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前編 その9 「グリアムスさんの裏の顔」

※5月中に完結するのどうやら無理そうです。

 自分とグリアムスさんは今、工場内部の偵察をさせられている。


 工場は縦に長く、目分量だがおおよそ100メートルほどあった。

 ハイスクール時代の体力測定の際に行った100メートル走とちょうど同じ奥行きだった。

 …あの時の事は忘れない。女の子とタイマンでタイムを競わされたあの忌々しい100メートル走のことを…。


 その日は体育の授業の初っ端から、腹痛でずっとトイレに籠り続けており、そこで大半の時間を食わされていた。

 出すものをしっかり出し、ある程度すっきりしてから、クラスの皆が待つグラウンドの方まで戻っていった。

 しかし自分がトイレからグラウンドの近くまで戻った時には、すでに男子が全員100メートルを走り終えていたのだ。


 男子の計測が終わり、次は女の子が100メートルを走る番となっていた。


 いざ女の子が100メートル走の計測を始めようとしていたその時、自分はグラウンド中央にはまだ戻らず、ちょうどグラウンドの隅っこの方で、クラウチングスタートの段階からおっぱいぷる~んぷるんとなっていた女の子を遠くから眺めながら、鼻の下を伸ばしまくっていた。


 するとその現場をストップウォッチを握りしめ、今にもスタートの合図を出そうとしていた授業中の体育教師に見つかってしまったのだ。

 その体育教師からはすぐにそこから戻ってくるよう言われ、自分は急ぎ足で戻った。


 自分が戻って早々、その体育教師は自分が遠くの方から女の子の胸を舐めまわすようにして目に焼き付けていたことをその女の子を含め、クラス全員の前で面白おかしく暴露し、終いには自分とその子の二人一組で100メートルを走ることを強要されたのであった。


 …未だになぜこの時、自分がそのような視姦行為を行ったことをクラスの全員の前でばらされ、あまつさえその女の子と徒競走をさせられなければならなかったのか?

 ハイスクールを卒業した今となっては、その真相は完全に闇に葬り去られてしまったのである。


 …ちなみにその女の子とのレースの結果は、そもそも相手の子が陸上部だったため、普通に負けてしまった。


 …あの時に走らされた100メートルのことは今でも鮮明に覚えているため、間違いなくこの工場の全長は100メートルなのである。

 ……そう言い切れる自信が自分にはあった。



「グリアムスさん。それにしても何で中はこんなにも綺麗なんですかね?」


 廃工場内部はあの工場の外壁とは一転し、意外にもすこぶる綺麗だった。

 全体的にほぼ赤茶色一色で、どちらかと言えば濁った色合いだった工場の外壁に対し、中はだいぶ様子が違っていたのである。


「そんなことわたくしに聞かれましても…皆目見当がつきません」


 自分たちが工場の中へと入り、真っ暗な中、ゆったりとした足取りで進んでいると、まるでセンサーに反応したかのようにして、突然明かりがつき、それから工場のクリーム色の床がパアッと広がった。

 …工場の床と天井はどれもピカピカに輝いていた。


「これが所謂、自動点灯ってやつですか…」


 一瞬、ここに住んでいる誰かが工場の照明をつけたのかと自分は思っていた。

 …しかし耳を澄ませてみても、何の音もせず、誰も居る気配はなく、しばらくしても誰もうんともすんともしてこなかったため、自分はそのような理解をしていたのだ。


 外観は完全に寂れた廃工場そのものである。

 しかし肝心の内部はこのような人感センサーがついているのもあり、工場内と外とのギャップがものすごい。

 …正直電気が点くこと自体、予想外のことだ。

 暗い地下牢のようなじめじめした場所をグリアムスさんと一緒に練り歩いていくのを想定していたのもあってか、少々拍子抜けした気分である。


「…きっとこの工場のどこかに動力室たるものがあって、それがまだ稼働しているのかもしれませんね」


 グリアムスさんはそう言った。


「でも仮にそうだとして、動力源は一体何なんでしょうか?

 世界に異変が起こってから1年あまり。…それからずっとここには、明かりが灯り続けていたことになります。

 …なんとも不思議な現象ですね」


 自分は工場用の大きな天井照明を見つめながら、グリアムスさんにそう言った。


「これを不思議な現象と言っていいのかはさておき…。ベルシュタインさんの言う動力源の正体に関しては、今のところ何とも言えませんね。

 …でも現にこうして明かりは点いているので、正直なところ、ここにはまだ人が居てるように思えるんですがね」


「…それに関しては自分も同意見です。

 ここがもぬけの殻だなんて考えにくいですよね。

 わざわざこんな場所を手放してまで、他のところに移り住もうって、なかなかならないと思います。

 …別に工場のどこにも損壊してるような箇所はありませんし」


 自分は工場の端から端まできょろきょろ見渡している。


「…でもどうやらここには誰も居なさそうですね。

 わたくしたちがここに入るまでは、少なくともずっと真っ暗でしたし。

 工場の外窓もいくつかありましたが、どれも中から明かりは見えてきませんでした。

 …この工場に実際、誰か住んでいるとなれば、そうはならないはずです。

 仮に誰かここで暮らしているのだとすると、わたくしたちが入るまで、ずっと明かりが灯ってなかったのはやはりおかしいですからね」


「…ってことは、やっぱりここには誰も居ないと…」


「そう思います。

 …あとわたくしが見た限り、工場周辺に何かしらの作物が育てられていた形跡もどこにもありませんでした。

 もしここに人が住んでいるのであれば、土が耕された跡が1つや2つはあってもいいはずですがね。

 見たところそんなものはどこにも…。イモやトウモロコシか何かを作っていた跡が残っていそうなもんですがね」


「でも作物を育てずとも、十分な備蓄がこの工場にはあったとするならどうでしょうか?

 外に畑仕事に行かなくても、中にある備蓄だけで事足りてるのであれば、わざわざ作物を育てようと言った考えにならないと思うんです」


「だとしてもです、ベルシュタインさん。

 備蓄が仮に腐るほどあったとしても、それも無尽蔵にあるわけではありません。いずれ底をつきます。

 …将来的なことを考えると、備蓄に頼りっぱなしな生活をいつまでも送り続けるわけにはいきません。

 当然何か外で作物を育てなければ…と言った考えに至るのが普通です。

 この場合、何かアクションを起こすのが人間として自然な行動なのですよ。

 …しかしその形跡は一切見受けられなかった。

 故にここには人は住んでいないとわたくしは結論付けることにします」


「でも自分のようなタイプの人間だっていると思いますよ。…外は怖いから、この工場で籠城し続ける。

 自分みたいなタイプのね。…その可能性もなきにしもあらずかと」


「……世間はあなたのような考え方をする人ばかりではありません。

 このままではジリ貧になることをちゃんと理解してから、果敢に行動する人だっているのです。

 …世の中、消極的な人ばかりではないと言うことですよ、ベルシュタインさん」


「うう…気のせいかもしれませんが、何だか自分、遠回しにディスられてませんか? 

 まるで自分の事を言われてるような…」


「そんなことはありません。それはベルシュタインさんの思い過ごしです。安心なさい。

 わたくしは別に大した義務を果たさず、権利ばかりを主張し、働いたら負けだとか言って、ずっと抗弁しているタイプの人間をどうのこうの思っているわけではありませんから」


「う~ん、自分としてはどうにもグリアムスさんが世間のニートないしに自分に対して、何か良からぬイメージを抱いているようにしか思えないのですが…」


「気のせいです、ベルシュタインさん。…考え過ぎは時には毒ってもんですよ」


「そうですよね! 考え過ぎは良くないですよね! ははははは…」


 そうしてグリアムスさんと駄弁を弄していたその時、工場の扉が突如開けられ、ペレス隊の連中が続々と中へ入ってきた。


「おい! ゴミども! どこに居る!?」


 開口一番、ペレスの怒号が辺りに響いた。


「はい! ここに居ます! …ちょうど工場の真ん中辺りに」


 …自分とグリアムスさんは、扉の真正面の方角に居た。


 この工場には人影をすっぽり覆い隠してしまうほどの大型のプレス機械が、列をなすようにして、びっしり立ち並んでいた。

 彼らから見ると、自分たちはちょうどその機会の陰に隠れるような形になっていたっぽく、素直に自分たちの居場所を彼らに伝えつつ、通路の方へと躍り出たのであった。

 

「お前ら、そこから一歩も動くな! …今サムエルがそっちの方に向かってる。サムエルが来るまで動くんじゃねえぞ!

 もし一ミリでも動いてみろ。…その場で射殺だ!

 せいぜい変な気は起こさねえようにな!」


 さすがにそこまで言われてしまうと、抵抗のしようがない。故におとなしくサムエルが来るまでそこから一歩も動かずにいた。


 サムエルは小走りで、クロスボウを携えながら、こっちにやってきていた。


「ペレスの親分! こいつらから怪しいブツは何もありませんでした!」


 サムエルが自分たちの元へたどり着くと、真っ先に持ち物検査を受けさせられた。

 ズボンのポケットから何から何まで、まるで警察官が被疑者を職務質問するかのようにして、徹底的に調べ上げられたのである。

 …別に自分たちはナイフとか爆弾とかそんな危険なブツは何も持ち合わせていないため、何らビビる必要はないのだが、持ち物検査の間、なぜか背筋がピーンと伸びる思いであった。


「よくやった、サムエル! お前は今すぐそこの階段を伝って、工場の2階部分へ行け。

 俺らはその間に1階を全て調べつくす。そっちの方はお前に任せたぞ!」


「了解です! ペレスの親分。…では行って参ります!」


 そうして自分とグリアムスさんは工場の2階部分、無数の鉄骨で構成された簡易な設備架台へ登っていったのであった。

※5月中に完結、無理でした! 11月、もしくはクリスマス前までの完結を目指します!


次回、最終章『統領セバスティアーノ編』:前編その10です。よろしくお願いします!

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