前編 その20 「作戦GO、GO、GO!」
工場の正面扉付近には、今現在ぽっかりと大きな穴が開いていた。
トータスキメラの砲撃で破壊され、奴が突進してきたためにできた穴だった。
建物を支える柱自体、まだその多くが残存してはいるが、工場全体が崩れるのも時間の問題だろう。
そうなる前に一刻も早く、この工場から脱出する必要があった。
「ペトラルカとホルシュタイン! …今のうちにミーヤーを連れて、俺たちのところへ来い!」
自分たちはクラック隊長の指示に従い、据え置きのプレス機械に身を隠しながら、工場の一番奥にある防火扉を目指しているところだ。
幸いトータスキメラに自分たちの居場所はまだ捕捉されてない。
息を殺しながらなるべく物音を立てぬよう、慎重に移動していた。
「クラック隊長! このままのペースで進んでも俺たち全員、工場の瓦礫の下敷きになるだけです!
こうしてただ逃げてるよりも、奴を先に仕留めた方が手っ取り早いかと…」
ラロッカはそう言った。
「無理だ! あのサイズのキメラを狩るには、最低でも十数人必要だ!
とてもじゃないが、奴とまともにやり合ったところで勝ち目はない!」
「…そ…そんなの実際にやってみないとわからないでしょ! 行動あるのみです!
…俺は戦います! 戦って必ずや勝利を掴んでみせます!」
ラロッカは背中にかけていたライフルを持ち直し、潔く機械から身を乗り出そうとした。
その動きを見たクラック隊長は片手一本で彼の襟元を掴み、引き戻すと…
「よせ、ラロッカ! 命を粗末にするな!」
厳かな声でそっと言ったのだった。
「行かせてください! …もう他に方法はない!」
「…よせって言ってんだろ! 一旦冷静になれ!」
それでもクラック隊長の忠告を無視し、ライフルを手に無謀にもまたトータスキメラに突っ込んでいこうとするラロッカ。
そんな彼に対し、クラック隊長は彼の胸ぐらを掴み、ぐっと離さずその場に留まらせた。
そしてクラック隊長はラロッカがこれ以上無茶な行動をせぬよう説得にかかった。
…トータスキメラに声が聞こえぬよう、低く声を抑えながら…。
「…作戦を伝える。ラロッカもよく聞いておけ。
…この工場はもうじき崩落するだろう。
それまでに俺たちはあの防火扉を伝って工場の外に脱出しなければならない。
…できればこのまま奴をやり過ごし、無傷で出られるのが理想なんだが…おそらくそれはほぼ不可能に近い。
いずれ俺たちは奴に見つかっちまうだろう。
…もしそのような状況に陥り、工場も間もなく崩壊寸前まで迫った時。
そうなった際の作戦を今、ここで伝える。
作戦はこうだ。
…俺とラロッカとペトラルカの武器を持った3人で、あのキメラを迎え撃ち、どうにかして奴を足止めする。
その隙にミーヤーとホルシュタインとグリムリンの3人は、一斉に工場の奥の防火扉まで走り、俺たちより一足先に脱出してくれ。
お前たちが全員脱出したのを見届けた後、俺たちも素早く撤退する。
俺を含め、武器を持ってる以上3人は、ミーヤーたちが出られるまで前線で戦ってくれ。…いいか?」
「「了解!」」
ペトラルカさんとラロッカは何の迷いもなく、キッパリとそう答えた。
「…あとは、そうだな。ホルシュタインにグリムリン。お前たちに問う。
…怪我をしているミーヤーの代わりに車を運転できる奴はいるか?」
するとグリアムスさんがおもむろに手を挙げ…
「…わたしく、かつて営業マンで毎日のように得意先を回っておりました。…運転のことならお任せを」
「よし、なら安心だ。…お前に車のキーを託す。
お前は外に出たら一目散に車のところまで行って、いつでも発進できるよう待機しててくれ。
…ちなみに俺の車は緑のでっかいジープだ。軍用車だからすぐに目立つはずだ。
…できるだけ俺らが来て、すぐに逃げ出せるようスタンバイしておいてくれ」
「……了解です。…クラック隊長さん」
クラック隊長はその一言を聞いてから、自分とミーヤーの方に顔を向け、真剣な眼差しで次のように言った。
「ホルシュタインはミーヤーを連れて2人で脱出しろ。…ミーヤーのこと頼んだぞ」
「…わかりました。クラック隊長。…自分…ミーヤーのこと、命に代えても守ってみせます!」
「その意気だ。…よろしく頼む」
満足そうに頷くクラック隊長。
そんな彼の横に居たラロッカも続いて…
「…おい! お前、ホルシュタインと言ったな?
…ミーヤーの事、任せたぞ。…絶対に死なすんじゃねえぞ」
「…約束は守ります! …必ず。この身を捧げてでも!」
ラロッカにそう言い、握りこぶしで1つ胸をポンと叩いたその瞬間…
「お前ら、全員伏せろぉぉ!」
クラック隊長が急にそう叫んだ。
瞬時にみんなは地面に伏せる。
…と同時に、一発の砲弾が自分たちが隠れている機械の一歩手前で着弾した。
耳をつんざくような轟音が鳴り響き、地面が大きく揺れた。
自分はすぐさま両耳を押さえつつ、機械の上から顔を出して、辺りの様子を伺う。
…トータスキメラが甲羅の真上にある砲台の先端から煙を出しながら、こちら側にカラダを向け、ゆっくりした歩調で近づいていた。
ちなみに手前のコンクリートの地面は、着弾の衝撃からか大きく陥没していた…。
「…くそ。もう奴にバレてしまったのか…。お前ら、早速作戦実行だ!
さっき言った3人は武器を持ちながら左右に散らばれ! ここで奴を迎え撃つぞ!
ミーヤーとホルシュタインとグリムリンは俺の合図で一斉に出口まで突っ走れ!」
「「「了解です!」」」
「……いいか、ホルシュタインにグリムリン! 3、2、1の合図だ!
…3、2、1の合図で走ったら、それからは決して後ろを振り返るな。
俺たちが仮にどうなったとしても、お前らは工場の外につながってるあの防火扉をまっすぐ目指せ! いいな!?」
「「はい!」」
「…よし、行くぞ! …3、2、1、ゼロぉぉぉ!! GO、GO、GO!」
彼のカウントダウンが終わると共に、武器を持った3人は左右に散らばり、攻撃を開始した。
それと同時に自分たちも一斉に立ち上がり、出口目指して一直線に駆けて行った。
クラック隊長はショットガンを構えながら、ペトラルカさんと一緒に自分たちから見て、右の方へ展開していく。
ペトラルカさんは先端に小型爆弾を取り付けた矢を手に持ち、プレス機械に身を隠しながら、放物線を描くように矢を次々と放っていた。
「…ベル坊。振り返るな…。あとは隊長とペトラルカたちに任せるんだ。
とにかくわたしたちは早く出口へ…。…今は自分のことだけを考えろ」
ミーヤーは肋骨辺りを手で抑えながら、息をするのも苦しそうにしながら走っている。
…心なしか普段よりも走るスピードが遅くなっているようにも思えた。
「ごめん…」
ミーヤーに注意され、素直に謝る。
今でも前線では自身の身を投げ打ってまで、3人が必死に戦ってくれている。
…そういえばさっきクラック隊長が自分たちに作戦内容を伝えた際、誰1人として異議を唱える者はいなかった。
彼が提言した作戦はもはや特攻攻撃のようなものだ。
にも関わらず、ペトラルカさんを含めラロッカにも、彼に対して一切反抗的な様子が見られなかった。
これもクラック隊長に対する信頼の現れと言えば、聞こえは良いものの…。
正直、自分は彼の作戦には猛反対だった。
しかしあの時のクラック隊長には有無を言わさぬ凄みがあり、結局自分はその彼の圧に恐れをなしてか、そのことに関してついに言いそびれてしまった。
あの場で何も言い出せなかったことを後悔するかもしれないと分かっていながら…。
…トータスキメラに背中を向け、何も戦わずして逃げているだけの自分がどうしようもなく情けなかった。
ここまで閲覧いただき本当にありがとうございます!
※次回でおそらく最終章前編は終了すると思います。
最終章前編は終了した後、最終章中編に突入します。
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次回、最終章『統領セバスティアーノ編』:前編最終回?(かも)その21です。
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