前編 その18 「わたしたちはN極S極」
ペトラルカさんとミーヤーとはこうして無事に再会を果たした。
コミュニティードヨルドから遠く離れたこの地で。
そんな彼女たちとの奇跡の再会に、周りの目もある中、自分も思わず彼女たちと感動の抱擁を交わしてしまった。
しばらくはそうしていても平気だった。これといって何ら恥じらいもなかった。
…が、しかしそれも、クラック隊長とグリアムスさんの方を一瞥した際に、すべてが崩れ去った。
……彼らは自分たち3人の方を見て、まるで我が子を慈しむかのような、暖かい目で見守っていたのだ。
その瞬間…。
我に返ると、急に恥ずかしさが込み上げてきた。
「……ああああ! もう無理いぃぃ!」
自分はたまらず彼女たちを引きはがし、一旦その場から離れることに…。
しかしそうしたのも束の間。
ペトラルカさんとミーヤーはまるで互いが磁石のN極とS極かのように、引き寄せられるようにして、再びくっつこうとしてきた。
…再会できたことの喜びを彼女たちはまだ分かち合いたいと思っているようだ。
自分としてはもう十分、お腹いっぱいなのだが…。
とにかく2人とも妖怪のキョンシーのように、腕をまっすぐ自分の方に向けて、また近づいてきたのだ…。
……これ以上彼女たちと熱い抱擁を交わすと、恥ずかしさのあまり頭が沸騰しかねないので、自分の方から話を切り出して、この良くない流れを断ち切ることにした。
「それはそうと2人とも! …ど…どうして自分とグリアムスさんがここに居るってわかったの?
そもそもコミュニティーからこの工場まで、だいぶ距離があるし、いったいどうやって…」
光を求め、さまよう亡者のような2人にそう聞いてみた。
するとペトラルカさんとミーヤーはおでこに札が貼られ、動きを封じられたようにして、その場で立ち止まってくれた。
「そ…そうか! やっぱりそれ気になっちゃうよね? …ならわたしに任せて、ベル坊くん!
わたしがちゃんとズバッと説明してあげるね!」
とのことで、ペトラルカさんの口から、この廃工場に至った経緯全てを語ってもらうことになった。
…それと同時に、ようやく彼女たちの魔の手から解放されたのであった。
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内容はざっとこうだ。
自分とグリアムスさんをここまで追って来られたのにはちゃんとした理由があった。
……ペレスたちのトラックに盗聴器を仕掛けていたからだと言う。
その盗聴器から聞こえてきた会話の内容を頼りに、ここまで追跡してきたらしい。
それらを用意してくれたのがラロッカ。
クラック隊長の横に居たあの銀髪イケメンの彼だと言う。
前日の真夜中のこと。
そんな彼の部屋の元に、ペトラルカさんがアポなしで訪れた。
その際にペトラルカさんと銀髪ラロッカ君が交わしていた会話がこうだ。
『ベル坊くんとグリ…なんとかさんが、明日コミュニティーの外に連れ去られてしまうの!
…ラロッカ君って、元通信兵だったんだよね? そこでお願いがあるの!
トラックに仕掛ける発信機みたいなの持ってない!? …もし持ってなかったら、それを作ることってできる!?』
と、ペトラルカさんはまず彼にこう言ったらしい。
すると彼は次にこう答えたと言う。
『残念だけど、持ってないな。まあでも、ペトラルカの言う通り、発信機のモノ自体は作れなくはない。
…ないんだけど、結局発信機を作ったところで、今の時代GPSが全く機能してないから、何の意味もないんだよな…』
『そうなんだ…』
『…でもその代わりと言っては何だけど、発信機じゃなくて盗聴器なら今すぐ用意できるぞ』
『盗聴器?』
『そうだ。……盗聴器だ』
ラロッカはそう言うと、座っていた机の引き出しを開ける。
そして中から2個の盗聴器を取り出し、それらを机の上に置いてみせた。
『…ペトラルカの言う、発信機代わりにはなるはずだ。
この小型の盗聴器をトラックに仕掛ければ、100キロ先離れても鮮明に聞こえるようになっている。
……尾行にはうってつけの代物だ』
ラロッカはその拳サイズの盗聴器を鼻にかけたように誇らしげに見せていた。
『へ……へえ~。そうなんだ~。
……まさかとは思うけど、ラロッカ君。それを変なことに使ってないよね?』
するとラロッカは…
『はあっ!? 何でだよ!? …何でそうなるんだよ!?』
っと言って、激昂した。
『…だって盗聴器だよ? イメージ的にそうなるよ…。
ってか、なんでラロッカ君、盗聴器持ってるの?
それって人の会話を盗み聞きするやつだよね…』
少し考え込む仕草をしてから、ペトラルカさんは次にこう言葉を放った。
『……ひょっとして、ラロッカ君…。
ラロッカ君って、盗聴魔さんだったの!?
信じられない! もしそうだったら、わたしの中のラロッカ君が音を立てて崩れちゃうよ~!』
ペトラルカさんは頬に手を当てて、驚く仕草をする。
『何言ってんだ、ペトラルカ! そんなんじゃねえって!
…これはただ、ある方に頼まれて作った物なんだって!
俺が人様を盗聴するために作ったんじゃねえ!』
『ホントに? じっー……』
『本当だ! …だから俺をそんなジト目で見ないでくれ! ……トムさんだ! トムさんだよ!
セバスティアーノさんの側近のトムさんに頼まれて作ったんだ! 疑うなら彼に直接聞いてみたらいい!
……だいたいな、ペトラルカ。
盗聴器を使って、人のプライベートを又聞きするような奴なんて、気持ち悪すぎるだろ!
……そんなの全くモテない陰気臭い男がすることだぜ。例えば人のパンツを盗むような奴とかな!
俺みたいなナイスガイはそんなことはしない!
…誓って言えるね』
『じっー……、怪しい。…すごく怪しい。わたしの中のセンサーが今、ビビビビって反応してるよ…。
そういえば最近、わたし下着無くしてたの。…わたしの一番のお気に入りの。
その犯人……もしかしてベル坊くんじゃなくて、ラロッカ君だったりする?』
ギロリ!
ペトラルカさんはラロッカを般若の形相でにらみつける。
『ちげえよ! 知るかそんなこと! ペトラルカが誰かにパンツを盗まれてたなんて!
……止めてくれ、止めてくれよ! そんな目で俺を見るなって!』
『じーっ……』
『……そんなに見つめられても、俺からは何も出てきやしないから! 安心しろペトラルカ!
……ほら! いいから早く持ってけ、持ってけ! この盗聴器!』
ラロッカはそう言うと、ペトラルカさんの手に机の上に置かれていた盗聴器2個を握らせた。
『ほらほら! もう用が済んだのなら出てった、出てった!』
ラロッカは半ば強引に、まるでペトラルカさんを厄介払いするかのようにして、部屋から退出させようとする。
しかし当のペトラルカさんは一向にその部屋から出る様子がない。
するとラロッカに対して、彼女は以下のことを言った。
『それとね、あと1つだけラロッカ君に頼みたいことがあるの』
『あと1つだけ? ……盗聴器の他に何だ?』
『……ラロッカ君も明日、わたしたちと一緒に来てほしいの。
…実はね、ミーヤーが「わたしも外に連れてって」って無茶を言い出して…。
クラーク先生からは絶対に安静にするようにって、散々言われたのに、ミーヤーってば、ちっとも聞く耳を持たないの…。
……肋骨も何本も折れてて、頭にもひどい傷を負ってるそんな状態なのに…』
『……そうか。…そいつは見過ごせないな』
『盗聴器をもらっておいてなんだけど、出来ればラロッカ君にも明日わたしたちと一緒に同行してほしいの。
……わたしとクラック隊長だけだったら、とてもじゃないけどミーヤーのこと、ずっと見てられないから…』
『……まあそういうことなら、俺も一緒に行くよ。
ミーヤーにとって大事な誰かさんのためなんだろ?
…外は危険だし、俺がミーヤーを守ってやるよ』
『ありがとう。…ラロッカ君』
それからペトラルカさんは彼から盗聴器を受け取り、夜明け前までにペレス宅のガレージに潜入し、トラックに全部仕掛けたのだった。
そして実際誰にも見つかることがないまま、ペレス宅を去り、そのまま朝方を迎えると、ペレス隊の連中はコミュニティーから出発して行った。
そのタイミングを見計らい、クラック隊長の車でクラックを含むペトラルカさん、ミーヤー、ラロッカの計4名が搭乗し、彼らの後を追う予定だった。
しかし当日。
クラック隊長の車の整備が間に合わず、そのため出発予定時刻が大幅にずれてしまったらしい。
またさらにコミュニティーの外で車がエンストを起こしたりなど、道中様々なトラブルに見舞われため、ここへの到着が遅れに遅れてしまったとのことだ。
「ごめんなさい! ベル坊くん! 本当ならもっと早くあなたをコミュニティーまで連れ戻せる予定だったのに…」
っと言うと、ペトラルカさんは深々と頭を下げ、それらの失態を自分に対し、詫びてくれたのであった。
ここまで閲覧いただき本当にありがとうございます!
※あと3、4話ほどで最終章前編は終了し、最終章中編に突入します。
※あと37話付近の投稿で完結になりそうです。(全120~130部の間での完結)
最後までお付き合い、いただければ幸いです!
次回、最終章『統領セバスティアーノ編』:前編その19です。よろしくお願いします!