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中編 その9 「目からストロング光線」

 イーグルキメラないしグリフォンキメラが自分たちの車に向かって飛来している。

 自分たちは現在、湖沿いの車道を時速120キロで走行していた。

 急カーブ、急傾斜が連続する道であっても、グリアムスさんは遠慮なしに車をかっ飛ばし、まるで深夜に行われている走り屋たちのレースのように、ハンドルを右往左往に切っていた。

 法定速度なんてまさしくどこ吹く風。

 運転するグリアムスさんの顔には一切の余裕がなかった。


 そんな自分たちが今向かっている先は川に架かる橋。

 クラック隊長の先ほどの話によると、この先にあるその例の橋を越えさえすれば、コミュニティードヨルドまですぐとのことだ。

 あとは上空から追ってくるグリフォンキメラを撒くだけ。そうすればこの窮地からも簡単に抜け出せるだろう。

 ……そう安易に考えていた自分がいた。

 一方クラック隊長はグリフォンキメラ襲来後、すぐに車のルーフハッチを登り、取りつけられた機銃で、奴に銃撃を浴びせていたのだが…


「くそっ! なんて硬さだ!? 全然ぶち抜けねえぞ! ……まるで鋼鉄の鎧を相手してるみたいだぜ」


 クラック隊長が雨あられのように注ぐ銃弾は奴にとって蚊に刺された程度のものらしく、いくら撃っても、フライパンのような金属に命中し、弾き飛ばされたかのような鈍い音が鳴り続けていた。

 グリフォンキメラのカラダはまるでプレートアーマーのごとく、圧倒的な耐久力を誇っているのだ。

 しかも奴はこのような耐久力を持ち合わせていながら、時速120キロ以上で走行している自分たちの車から一切引き離されることなく、粘り強く追いかけ続けている。

 一度狙った獲物は絶対に逃がさない、まさしく生粋のハンターだ。

 ……だがまだこのように、奴が頑丈なカラダを持ち合わせているだけのキメラだったら、この状況も幾分かましだったかもしれない。

 と言うのも、奴はその高い防御力に加え、厄介なことに殺人光線という名の超兵器を持っており…


「グリアムスさん! また来ました! 目からレーザー光線です!」


 そのグリフォンキメラは何と上空からレーザー光線を飛ばしているのだ。

 グリアムスさんの華麗な運転のお陰で、かろうじて直撃をまぬがれてはいるものの、奴の青白く熱せられた光線は息つく暇もないほどに自分たちの車を目がけ放たれていた。

 あの怪光線をまともに喰らってしまえば、文字通り自分たちは火の車と化してしまうに違いない。

 ……もはやここまでくれば奴はキメラ生物ないし、SF映画のGODZILLAガズィーラに出てくるロボット怪獣のようにも思えてくる。

 銃弾はいとも簡単に跳ね返され、おまけに目からレーザー光線を放ってくるグリフォン。これをロボット怪獣と言わずして他に何と呼べばいいのか。

 自分にはそれ以外に形容すべき言葉が見つからない。


 そんなこんなありつつも、やがて前方から河川の上を通るアーチ状の橋が見えてきた。

 おそらくあれがクラック隊長の言っていた、例のコミュニティーに通じる橋に違いない。

 崩落したような箇所はどこにも見当たらず、車が一台通る分には問題ないように思える。


「グリアムスさん! あの橋ですよ! このまま一気に突っ切っちゃいましょう!

 ここさえしのげれば、自分たちの勝利です!」


 助手席からグリアムスさんにそう伝えるも、そんな彼からはうんともすんとも言ってこなかった。

 彼から何の反応も返ってこないのが気になり、ふと運転席の方を見ると、グリアムスさんはハンドルのグリップを強く握りしめながら、ただ一点橋の向こう側を見つめていた。

 どうやら自分の言葉はグリアムスさんの耳に一ミリも入っていないらしい。

 ……脇目も振らず、運転することだけに意識を集中させているのが、傍から見ても手に取るように分かった。

 無駄口を叩くのはこれ以上控えた方がいいかもしれない。その方が賢明だ。


 そうしていよいよ車は例のアーチ状の橋に差し掛かった。

 このまま橋を渡り切り、勢いそのままにコミュニティードヨルドまで駆け抜けようとしていたその時。


「グリアムスさん!! 上空から何か降ってきます!」


 突如自分たちの進む方角に、数発のファイヤーボール(燃え盛る肉団子状のモノ)が放たれたのだ。

 それらはちょうど橋の中腹部に着弾すると、まるで自分たちの行く手を遮るかのようにして瞬く間に燃え上がった。


「すごい勢いです! ど……どうしますか、グリアムスさん!?」


「どうもこうもありません! このまま前進あるのみです!」


 グリアムスさんはそれらの状況を見てもなお、臆することなく、アクセルをより一層吹かし、火柱の中を強引に突破しようとしていた。


「おい、無茶だ! グリムリン! 一旦車を止めろ!」


 さっきまで屋根の上に居たはずのクラック隊長が、それらの状況を危険と判断してか、後方の席からいきなりそのように声を上げた。


「えっ? ……は、はい! かしこまりました!」


 グリアムスさんはクラック隊長の指示に素直に従い、慌ててブレーキをかける。


「うわっ!」


 耳がはちきれんばかりのタイヤの摩擦音と共に、車は火柱の立っているちょうど手前辺りで停車した。

 その停車直後、グリアムスさんは即座にバッと後ろを振り返ると、クラック隊長に対して語気を荒げながら以下のことを言った。


「クラック隊長さん、どうしてです!? なぜわたくしに車を止める指示を出したんですか!?」


「バカ野郎、グリムリン! あんな中を車で突っ込む奴があるか!! 下手すれば俺たち大爆発だぞ!」


「ですが! クラック隊長さん!」


「いいからとっとと引き返せ、グリムリン! もうこれ以上前には進めねえ! 早く車を下げろ!」


 クラック隊長は怒号を飛ばし、忙しなく後方に親指を向けた。それに対しグリアムスさんは……


「何を言ってるんですか!? 端から戻る選択肢なんてありませんよ! 引き返したところであのグリフォンキメラが待ち構えているだけです!」


 グリアムスさんはクラック隊長の意見に真っ向から反対すると、彼の命令を無視し、再びアクセルを踏もうとしていた。

 それを見たクラック隊長は、慌ててグリアムスさんの肩を掴むと、彼にこう言った。


「待て、グリムリン! あの中をくぐり抜けるのは自殺行為だ! ……仮にあの火の中を突破したとしても、この先はしばらく直線が続く。

 それでまた奴があの火の球を放ってきたらどうすんだ!? そうなりゃ俺たちは一巻の終わりだ。

 冷静になれ、グリムリン!」


「……しかしだからと言って、ここから引き返すのはもっと悪手です!」


 そう言ってグリアムスさんは再びアクセルを踏もうとする。


「おい、グリムリン! ここは映画の世界じゃねえんだぞ!? この車には往復分のガソリンがたっぷり入ってんだ!

 お前が今からやろうとしていることは、真性のアホがすることだ! 地雷原にわざわざ足を踏み入れるようなものだ! 無謀にも程がある!

 お前のその適当な思い付きに俺たちを巻き込むな!」


「ですが、クラック隊長さん……」


「こうなった以上、選択肢は一つだ! ……あのグリフォンをここで迎い撃つ! もうそれしか俺たちに残されてねえ!」


「それこそ無謀というものです! クラック隊長さん! わたくしたちだけで奴を撃退できるとお思いで!?」


「さっきからぐだぐだうるせえぞ、グリムリン! 無謀とか言ってねえで、ここはイチかバチかだ! やる時はやるしかねんだよ!

 手をこまねいても何も始まらねえぞ!

 ……おい、ホルシュタイン! 確かそこの小物入れに、俺のダガ―ナイフが入ってたはずだ! まずそいつを俺によこせ!」


「は……はい! わかりました!」


 自分はクラック隊長に言われた通り、車のグローブボックスからダガ―ナイフを取り出すと、それをすぐ彼に手渡した。

 いざナイフを受け取ったクラック隊長が、それを使って何をするのかと思っていたところ、何とあろうことか、その渡したナイフで拘束中のラロッカの縄を次々と切り始めたのだ。


「クラック隊長! この期に及んで何を!? そいつがやったことわかってるんですか!?」


「無論承知だ、ホルシュタイン! だが状況が状況だ! 今は1人でも人手が欲しい! こいつの手も借りなきゃならねえ!」


 クラック隊長は自分の反対意見を押し切って、ついにラロッカの縄を全て切り落としてしまった。

 そうして晴れて自由の身となったラロッカ。

 そんな彼に対し、クラック隊長は鬼教官のような形相で詰め寄ると、彼の耳元で大きな声を上げながら次のように言った。


「おいラロッカ! よく聞け! 今だけお前の拘束を解いてやる。その代わり俺たちを全力で助けろ! 銃を持って戦え!

 ……だが次にまたあんなヘマをしたら、ただじゃおかねえぞ。

 わかったか!? ラロッカァァ!?」


「サー! イエッサー!!」


「声が小さい! わかったかぁ!? ラロッカァァ!?」


「サァァーー!! イエッサァァーー!!!」


 顔真っ青で若干声がうわずりながらも、ラロッカは素直にそう答えていた。

 そんなラロッカ本人の意思確認を聞き遂げてから、クラック隊長は彼が携帯しているライフルを手渡した。

 次にクラック隊長は、彼の隣の席で首をうなだれたまま身動き一つも取らないペトラルカさんに対し、先程ラロッカに接したのと同じ態度でこう言ったのだった。


「おい、ペトラルカ! いつまであいつのことで引きずってるんだ! いい加減目を覚ませ!

 ……もうあいつはお前の傍にいない! 死んでしまった奴のことで、いつまでも落ち込むな!

 今は武器を手に取って、戦う時なんだ! 落ち込むのはその後にしろ!

 ……いいか? 今はお前の力が必要だ! 力を貸してくれ、ペトラルカ!」


 しかしクラック隊長の必死の説得もむなしく、ペトラルカさんはかえって伏し目がちとなり、顔を手で覆い隠してしまった。


「おい……ペトラルカ。お前、ずっとそのままでいるつもりか!? ……いい加減にしろ!

 現実から目を背けるな!」


 クラック隊長はそんなペトラルカさんの様子に、ついにしびれを切らしたのか、大きく腕を振り被り、彼女に対し手をあげようとした。


「クラック隊長! さすがにそれだけは!」


 ペトラルカさんに対し鉄拳制裁を辞さない構えの隊長に、自分は居ても立っても居られず、そのように声を上げた。


「止めるな、ホルシュタイン! こいつの目を覚まさせるにはもうこの方法しかない!

 ……できるなら俺だってこんなことはしたくなかった!」


 そう言うクラック隊長の目には、若干涙がにじんでいる。


「だからと言って、ペトラルカさんに暴力を振るうなんて……。そんなの間違ってます!」


「……でも今は緊急事態だ! 俺たちの命がかかってる! 手段を選べる状況じゃねえことぐらい、お前でもわかってるだろ!?

 こいつが辛いことぐらい、俺でもわかってる。

 だがな、その感情は時に押さえる必要だってあるんだ。……今がその時だ!!」


 クラック隊長は憔悴し切っているペトラルカさんに対し、いよいよ平手打ちをかまそうとしていた。


「ダメです! どんな時であろうと、暴力を振るうのは!!」


 自分はそう言うのと同時に、体格的にかなりの差があるクラック隊長に対し、助手席から掴みかかろうとした。

 しかしその時だった。

 突然横からグリアムスさんがカラダごと上から飛びかかってきて…


「ベルシュタインさん! 伏せてください!」


 グリアムスさんは自分の頭を車のシートに叩きつけると、この自分に上から覆い被さるようにして、横に伏せたのだった。

 すると程なくして、車のフロントガラスが音を立てて割れ、辺りにそれらの破片が一斉に散乱した。

 自分の顔にもガラス片が降りかかり、それに思わず目を瞑った。


「うううっ…。い……いったい何が」


 石か何かが窓に投げ入れられたのだろうか? 

 しかし軍用車のフロントガラスが、たかがそんな石ころ程度のモノで粉々になるはずがない。

 自分は、警官に無理矢理取り押さえられたような格好のまま、大破してしまったフロントガラスに目線を合わせた。


「うっ!? な……なんだあれは!?」


 視線の先には、鋭利な2本のランスがフロントガラスにまっすぐ貫通しているのが映っていた。

 ……さらに車のボンネットの上には、直立二足歩行のクロコダイルが立っており、それらの鋭利な槍は奴の腕から生えたモノだった。

 2メートルは優に超えると思われるそのヒト型サイズのクロコダイルは、自分たちを獲物として見ているのか、トカゲ並みに長い舌でよだれを垂らしながら、ずっと舌なめずりしている。


「くっ!? いったいこいつは、どこから現れたんだ!?」


 そんなクロコダイルキメラを自分はキリッと睨み付けると、後方からクラック隊長が…


「お前ら、耳を塞げ! そこから一歩も動くんじゃねえぞ!」


 慌てて両耳を抑え、車のシートに顔を埋めると、ほどなくしてショットガンの銃声が車内に轟き渡った。


「ううう…。グ…グリアムスさん大丈夫ですか?」


「はい。……なんとか」


 グリアムスさんの身を挺した行動のおかげで、自分はクロコダイルキメラに串刺しにされずに済んだ。

 しかし、最悪なことに自分たちはそのクロコダイルキメラとグリフォンキメラの挟撃に遭ってしまったのである。

ここまで閲覧いただき本当にありがとうございます!


※あと25話付近の投稿で完結になりそうです。(全120~130部の間での完結)

最後までお付き合い、いただければ幸いです!


※次回、中編その10のタイトルは『霹靂一閃の恐怖』、『石化の恐怖』、『恐怖のグングニル』のどれかになると思います!

次回も閲覧いただければ幸いです! 


次回、最終章『統領セバスティアーノ編』:中編 その10です。


今後もバクシン! していきます!

よろしくお願いします!!

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