろうと思っていた。


 しかしある日アロンズはリアンが夜遅くに宿を出て行くのを見た。後をつけるとダンジョンに潜ってレベル上げをしていたのを目撃したのだった。


「まさか毎日こんな事を?」


 アロンズは師匠との修行で努力を重ねており、必死にレベルを上げるリアンに自分の姿を重ねた。


 その日からアロンズはリアンの見る目が変わりリアンを認めるようになっていた。


 アロンズは性格が難しく友と呼べる人がいなかったがリアンは歳が同じこともあり一緒に行動するうちに話すようになっていた。最近ではふざけ合う仲にまで発展するとついリアンにイタズラをしてしまう自分に驚いていた。


 周りからはアロンズは自分にしか興味がないナルシストだと思われ自分でもそう理解していたが違う自分の本性をさらけ出せる唯一の人物がリアンだった。


 アイナが部屋に訪ねて来てリアンを置いて行くと言った時はさすがのアロンズも驚いて黙ってしまった。アイナの様子が明らかにおかしく「少し考え直したら?」と言ったのだがアイナはそれでも考えは変わらなかった。結局最後はアイナに押し切られてしまったのだった。


 アロンズは本をテーブルに置き項垂れる。


「何もしてあげられなかった……ごめんね」


 目に涙を溜め声を震わせ亡きリアンに謝った。


 アロンズもまたリアンの死を止められなかった事を悔やんでいた。



 ウェンディは部屋に入ると何もする気になれずそのまま荷物を置いて窓の前に座るとまだ夜になったばかりの賑やかな街並みをずっと見つめていた。


 ウェンディがアイナのパーティに入ったのはアイナの強さが広まっていた頃でまだ僧侶がいないと聞くと自らパーティに志願した。


 最初男嫌いなウェンディはリアン、アロンズとはあまり話さず距離を置いていた。しかしアロンズに関しては自分にしか興味がない様子で自然に話す様になっていた。


 リアンとはその後もしばらく距離を置いていたがダンジョンで何度か助けられているうちに次第に距離は無くなりウェンディの中にある感情が芽生え始めていた。


 最近は気付かないうちにリアンに目が行くことが多くなり自分がリアンに惹かれていることを自覚するようになっていた。


 ウェンディはアイナにリアンを置いて行くと言われた時ショックで何も言えなかった。その後葛藤が続いたがアイナもリアンに気があるのを知っていた為それならお互い様だと諦めたのだった。


「うっ、こんな事になるなら引き止めれば良かった……」


 リアンが死んだと聞いた時は気を失うほどの衝撃を受けたが歯を食いしばり必死に涙を堪えていた。


 やがてウェンディは目から溢れ出る涙を堪えきれずベッドに移動するとの布団に包まった。


「うあぁ〜〜〜‼︎」


 誰かに音を聞かれないよう顔を布団に押し付けると今まで我慢していた分大きな声で気の済むまでひたすら泣いたのだった……。



 次の日、全然眠れなかった冴えない顔を叩いて気合いを入れると部屋を出た。待ち合わせ場所にはいつものようにパーティメンバーが私を待っている。


「さあ行くわよ」


「アイナ……そうだ、それでいい」


 ガドインはホッとした顔をしてそう言った。

 

 私はもう止まらない、使命を終えるまで……。


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