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前編 その6 「ソースは誰だ?」

 昼休憩中のこと。

 ペレスは2階の窓際にて、今回の物資調達中に入手したこの地方一帯の地図を眺めていた。


「おい! ペレス! 次はどうすんだ? …もう引き上げるか? 俺はあれで十分だと思ってるんだが…」


 ソファーに座り、頭の後ろで腕を組んでいる1人の男がペレスにそう尋ねた。


「何の冗談だ、リード。お前のトラックの荷台にはまだまだ余裕があるだろ?

 …あの程度の成果じゃ、とてもじゃないがコミュニティーには引き返せないぞ」


「そうはいってもよぉ…これ以上外に居るのは危険だぞ? 夜も近い。

 あいつらが本格的に活動しだす前に、引き揚げるべきだ!」


「さっきも言っただろ、リード。あの程度じゃ、統領セバスティアーノ様をとても満足させることはできない。

 …俺らはもっと遠くの方まで足を延ばす必要がある。…出発前にも俺はそのことをお前を含め、全員に言及してたはずだ」


「た…確かに…。そうだな。まあ、あんなもんじゃ全然足りてねーってことだよな?」


「そういうことだ、リード。あの程度じゃダメだ。…俺らはこの先、もうひと踏ん張りしなきゃならねえんだ。わかってくれ」


 噛みタバコをくちゃくちゃさせ、時折唾をペッと外に吐き出しつつ、ペレスはそう答えた。


「全然足りねーじゃん……ってか」


 壁に掛けられたダーツの的に向かって、クロスボウの矢を何本も放って遊んでいたサムエルも、ペレスとリードの一連の会話を聞き、咄嗟にそのようなことを呟いていた。


 それを聞き、リードは眉をひそめながら


「…そうだよな。

 あれ以上にもっと物資を集めねえと、ペレスがまた俺らの代わりにあのセバスティアーノ様の幹部方に怒られちまう」


 と言った。


「…幹部のゼレンスキーさんの恫喝は俺ももうこりごりっす。ペレスの親分が苦しむさまは見てられないっすよ。

 …あのお方は恐ろしいっすよ。まるで俺が前まで勤めていた会社の上司みたいですわ」


「ははは…。さぞかし大変だったろうな、サムエル。…心中お察しするわ」


 リードは同情の目をサムエルに向ける。


「…キメラ生物が現れて早1年。

 当時の俺はね、やっとあの窮屈な世界から解放されたと喜んでたんすよ…。

 やっと俺の時代が来た! もう会社の連中にいびられることはない!

 終末世界のこの世の中で、俺は映画の主人公みたく活躍できる! …ってね。

 …そう思ってた時期が俺にもありました」


「以前の俺もそう思ってたさ、サムエル。

 あんなクソみてえな世界からおさらば出来て、俺も最初、内心喜んでたさ。「俺たちの時代はこれからだ!」ってよお。

 …けどいざ蓋を開けてみれば、結局誰かの下で常に指図され、働かされる毎日。

 この世界になってもノルマに次ぐノルマだ。

 …終末世界のワクワク感なんてどこにもなかった」


「ホントにその通りっす。

 俺もリードさんみたく、この世界でヒャッハーできると思ってました。

 覚醒した力。潜在した能力。卓越したリーダーシップ。…残念ながらそんなものは何一つ俺にはなかったっす。

 結局は統領セバスティアーノさんみたいに、何か特別なカリスマ性があって、みんなをまとめ上げることができるああいった選ばれた人が、この世界の主人公になれるんすよね…」


「まあ、俺らみたいな半端者が日の目を見ることなんて永遠にないってことだ。

 所詮どの世界に行ったって、主人公になれやしないのさ…俺らは」


「そんな悲しいこと言わないでくださいよ、リードさん~。俺まで傷ついちゃうじゃないですか」


「…別に俺はただ事実を言ってるだけだ。…何も違わないだろ?」


「リードさん~! それ以上は止めてくださいよ~」


「お~い。リードにサムエル。2人でせっかく盛り上がってるとこ悪いが、そろそろ出発の時間だ。準備しろ」


「ん? …もうそんな時間か。次はどこに行くつもりだ? ペレス」


「次はここだ、リード」


 ペレスは所持していた地図をリードたちに広げて見せ、とある地点を指差す。


「うん? …おいペレス。何もねえじゃねえかよ。…あたり一面、森ばっかだぞ。

 こんなところに一体何があるってんだ?」


「ところがどっこい、リード。この一帯にどうやら妙な建造物があるらしいんだ」


「建造物? …ソースはどこだよ、ペレス」


「ソースはマルクスだ、リード。2日前に物資調達に行って、そのまま行方不明になっちまったあいつらから得た情報だ。

 たまたまそん時、俺は奴と無線でやり取りをしてたんだ。ちょうどこの森の周辺を奴らが車で通っていた時だった。

 急に地図に載ってない謎の小道を見つけたと言ったんだ。

 気になった奴らはその道を進み、そして行き着いた先が何と工場のような施設だった。…それが奴らとの最後の交信だった」


「そんなことがあったのか…。ってか、おいおい…今からそんなところに俺らは向かわされるのかよ。

 冷静に考えてみたら、何だかゾッとしてきたぞ。…やめとこうぜ、ペレス。

 そんな場所に行くなんてよお…」


「そう怖がることはねえよ、リード。何せ俺らには大量の武器と心強いお前らファミリーがいるんだ。

 ちょっとやそっとの困難で簡単にくたばることはねえよ。

 ちゃんと警戒を怠らずにいれば、まず心配ない。

 …時にはあえてリスクを冒すことだって必要だ。

 リスクを恐れるあまり安パイな行動を取り続けたって、成果は上げられねえって。

 前にも言ったよな?

 今日で最後の物資調達にするって。今回も結果を出すんだ。この辺りの身辺調査。行方不明になったあいつらの捜索。

 たくさんの物資とこれらの情報を全てセバスティアーノ様に届ければ、晴れて任務達成だ。

 …だから何としてでもやり遂げるぞ。わかったな? リード」


「そ…そうだな。了解だ! ペレス。俺の背中はお前に預けたぞ!」


「それはこっちのセリフだぜ、リード。俺もお前に任せたぞ。…じゃあそろそろ出発するか」


 ペレスは2階に居る有能生産者全員にそう語りかけた。


「了解~了解~♪ さっそく現地まで行ってみよう~♪ ガンガン飛ばすぜ~♪ へへへへ~~い♪」


 鼻歌交じりのまま、この場に居る誰よりも先に階下へ降りて行こうとするガルシア。


「あ~、そうだ。ちょっと待ってくれ、ガルシア」


 ペレスはそんなガルシアを呼び止めた。


「お前には悪いんだが、この先の運転は俺に任せてくれ。

 何せこの中じゃ唯一、俺だけがその例の建物に続く道を知っている。

 まあガルシアが実際にハンドルを握って、俺がお前をナビゲートしながらってのもありっちゃありなんだが、一応念には念をだ。

 今回ばかりは俺に運転を代わってくれ。いいな? ガルシア」


 ペレスはそう言ったものの、当のガルシアは……


「はあぁぁぁ!? 残念だがそいつはお断りだ、ペレス!

 元長距離ドライバーの俺様の凄腕運転テクをみくびっては困るぜ!

 俺が引き続き運転させてもらうぜ! へへへへ~い♪」


「おい! ガルシア! お前ペレスに何て口を叩いてんだ!」


 リードにこっぴどく叱られるガルシア。そのリードの発言に続きペレスはガルシアにこう一言添える。


「…頼むガルシア。俺とお前とでは随分と長い仲じゃねえか。…今回ばかりは俺を立てるつもりで……なっ?」


 ガルシアに対し、面倒くさそうに対応するペレス。


「へいへい、了解了解。ペレスがそこまで言うんなら、席を譲ってやるよ!

 …できるならハイな気分で運転したかったよぅだ」


 この先彼自身がハンドルを握れないと知って、嫌味っぽく、あからさまな不安を顔に出し、わざとらしくしょぼくれた態度を示すガルシア。

 そんな彼を説得している時のペレスは、こめかみを終始ピクピクさせていた。

 しかしそんな彼の表情筋自体には、一切の変化が見られなかった。

 …ペレスは今、必死にガルシアに対する怒りの感情を抑え込んでいるように思われる…。


「…よし、お前ら。トラックに乗り込むぞ! 出発だ!」


「「「おおおお!!!」」」


 …これで自分たちは、ようやくこの直立不動体勢から解放されることとなった。


 まもなくして同じ階にいた有能生産者たちは全員1階へと降りていった。自分とグリアムスさんも彼らの後に続く。

 あれからもう何時間も立たされっぱなしだった。

 彼らに待たされたこの時間は非常に長く感じた。

 食事もまともに取らせてもらえなかったし、空腹も相まって、その間、お腹の虫がしきりにグーグー鳴っていた。

 …次の現場でまともにカラダを動かすことが出来るか心配だ。


 そんな次の現場は、森の中にある工場らしい。

 森の中と言うことは、当然多くの野生生物が棲みついているだろう。…つまりその分、キメラ生物が生息している可能性が必然的に高いことになる。


 …何事もなければいいのだが。

 自分を含めグリアムスさんもそう思っているに違いなかった。

次回、最終章『統領セバスティアーノ編』:前編その7です。よろしくお願いします!

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