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中編 その6 「活きのいい魚」

 林を抜け、ようやく開けた場所に出られた。

 道中ラロッカは手足をひたすらバタバタさせており、彼を運ぶこと自体、実に工事現場の角材を運ぶこと以上に骨が折れた。

 とにかく憎たらしいほど、奴には落ち着きがなかったのだ。

 仮に今、肩に担いでいるのがただの活きのよい魚なら、煮るなり焼くなりを想像しつつ、夜ご飯が待ち遠しいってなるのだが、いかんせん運んでいるのは人だ。

 何の腹の足しにもならないし、ただのくたびれ儲けである。


「グリアムスさん…。一旦ラロッカをここに下しませんか。ちょっと休みましょうよ」


 肩で息をしながら、彼にそう言った。


「ダメですよ、ベルシュタインさん。弱音を吐いている場合じゃありません。

 車のところまで、すぐそこですから……。もうひと踏ん張りですよ」


 そう言って、グリアムスさんが顔を向けている先には自分たちが今まで乗ってきた車がある。

 しかしその車は林の手前からはなぜか移動しており、今は公道のど真ん中に停車していた。

 自分が意識を回復してから間もない時、確かにあの車は一本の木に追突したままの状態だった。

 ……きっとクラック隊長かペトラルカさんの内の誰かが、意識を取り戻し車の位置を戻してくれたのだろう。

 そう思っていた矢先に、車からクラック隊長が降りてきた。

 彼はこちらに向かって両手で大きく手を振ると、一目散に自分たちの元へ、武器を持って駆けつけてくれた。


「おお! よかった、よかった! 目が覚めたら、お前ら3人の姿がどこにもなかったもんだから本当に焦ったぜ。ひとまず無事で何よりだ。

 ……けどそれにしたって、一体全体誰がラロッカをこんなにまで縛り上げたんだ? まるでサナギじゃねえか」


 クラック隊長はラロッカの方を一瞥し、若干眉をひそめた。


「すいません…。これをやったのはわたくしでございます。

 あれからもラロッカは執拗にベルシュタインさんを林の中で追いかけまわし、本気で殺そうとしていたんです。

 そこで少々乱暴ながらも、このわたくしがしかるべき処置を取らせていただきました。

 無断でロープとガムテープも拝借しました。……本当に申し訳ございません」


 グリアムスさんはクラック隊長に向かって、深々と頭を下げた。


「お…おう」


 クラック隊長は若干狼狽気味だ。


「ま……まあ、もしかしたら他にも何かやり様があったと俺は思うが、ひとまずラロッカの件については丸く収まったようだし、それでよしとしよう。

 ついでにロープとガムテープの件についても、今回はお前の働きに免じて不問としてやる」


「……かたじけない。ご厚情(こうじょう)痛み入ります」


 グリアムスさんはまた一段と頭を下げた。


「あと……これはお前を不問にする代わりと言っちゃなんだが、せめて口元のガムテープぐらいは剥がしてやれ。

 何ていうか、ラロッカがとっても苦しそうだ……」


「わかりました。クラック隊長さん。……仰せのままに」


 グリアムスさんが淡々とそう答えると、自分たちは奴の口元のガムテープを外すため、一度地面に下ろした。

 そしてグリアムスさんはラロッカの顔の真ん前で腰を下ろすと……あろうことか冬場であるにも関わらず、奴のガムテープを勢いよく剥がしたのだった。


 ビリビリビリ!!


「いってえぇぇ! ……おい、てめえぇぇぇ! 何しやがる!!」


「あっ…申し訳ない。手が滑ってしまったようです……」


 そんなラロッカはグリアムスさんのことを恨めしそうに見つめていた。


「おいおいおい…。何もそこまでしなくたって。お前も随分むごたらしいことをしやがる。

 もっと優しく剥がしてやれよ……」


 クラック隊長もグリアムスさんの突発的な行動に動揺を隠せない様子だ。

 自分としては当然『いいぞ! もっとやれ!』という心境なのだが。


「……まあひとまず、よくやったグリムリン。俺の部下の不手際のせいで、お前とホルシュタインにはだいぶ迷惑をかけちまった。

 すまねえ。あとでしっかりと、そいつにはお灸をすえる必要があるようだな」


 クラック隊長はそう言うと、軽く礼をした。


「いえいえ、滅相もございません。わざわざ危険を冒してまで、わたくしたちのことを探しに来てくれたのですから。

 むしろお礼を言うのは、わたくしたちの方です。ですがそのせいであなたの尊い部下の命が……」


「そのことならもういい。お前らが責任を感じる必要はない。

 それこそ俺の不手際だ。俺がもっとちゃんとした判断を下せていれば、こんなことにはなってなかった。

 ……全責任は俺にある」


 クラック隊長の表情は悲し気だった。


「今、俺に課せられた任務は、生き残った全員を無事にコミュニティーまで連れ戻すことだ。これ以上の犠牲を出してたまるものか。絶対にな…。

 ……俺の中にあるのはこれだけだ。ひとまずここまでご苦労だった2人とも。

 後は俺がラロッカを預かる。2人ともそれぞれ運転席と助手席に乗り込んでくれ。

 それと、グリムリン…。お前には引き続き運転の方をよろしく頼む。

 今の俺たちにはお前さんの力が必要だ。……頼んだぞ」


「わかりました。クラック隊長さん」


 自分たちはロープで巻き巻きにされたラロッカをクラック隊長にあずけると、そのまま急ぎ足で車の元まで向かった。

ここまで閲覧いただき本当にありがとうございます!


※あと28話付近の投稿で完結になりそうです。(全120~130部の間での完結)

最後までお付き合い、いただければ幸いです!


※9月の上旬までには、最終章後編に入れると思います! 今後もよろしくお願いします!


次回、最終章『統領セバスティアーノ編』:中編 その7です。

今後もバクシン! していきます!

よろしくお願いします!!


※9/6 あとがきを一部修正しました。

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