前編 その3 「荷物持ちは弾除けにあらず」
「さあ、早く運べ、運べ~♪ ゴミども!」
ペレス隊のガルシアの指示の元、家屋から物資をひたすら運ばされる。
ガルシアを始め、ペレス隊の彼らにありとあらゆる罵詈雑言を浴びせられながらも自分たちは淡々とトラックの荷台に物資を積んでいた。
グリアムスさんはそれからすっかり元気になっていた。
しかし1つ目の町に到着してからのグリアムスさんは、やはりと言うかしばらくの間、体調の方は優れないでいた。
だがペレス隊の彼らはそんなのお構いなしと言わんばかりに、荷台の上でぐったりしていたグリアムスさんを無理やり荷台から引きずり下ろし、作業を強制させたのだ。
酔い止めの薬を彼らから与えられることもなく、グリアムスさんは体調が優れぬまま、荷物持ちをさせられることになったのである。
グリアムスさんのコンディションも1つ目の町に到着し、約20分少々経過してから、ようやく回復していき、作業の方もそれからはかどるようになった。
今もバリバリ荷物持ちとしての仕事をこなしている。
しかし、自分たちとしては懸命に荷物持ちの職務に励んでいるのだが、ペレス隊の連中はどうやらそうは思っていないらしい。
「さっさとしろ。無駄な動きが多すぎる! 遅いぞ!」
ペレスとガルシアと一緒のトラックに居たサムエルも終始不機嫌だった。
彼はトラックのそばで、自分たちが物資を運んでいる様をずっと監視しているのだが、さっきからずっとこの調子である。
自分たちはこれ以上ないくらい、彼らの指示通り迅速に物資を運んでいるつもりだった。
しかしサムエルを始め、ペレス隊の連中には自分たちが何をしても怒られた。
「たらたらしてんじゃねえぞ! ぶち殺すぞ!」
おまけにぶち殺すぞとまで言われる始末だ。
元マフィアによるこの脅し文句は、本気で生命の危機を感じる。
かつてパワハラ現場監督にも「殺すぞ!」と怒鳴られたことがあったが、今回の恐ろしさはその比じゃない。
彼サムエルのその発言が、全く脅しに聞こえてこないのだ。
何かの拍子に突然、背中からグサッといかれそうなまである。
サムエルを始め、ペレス隊の彼らの一挙一刀足に自分たちは終始びくびくしながらも、黙々と作業をしていたのである。
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壁外へ出て、4時間くらいは経ったと思う。体感的にはそう感じる。
その道中、廃墟と化した町を2つほど通り、今いるのは3番目の街だ。
どの町の建物もおんぼろで人が住んでいる形跡は全くなかった。
人が住まないと家が傷むと聞いたことがあるが、それは本当だった。どの家屋もかなり痛んでいるようだった。
壁もボロボロ、屋根も雨漏り。底抜けした床もあった。
しかもペレス隊の彼らは決まって自分たちに先陣を切らせる。その1つ1つの家屋の床が底抜けしていないか、荷物持ちの自分達にまず下調べに行かせるのである。
全くひどい話だ。まるで兵士の弾除けのために先頭を歩かされる一般人そのものだった。
彼らのこの行動には激しい怒りを感じる。
3番目のこの町も例に漏れず、建物は瓦解し、塵や砂ぼこりが風と共にびゅうびゅうと吹き荒れている。
自分たちは1つの街へ着くごとに、物資となり得る物を拾い集めては回収。トラックまで運び、荷台に積む。
これらをひたすら繰り返していた。
道中、通った2つの町では、これといっためぼしい物資をあまり発見できないでいた。
どの家もすでにあらかた漁られていたのだ。
3番目の町に到着する前のトラックの荷台には、まだそれほど物資は積まれてはおらず、自分たちが座るスペースにもかなりの余裕があった。
そんな経緯があり、3番目の街にやってきた。
この町には小さな銃砲店があった。しかもその店内を探索すると武器・弾薬の類がほんのわずかながらまだ残っていたのだ。
荷物持ち担当の自分たちは、当然彼らにそれらを運ぶよう指示された。
その中にはグレネードやロケットランチャーもあった。うっかり落っことして暴発させないように、慎重に慎重にトラックまで運んでいたのである。
「おい! サムエル!! こいつらちゃんと見張っとけよ!
そのゴミどもがうっかり落っことして俺たちもお陀仏ってことになったら、シャレになんねーからな!」
「了解、了解。ちゃんと見張っとくから安心しとけって、クリス。
でもよ~、いくらこいつらが無能生産者のゴミどもでも、そんなヘマはしねーとは思うんだがね~。
まあ一応、念には念を入れとくわ~」
「バッキャヤロ~! おめーは無能生産者どもがいかに無能な連中なのか点でわかってねえだろ!
いいか!? こいつらはバカで超絶無能な無能生産者なんだ!!
しっかりその辺わきまえて、こいつらを見張っとけ!」
「へいへい。了解、了解」
全くひどい言われようである。
…幸い自分らは今、ロケットランチャーを運んでいる最中だ。
ゲームみたく、このロケランを奴らにぶちかまして報復してやりたいのは山々だが、あいにく自分らはこの武器の打ち方を知らない。
ゲームの世界ではボタンをポチッとすれば、簡単に発射できる。
しかし現実は違う。普通の小形の銃ですら重すぎて、持つことがままならない非力な自分たちでは、これを効果的に使いこなすことができない。
言わば宝の持ち腐れってやつである。
ロケランみたく超強力なレア武器を入手したところで、使用者自体に重大な欠陥があるため、結局大した強化にはならない。
これらの銃火器を持って彼らに抵抗したところで、すぐ返り討ちにあってしまう。
故にロケランで暴れまわって、グリアムスさんと共に俺TUEEEする選択肢など、端からないのである。
その後、銃砲店からありったけの武器をトラックに積めると、また次の一軒へ向かわされ、はたまたペレス隊の先頭を歩かされたのであった。
次回、最終章『統領セバスティアーノ編』:前編その4です。よろしくお願いします!