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その54 「封建社会なコミュニティー」

※次の回でもって、『無能生産者』コミュニティードヨルド編は完結となります。


それ以降は最終章に突入します。よろしくお願いします!

 路地裏での出来事があってから、またいつも通り。

 コミュニティー中を他の無能生産者らと共に練り歩かされた。

 強制労働に従事させられ、夜の10時頃になって、やっと豚小屋へ帰還できたのである。


 春の訪れを感じさせる季節となってきたが、冬の余韻はまだ残っているように感じる。

 日中はそれなりに暖かくなってきたのに、朝晩に限って言うと、かなり肌寒かった。

 …吐いた息は白く映っている。

 冬場の吐息が冷凍光線のようになるのは、体温で暖められた空気の中に含まれている水分量が外気との温度差から、空気上に細かい水滴となって現れるからだそうだ。

 この現象が続く限り、冬のシーズンが終わることはない。


 グリアムスさんとのおしくらまんじゅうの日々もまだまだ続きそうだ。

 しかしそんな自然の息吹ないしに、生命の息吹を感じられるのもあとわずかとなってしまった。


 ……先ほど自分たちは反逆罪で処刑されることが決定したのだ。


 夜の10時15分、豚小屋の現場監督室での出来事だった。


『反逆罪でお前らを処罰することになった。……2人とも命はないと思え』


 いつ刑が執行されるのかはわからない。早くて明日かもしれない。……良くて1週間と言ったところか。

 こうして唐突な死の宣告を彼らから告げられたのだが、具体的なことはこれ以上何も聞かされなかった。

 何でもって処罰されるかについては全く言及されなかったのである。


 ……生きた心地がしないとはまさにこのことだ。…底知れぬ恐怖心と焦燥感に押しつぶされているような気分。

 まるで今の自分は収監された死刑囚のようである。



 国家反逆罪はどの国においても死刑、または終身刑に相当するのを知ってはいたものの……これはあまりにもひどすぎる。


 別に自分たちはクーデターを画策したわけでも、コミュニティー転覆を企てたわけでもない。


 反逆罪は現場監督たちの単なる言いがかりで、彼らの保身のためにでっちあげられただけ。

 …自分たちはそんな彼らの尻ぬぐいのために近々処刑されてしまうのだ。


 一体どのような最期を迎えるのか。

 電気椅子? 撲殺? 薬殺? ギロチンで首チョンパ?

 ……せめて死に方だけでも選ばせてもらいたいものだ。

 だがしかし、あの下僕現場監督のことだ。……おそらく死に方すら選ばせてくれないだろう。


 強力な力の前では成す術もない。

 下僕現場監督が起こした不祥事も全て無能生産者になすりつけられ、事実も彼らにとって都合の良いように捻じ曲げられてしまった。


 1年前の現代社会において、このような人権侵害はそれほど表面化しなかったように思う。

 しかしこの世界になってからなのか、それらが表立ってくるようになり、有能生産者が無能生産者を蔑み、忌み嫌うのが普通になってきた。


 世界がこうも様変わりしてしまったから、人間も自然とそう変わってしまったのかもしれない。 

 

 いじめダメ、絶対といった道徳的な考えも、このコミュニティーでは通用しない。

 今となってはすっかり形骸化してしまった。

 法の下の平等で圧迫されていた排他的な意識が、顕在化してきたのである。

 結局、法律は人を縛ることはできても、根本にある人の心までを縛る効果はないのかもしれない。


 そういったこともあってか、このコミュニティードヨルド自体がまるで中世の封建社会の時代に戻ったように感じてしまう。権力者の裁量1つで即死刑を言い渡されるとんでもない時代。

 ……かつての中世ヨーロ―プーアである。

 

 歴史は繰り返される。

 いくら文明が発展し、物質的に豊かになったところで、人間の本質は何ら変わらないのかもしれない。



 ガラガラガラ…


 食堂のドアを開ける。

 それまで、無能生産者たちの和気あいあいとした声が廊下越しでも聞こえていたが、いざ自分ら2人が食堂に足を踏み入れた途端、場は一瞬にして凍り付いてしまった。

 

 自分らが食堂に入ってきた瞬間、大勢の無能生産者が食器を手に取り、席を立ち、返却口に続々と殺到し始めた。


 そうして1分も経たないうちに、食堂には自分とグリアムスさんだけを残し、誰も居なくなってしまった。

 その間、すれ違いざまに自分らに声をかけてきた人は誰もおらず、みな素通りしていき、食堂から自分たちと入れ替わるようにして、出て行ったのである。

 

 この現象に関して、あまり深く考えないように努めた。自分はさっそく給仕係から今夜の分の配給をいただくことに。

 ひび割れの跡が色濃く残っているシチュー皿を彼らに手渡す。

 しかし給仕係の連中も先ほどの彼らと同様、自分らと目を合わせることは一切なく、うつむき加減で黙々とシチューを皿に盛り付け、名簿リストの欄にチェックを入れると、ささっと簡単な後片付けを済ませてから、部屋を出て行ってしまった。

 

「……2人取り残されてしまいましたね」


「そのようです。……これでこの部屋はわたくしたちの貸し切りになりましたね。

 ついでにあのストーブもわたくしたちの物です。今夜は…これで寒さをしのげます」


「じゃあ今晩は、あの真ん中の席にしましょうか」


「そうですね。わたくしたちはいつも、端へ端へと追いやられる窓際族でしたから。

 ……今回の彼らなりの計らいに感謝しましょう」


 自分らはストーブ横の席を陣取り、そこで今夜のシチューをいただくことにした。

 ……約2週間ぶりのグリアムスさんとの夜食会である。

ここまで閲覧いただきありがとうございます!


※次回、その55「荷物持ち」をもって、『無能生産者』コミュニティードヨルド編は完結となります。それ以降は最終章に突入します。最終章もどうかよろしくお願いします!


次回は『無能生産者』コミュニティードヨルド編 最終話 その55「荷物持ち」です。

よろしくお願いします!

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