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中編 その11 「盾となり矛となり、騎士となれ」

 それからクロコダイルキメラが水面から姿を現すことはなかった。

 ラロッカも死体どころか骨一本すらあがってこない。

 結局自分は彼を救うことができなかった。

 ……そんな彼は確かに自分の事を殺そうとした人間だった。

 だがしかし今になって思えば、そんなことは些細な問題に過ぎなかったのかもしれない。

 過去に彼からどれだけひどい仕打ちを受けたからといって、各々の立場の違いこそあれ、彼もまたこの世界を生き残ってきた同志に変わりないのだ。

 そんな彼があのクロコダイルキメラに連れ去られる様を、指をくわえて見ていることなど自分にはできなかったのである。

 だから自分は行動を起こした。

 その行動の行きつく先に何もないことがわかっていながら。

 ……あの深淵の中、ラロッカは何を思いながら最期の時を迎えたのだろうか。

 死ぬ間際に取った行動? 好きな人の未練? それまでの人生でやり残したこと?

 それらも全て死んでいった本人にしか分からない。

 その時の自分は橋の下を流れる川を見下ろしながら、そのようなことを考えていたのである。


 やがて自分の背後に一台の車が止まった。

 車が止まると同時に、助手席のドアが開けられ、中からグリアムスさんが自分に対し必死に手招きしながら、このように声をかけてくれた。


「ベルシュタインさん、乗ってください! 外に居続けるのは危険です!」


 単独で車を降り、全くの無策でキメラを追いかけ続けていたさっきの自分。

 そのような愚行を犯した自分を、グリアムスさんは危険を承知でわざわざ迎えに来てくれたのである。

 こんな身勝手な自分を決して見捨てることなく。

 言葉にならない感謝が募ると共に、逆に申し訳なさが込み上げてきた。


「わかりました、グリアムスさん! ……さっきは本当に申し訳ありません」


 涙ぐみそうになるのを我慢しつつ、自分は潔くそう答えた。

 心の中でラロッカに今生の別れを告げ、川に背を向けると、早速車の方に足を向けた。

 そうして足早に車に向かっていたところ、突然車内からクラック隊長の声が響き渡り……


「ホルシュタイン、伏せろ!」


 クラック隊長の言葉に促され、自分は咄嗟に地面に伏せようとする。

 しかしその時。上空からまたあの青白い光線が、自分たちの車を目がけて照射されたのだ。

 グリフォンキメラの口から放たれたその熱光線は、助手席のドアに直撃し、一瞬でバラバラになってしまった。

 おまけにそのバラバラになったドアの一部が、自分の方に向かって、突風のあおりを受けた屋根のようにして、突如襲い掛かって来たのである。


「ベルシュタインさん! けてください!」


 慌ててそれから逃れようと自分は足を動かす。

 しかし肝心のその一歩が遅れてしまい、前方から飛んできたドアが自分の左足首に当たってしまった。

 同時に自分のかかと辺りには電流が流れるような痛みが走る。


「うがあああ!」


 痛みのあまり地面に突っ伏し、その場から起き上がれずにいると……


「ベルシュタインさん! そこに居てください! 今、向かいます!」


 自分のその様子を見たグリアムスさんが果敢にも車から降りて、自分の元に駆けつけてくれた。

 グリアムスさんは腰を落とし、自分の肩に手を回してくれると……


「ベルシュタインさん! わたくしの肩にちゃんと掴まっててください!」


 自分はグリアムスさんにカラダを預け、痛めた足を引きずりつつも、少々駆け足気味で車の元まで移動することになった。

 ……しかしその最中。それらの悪い状況に拍車をかけるかのように、あのグリフォンキメラが自分たちの車のすぐ真上に到達していたのだ。

 それから奴は2本の前足で車をガシッと鷲掴み、まるで重たい風船のように、ゆっくりと奴と共に空に舞い上がろうとしていた。


「ホルシュタイン!! グリムリン!! 助けてくれ!! このグリフォンに捕まっちまった!!」


 クラック隊長は車内から助けを求めつつ、グリフォンキメラの前足を目がけ、しきりにショットガンを放っていた。

 しかし彼の猛攻もむなしく、奴は頑なに車を持ち上げているその手を離そうとはしなかった。

 その間も車は地上から徐々に離れつつあった。


「ど……どうすればいいんですか、グリアムスさん!?」


「どうもこうもありませんよ、ベルシュタインさん! あの車を失ってしまえば、わたくしたちはお終いです!

 何としてでもあの車をわたくしたちの手で取り返さなくては……。

 ……ベルシュタインさん、ここに居てください。わたくしが戻ってくるまで、そこから一歩も動かないでくださいね!」


 グリアムスさんは自分にそう告げると、自分の腕を引き離し、上昇していく車に向かって勢いよくジャンプしていった。


「グリアムスさん、無茶です! 止めてください!!」


 グリアムスさんは何とか車の下部分をギリギリで掴み、上昇していく車にそのままぶら下がっていった。

 そうしている間も車はどんどん上へ上へと昇っていく。

 だがグリアムスさんも車を取り返す執念からなのか、その手を決して離そうとはしなかった。

 自分はそうして宙ぶらりんになっているグリアムスさんと上空に舞い上がって行くグリフォンキメラを、下から見上げるより他なかったのである。


 ……それからちょうど車が一戸建て住宅ほどの高さまで、昇って行った時の事。


「きゃあああ!!」


 突然ペトラルカさんが悲鳴と共に、向こう側の後部座席から転落したのだ。

 ペトラルカさんは思いっきり橋の上で尻もちをつき、また転落したと同時に彼女が手に持っていた弓も強く叩きつけられてしまった。

 弓は完全にぐにゃりと折れ曲がり、それが武器として使い物にならなくなったことは、素人目から見ても十分にわかった。


 自分は彼女が一戸建て住宅ほどの高さから落ちてきたため、大怪我は免れないと自然とそう思っていた。

 しかしそんな自分の心配をよそに、ペトラルカさんはその場からすっと起き上がってみせた。

 俗に言う受け身が取れていたためか、ペトラルカさんが腰に手を当てていること以外、何ら外傷はないように思える。

 そんなペトラルカさんのタフさに呆気に取られていたところ。

 ペトラルカさんは上昇していく車を悲哀に満ちた表情で見つめながら、こう叫んでいたのであった。


「クラック!! ……何でわたしを車から追い出したの!?」


 それに対し、クラック隊長は車内からショットガンを撃ちつつ、こう返答してきた。


「ペトラルカ!! お前はホルシュタインたちと一緒にコミュニティーまで逃げろ!

 ……車に残るのは俺だけで十分だ! お前はまだ死ぬには若すぎる!」


 その会話のやり取りから察するに、どうやら車からペトラルカさんを落としたのはクラック隊長らしい。


「待って!! そんなの嫌!! クラックを置いてなんて行けない!

 クラックまで死んじゃったらわたし、どうすれば……」


「お前にはホルシュタインが居るだろ! 俺の事なぞ放っておいて、早くそいつと一緒にここから離れろ!」


「ダメ!! クラックも一緒じゃなきゃ嫌だ!! 早くそこから降りてきて!!」


「俺は別にいい!! ペトラルカ、これは命令だ!! 早くそいつと一緒にそこから逃げろ!!」


 ペトラルカさんの請願は、クラック隊長に最後まで聞き入れられることはなかった。


「おい、ホルシュタイン! ……話は聞いてたな? とにかくお前はペトラルカと一緒にコミュニティーまで逃げ延びてくれ!

 ペトラルカのことを頼んだぞ! 俺の代わりにそいつの盾となり矛となり、騎士となってくれよ!!

 ……いろいろお前に対して注文が多いかもしれんが、絶対にそれだけは守り通してくれ! よろしく頼んだぞ!」


 クラック隊長がそれだけのことを言い終えた時、車はすでに橋の遥か上空のところまで、昇っていた。

 車内にはクラック隊長が残され、そのすぐ外側にはグリアムスさんが両腕だけで車にしがみついている。

 やがてグリフォンキメラは車を手に持った状態のまま、ハンマー投げの時のようにぐるぐると勢いよく回転し出し、自分たちの車はついにその遠心力で、橋の下を流れる川に放り投げられてしまった。

 最後の最後まで車に必死でしがみついていたグリアムスさんも、車が投げ出されたタイミングで車から振り落とされ、クラック隊長と同じ川に落ちていった。


「グリアムスさん!! クラック隊長!!」


 橋の上に取り残された自分とペトラルカさんは、水没していく車とグリアムスさんたちをただ茫然と眺めるしかなかった。

 グリアムスさんは水面にカラダを思いっきり叩きつけられ、それからしばらくその川から浮上してこなかった。

 クラック隊長はすでに水面から顔を出しており、自分たちの車を丸太のようにしてしがみついていた。

 それからしばらくして、グリアムスさんも川面かわもから顔を出してきた。

 すぐにクラック隊長の居場所を確認すると、彼もまたそこに向かってすぐに泳ぎだしたのだ。

 車のところまでグリアムスさんは無事に泳ぎ切ると、その道中で体力をひどく消耗してか、車の屋根部分に力なくもたれかかっていた。

 しかし車はすでにその大部分が水に浸かっており、このままだと2人もろとも川に沈んでしまいかねない状況だった。


「せめてもっと対岸に近ければ……」


 車から対岸の距離は相当あった。グリアムスさんたちが自力で泳いでいくにはあまりにも危険すぎる。

 川の周辺にイカダや小型ボートがあれば2人を助けにいけるのだが、それらしきモノはどこにも見当たらなかった。

 時は一刻を争う。あの車が沈む前に一刻も早く救出しに行かなければ……。

 そう思っていた矢先。


 ズシーーーン!!


 突然橋がその地響きと共に、激しく揺れた。

 波のように足元がふらつき、重心が支えられず思わず地面に倒れてしまった。

 川から即座に目を離し、橋の入り口付近に視線を向ける。

 するとそこには片道2車線の道路をも埋め尽くす、巨大なグリフォンが降り立っていた。

 前方にキメラ生物。背後には未だ燃え盛る火柱。

 自分たちはそのようにして、袋のネズミ同然の状態に追い込まれてしまったのだった。

ここまで閲覧いただき本当にありがとうございます!

※あと23話付近の投稿で完結になりそうです。(全120~130部の間での完結)

最後までお付き合い、いただければ幸いです!


※次回、中編その12のタイトルは『覚醒』、『大革命』、『君を守りたい』のどれかになると思います! もしくはそれ以外か…。


よろしくお願いします!


※追記 9/29 タイトルを若干修正しました

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