その51 「コミュニティー反逆罪」
どうしてこうなった?
ミーヤーが自分とペトラルカさんを庇い、それから・・・・。
・・・誰のせいだ。誰のせいでこうなった?・・・自分?。自分が無能生産者だったから?
一介の無能生産者に関わったがために、ペトラルカさんとミーヤーをこんな面倒ごとに巻き込んでしまったのだ。
自分のせい。自分のせいだ。何もかも・・・何もかも・・・。
「ミーヤーぁぁぁぁ!! 死んじゃ嫌ー! わたしを・・・・わたしを置いて行かないで!!」
ペトラルカさんは意識が戻らないミーヤーに何度も呼びかけている。
・・・ミーヤーは側頭部を強打された。
当の下僕現場監督は今、グリアムスさんに押さえつけられている。
ヘンドリックによる背後からの仇討ちはミーヤーに対する明らかな私怨だった。
紛うことなき報復行為だったのだ。間違いない。
下僕現場監督の目はミーヤーに向けられ、しばき棒は彼女に照準を合わせていた。
・・・卑劣極まりない行為だった。
「だ・・・誰か! 早く医者を!! 医者を呼んで下さい!」
グリアムスさんは下僕現場監督に対し、上乗りの姿勢で押さえつけつつ、そう呼びかけた。
それはこの場に居る現場監督、無能生産者の誰それ構わず向けられたものだった。
「・・・・・」
しかし反応が悪い。路地裏には沈黙が流れる。
「何してるんですか!? 彼女は頭を打たれたんですよ!! しかも意識も失っている!
このままだとまた犠牲者が出ますよ!? 誰でもいい! 誰か今すぐ医者を呼んできてください!」
グリアムスさんはものすごい形相でそう言った。
グリアムスさんが必死になっているのをよそに、自分は何をしているのだろうか?。
自分はミーヤーの一番の関係者であるにも関わらず、この状況の中、ずっとぽけーっと突っ立っているだけ。
全て他人任せ。・・・昔もそう。今もそうだった。
身の回りのことは何一つ自分でやらない。掃除、洗濯、飯、果ては将来のことも。成り行きに身を委ね、何一つアクションを取ることはなかった。
ミーヤーが死んでしまうかもしれないこの状況に陥ってもなお、自分は他人任せを貫いていた。
「わ・・・わかった! クラーク先生のところまで行ってくる!」
やがて無能生産者のうちの1人が反応を示し、この場から去っていった。
・・・赤の他人が自ら率先して、コミュニティーの医者を呼びに行ってくれたのだ。
そんな彼が行動したことで、ずっと重々しい空気が流れていた路地裏の時が再び動き出した。
すると医者を呼びに行ってくれた無能生産者のあの1人と入れ替わるようにして、豚小屋の現場監督係のファルコン、メンフィス、アンデルセン、キースら総勢4名がグリアムスさんと下僕現場監督の元まで駆けつけてきたのだ。
ミーヤーは殴打され、重傷を負い、失神している。
彼らはそんな彼女に同情し、彼女に手を出した下僕現場監督をグリアムスさんと一緒になって取り押さえようと思って、近づいてきたのだろう。・・・そう思っていた。
現場監督一同にもまだ人間としての心があったのかと思うと、ホッと安堵したのも束の間、奴らは信じられない行動を取ったのである。
「何してる!? グリアムス!! どけえええ!! ヘンドリックから離れろ!!」
現場監督の1人、ファルコンがグリアムスさんに対して、真っ先にそう言った。思わず耳を疑った。ミーヤーに重傷を負わせた張本人の肩を持つような発言をし出したからだ。
そして次の瞬間、現場監督係の4名が総出でグリアムスさんをボカスカ殴りだした。
「ヘンドリックに手を出しやがって! 許さねえぞ! 部下はいかなる時でも上司に手を出しちゃいけねえって、社会に出て、習わなかったのか!? おい!!」
ファルコンに続き、残りの現場監督も後に続く。グリアムスさんは奴らから集団リンチを受けている。
容赦なく蹴りなりパンチなりを幾度となくお見舞いしている。
信じられない光景だった。諸悪の根源は下僕現場監督だ。
グリアムスさんはただその諸悪の根源を食い止めるために、果敢に身を投げ出し、行動に移したまでだ。
それなのに、奴らはその勇敢なグリアムスさんの行動をあざ笑うかのように、まるで悪者を締め上げるかのようにボカスカと殴りつけたのだ。
「ふざけるな!」
誰のせいでこんな状況になったと思う!?
グリアムスさんを躊躇なく、ボコボコに殴っているのもさることながら、この状況に至らしめた元凶を真っ先に庇う彼ら現場監督の浅ましき行動。
これらすべてが許せなかった。
「やめろ!! グリアムスさんに手を出すな!! やめろ!!」
気付けば自分は、しばき棒片手に彼らに近づいていた。
グリアムスさんが先程下僕現場監督から取り上げ、自分の足元まで蹴り込んで、転がしてきたこのしばき棒を・・・。
自分はヘンドリック下僕現場監督のしばき棒を。血塗られた鉄製の棒を現場監督係の彼らに差し向けていた。
「おい!ベルシュタイン! お前も俺らに歯向かうって言うのか!? お前! この先どうなるかわかってるよな!」
彼らも怒鳴りながら、自分に対し応戦の構えを見せる。
彼らも口先では強気の姿勢を見せてくるが、よくよく見ると、このしばき棒に恐れをなし、心底震え上がっていたのだ。
そのことがしばき棒の先からひしひしと伝わってくる。
「ふざけやがって、俺らは現場監督だぞ! 現場監督に逆らう無能生産者がどこに居るってんだ! 身の程をわきまえろ!!」
「そんなの知ったことか!! ミーヤーに手を出した人間を庇うような奴らのことなんか!」
「き・・・貴様! 反逆罪だぞ! 反逆罪としてお前を処罰するぞ!」
現場監督たちは激昂している。
グリアムスさんに手を出した現場監督の奴らを、このしばき棒で打ちのめしてやろうと考えている自分に対して・・・。
「ベ・・・ベルシュタインさん・・・」
そんなグリアムスさんは顔中をあざだらけにされていた。現場監督の奴らはどこまで卑劣なんだ!?
・・・許せない。人間的にここまで腐ってるとは・・・・。奴らを心底見損なった・・・。
「おい! 大丈夫か? ヘンドリック」
「あぁぁ・・・。なんとかな」
ヘンドリックはグリアムスさんから引きはがされ、現場監督係の仲間の肩を借りながら、すでに立ち上がっていた。
「くそ! ヘンドリック! どうすんだよ、これ・・・。
腐ってもこの女は武装班クラック隊長の直属の部下。このことが明るみになったら、俺らはセバスティアーノ様に・・・」
「皆まで言うな、ファルコン。・・・俺が愚かだった。反省してる。すごく反省してる。
確かに俺がやっちまったことで、同じ現場監督のお前らの立場を危険に晒している。このままだと俺ら全員仲良く、統領セバスティアーノ様に処罰されちまう。
だから・・・俺がやっておいて言うのもあれだが、この際仕方ねえ。・・・今回のことは、もみ消すしかねえ。俺がやったということを」
「もみ消すって言ったって、一体どうやって?」
「簡単なことだ。・・・責任を全て、グリアムスとベルシュタインに押し付けちまえばいい。
奴らに濡れ衣を着せれば、この場は丸く収まる。・・・これしかねえ。でねえと俺らの身がどうなるかわかったもんじゃねえ!」
「そ・・・そうだな。・・・ナイスアイディアだ! ヘンドリック!
奴らに責任をなすりつければ、全て丸く収まる! そういうことか!
しかも無能生産者が引き起こした事件だと言うことにしちまえば、統領セバスティアーノ様の納得も得られやすい!」
「さすがヘンドリック! やっぱお前は最高のリーダーだぜ!」
「無能生産者がやったってことにすれば、都合がいいもんな! 最強!最強!」
現場監督らは何と無能生産者の自分たちに罪をなすりつけようと言いだしたのだ。まさにトカゲのしっぽ切りをして、奴らはこの場の全責任から逃れようとしている。
何も悪びれることなく、平気で事実をでっちあげようと考えている!
「そ・・・そんなこと通るはずがないだろ!! いい加減にしろ!!」
自分は憤った。こんなはったりが通るわけがない。通らせてたまるものか!
目撃者だっている!
グリアムスさんが連れてきた無能生産者たちと、ペトラルカさん、大勢いるんだ!
状況証拠は揃ってる! 言い逃れできないぞ! ヘンドリック!
「そ・・・そうだ・・・ベル坊の言う通りだ。わ・・・わたしは・・・このヘンドリックにやられたんだ。
・・・ベル坊は何も悪くない。ただ・・・わたしたちを守ろうとしてくれただけ・・・」
「ミーヤー! まだじっとしてて! ケガの具合がひどいんだから! 無理しないで!」
ミーヤーは意識を取り戻していた。しかしそんな彼女の目はどこかうつろだった。
・・・しばき棒の衝撃で、脳震盪を起こしているのかもしれない。
でも・・・よかった。ひとまず命に別条はないように見える。しかしミーヤーは頭を打たれてしまってる。
だから一刻も早く、彼女を医者に見せる必要があった。
迎えはまだか!? ・・・時は一刻を争う。
「ふん! だったら何だってんだ? あ~ん!?」
下僕現場監督はそんなミーヤーをあざ笑った。
「この女は頭を打たれた。ベルシュタインが俺から取り上げたしばき棒でな!
ベルシュタインは俺から取り上げたしばき棒で、まず路地奥の奴の頭をグチャグチャにし、次にその女の頭をぶち抜いた!
女の方は運よく一命を取り留めたようだが・・・どうやら重傷みてえだな。頭を打たれた衝撃で記憶が曖昧のようだ。
よってその女の信憑性は高くない。あとその女のそばに居る金髪もそうだ。
お友達が頭を打たれたショックですっかり取り乱してやがる。・・・ヒステリーを起こして、正常な判断ができちゃいねえ。
よってこの女の証言もあてにならねえ。
極めつけは俺様のしばき棒についた指紋だ。・・・俺以外の指紋がべったりついてしまってらあ。
・・・これだけで証拠としては十分じゃねえか?・・・な? 無能生産者のベルシュタイン君とグリアムス君?」
下僕現場監督は口の端を吊り上げ、ニヤリと笑みを浮かべる。
「い・・・いい加減にしろよ・・・ヘンドリック・・・」
怒りで我を忘れそうだった。今すぐにでもこいつの頭をこのしばき棒でグチャグチャにして、二度と立ち上がれなくしてやりたりたかった。
・・・しばき棒の持つ手がプルプルと震えだす。
こんな無茶苦茶な話を通らせるわけにはいかない。正義が勝つ。悪は根絶しなければならない。
・・・いかなる時も悪に屈してはならないのだ。
「おい!!ベルシュタイン! 口を慎め!! この方は現場監督総主任、ヘンドリック・カイザー様であらせられるんだぞ!」
「そんなの知ったことか! このほら吹き野郎のことなんて、いちいち聞いてられるか!! お前らはどこまで腐ってるんだ!」
「黙れ!無能生産者のゴミクズめが!」
現場監督の奴らと自分はこのようにして、いがみ合っていた。緊張が走るその現場を路地裏に集まっていた人たちは全員、固唾を飲んで見守っている。
しばらく緊迫した時間が流れていたが、やがてその沈黙を破るようにしてファルコンが口を開く。
「おい!そこに突っ立っている大勢の無能生産者のゴミども! 何ぼけーっとしてるんだ!」
ファルコンは唐突にグリアムスさんの連れてきた無能生産者たちにそう呼びかけたのだ。
「とっとと、このベルシュタインとグリアムスの2人を取り押さえろ!
束になってかかれ! 命令だ! 現場監督直々の命令だぞ!逆らうとどうなるかわかってるよな!!」
「うう・・・・」
現場監督らは無能生産者たちを利用しようとしていた。数に物を言わせて自分を屈服させる魂胆なのかもしれない。
当の無能生産者たちは現場監督らにそのように命令され、迷っているようだった。
どっちの味方について、加勢すべきか・・・その2つの選択肢の板挟みにあって、なかなか決断できないでいるように見えた。
これに思わず自分は、
「ちょっと! なんでそこで迷う必要があるんだよ!! ここはどう考えても自分とグリアムスさんの側につくのが筋ってもんでしょ!!
なんで現場監督の方につこうって考えになるんだ! おかしいだろ!
今までみんなは現場監督たちに理不尽な仕打ちを受けてきたじゃないか!
あんだけ強制労働でつらい思いをしてきたのに、何でホイホイと現場監督側につこうって考えになるんだよ!
悔しくないのかよ! 復讐したくないのかよ! 現場監督らを含め、このコミュニティードヨルドに、復讐したくないのかよ!? なあ!?」
「うるせえ! 黙れ! ベルシュタイン!!
その発言はコミュニティードヨルド反逆罪と見なす! お前ら! とっとと動け!! この犯罪者たちを取り押さえろ!」
ファルコン現場監督は無能生産者たちに再び語気を荒げて命令する。
しかし無能生産者の彼らはまだ動かなかった。そんなこんなしている内に、場は完全なる膠着状態と入っていった。
「ど・・・どうする? ・・・ベルシュタインとグリアムスについた方がいいのか?」
「う~~ん。でもここは素直に現場監督に従った方が・・・」
「バカ言え! 今回はどう見ても現場監督の方に非がある! なんで俺らが現場監督の命令を聞いて、奴らの肩を持たねえとならねえんだ!」
「それもそうだけどよ・・・。でも俺らがグリアムスとベルシュタインの方についたって、何か得することあるか?
・・・何もねえだろ? あいつらに味方したら、俺らまで反逆罪扱いされちまうぞ。
そうなったら最悪死刑だ。運よく死刑を免れたとしても、もうこのコミュニティーで暮らしていけなくなっちまうぞ? それでもいいのか?」
「それも・・・そうだな・・・うむむむ。それは大変まずい・・・」
「やっぱりここは現場監督の方に・・・」
「ダメだ! いくらなんでも今回ばかりは・・・」
そのような話が無能生産者たちの間で交わされ、一向に埒が明かなかった。
その様子を見て、ヘンドリック下僕現場監督が次のことを彼らに声高らかに言った。
「おい! 今からこいつらを取り押さえなかった無能生産者のリトルピッグどもは、2日間飯抜きで働いてもらうことにする!
おいファルコン!! メモとペンを用意しろ!!」
「うん? 別にいいが、何するつもりだ? ヘンドリック」
「いいからとっとと用意しろ! ファルコン!」
「おう・・・わかった」
そう言うと、ファルコンは下僕現場監督の命令通りに胸元からメモ用紙とボールペンを取り出す。
「今からこの2人を取り押さえなかった無能生産者どもの名前を逐一、このファルコンがメモに書き留めていくことになる!!
このリストに名前が挙がった奴らは今日から2日間飯抜きで、労働してもらうことにするからな!」
「そういうことか! ナイスアイディアだ!ヘンドリック! ラジャー!!
飯抜きを盾に脅せば、奴らは俺らの命令を嫌でも遵守するってことか! イカした考えだ!
よおし! そうと決まれば、さあ! お前ら、動け~動け~!
このリストに名前を記されたくない奴は、早くあの反逆罪の2人を拘束しろ!!」
「リトルピッグども!2日間も飯抜きで耐えれるか?
行け!! 飯抜きにされたくなかったらな!
それとベルシュタインから俺のしばき棒を真っ先に取り上げたリトルピッグにはボーナスをくれてやる!!
早くしろ! ボーナスは先着順だ!! 急げ! 急げぇぇ!」
な・・・なんてことを・・・。
そうやって都合のいいエサで彼らを釣って、自分たちをあの仲間の無能生産者たちに強引に取り押さえさせようってか!?
ふ・・・ふざけるな! こんな理不尽がまかり通ってたまるか!!
「どうするよ?」
「正直なところ奴の口車には乗りたくないのは山々なんだがな・・・」
「けど飯抜きだなんて、明日以降の労働に絶対支障が出る」
「やむなしだな。奴らにああ命令されたら仕方ない。死活問題だ。・・・悪いのは俺たちじゃない」
「少し心は痛むけど・・・そんなこと言ってても仕方ないや」
「そうとなれば決まりだな。早くあいつらを取り押さえよう」
「でもしばき棒は誰が奪いに行くつもりだ?・・・俺が行っていいか?」
「はあ?それは俺だ! 俺だけがボーナスをいただく! お前はすっこんでろ!」
「黙れ! 俺だ! 俺だ! 俺にボーナスよこせ!」
「・・・ごめんよ、グリアムスにベルシュタイン。今回ばかりは僕たちを許してくれ」
「さっさとしやがれ! 遅えぞ! 早くしねえとボーナスはなしだからな! 手っ取り早く仕事を終わらせろ! 俺の気が変わらないうちにな!」
下僕現場監督は無能生産者たちに発破をかける。
「やべ! とっとと済ませるぞ! みんな飯抜きになっちまうぞ!」
「すまん! ベルシュタイン! 許せ!」
ついに総勢10数名ばかりの無能生産者は自分たちを取り押さえようとして、近づいてきたのであった。
「ちょっと待ってくださいよ。みんな・・・・」
そう言うも、彼らからは・・・
「こっちとしても飯抜きはさすがにまずい。命にかかわる問題なんだ。
許せ! ベルシュタイン! 野郎ども! さっさと取り押さえるぞ!」
「卑怯者! これがあなたたちのやり方なの! この人達は危うくミーヤーを殺しかけたんだよ!?
そんな連中の言葉に何で耳を貸そうとするの!? あなたたちも彼らと同罪よ!!」
ペトラルカさんは無能生産者の彼らに血相を変えてそう訴えかけるが、
「俺らは悪くない・・・俺らは何も悪くない。ただ命令に従ってるだけだ!」
「汚い! 悪いのは誰なのかはっきりしてるのに!! ミーヤーをこんな目に遭わせたのは、あの現場監督さんなのよ!?
なのに、なんで・・・なんでこの人達の肩を持とうとするの!?
こんなの・・・ミーヤーが浮かばれないじゃない・・・・」
「ペ・・・ペトラルカ」
顔をうずめ、すすり泣いているペトラルカの頭をミーヤーは下からそっと撫でていた。
「す・・・・すまねえ! ベルシュタイン!・・・・今回ばかりは俺らを許してくれ」
そうして無能生産者の10数名ばかりは、しばき棒を持った自分を取り囲んでいく。
そんな彼らであっても、何の罪もない人間。下手にしばき棒を振り回すわけにもいかなかった。
その様子を見て、現場監督はニタニタと笑っている。
・・・・これが奴らのやり方ってことだ。職権乱用極まりない卑劣な行為だった。
こんなの・・・許されない。汚職にもほどがある!
こうやって上の立場を濫用して、世の中の事件は解決されていくのだろう。
都合の悪いことはその事実を歪曲し、でっちあげる。保身のためにどんな卑劣な手段でも厭わない。
こうして正義は悪に淘汰されていくのだなぁと自分は身をもって、その時思い知らされたのであった。
そして今にも、無能生産者10数名が自分に迫ろうとしていたそんな時だった。
「おやめなさい!」
ここでグリアムスさんが突然、声を上げた。
グリアムスさんが声を上げたことで、この場に居るみんなの注目がグリアムスさんに集まる。
それを確認してか、ワンテンポ間を置いてから、グリアムスさんは一旦、一息つくと、次にこう口を開いたのであった。
「同胞のみなさん。・・・ストライキしましょう」
「ストライキ?」
ストライキ。労働者による争議行動の1つだ。雇用者側に対して、被雇用者側の人間が労働をボイコットする例のあれのやつだ。
「そうです。この場に居る同胞の皆さんで・・・。
いやこの場に限らず、他の場所で今も働かされている同胞のみなさんで、労働をボイコットしてやるんです。
今現在課せられている強制労働を。無能生産者としての職務を丸々放棄してやろうじゃないですか」
「ほ・・・放棄だと?」
無能生産者の10数名のうち1人がそう声を上げる。
「そう、放棄です。今こそ無能生産者のみんなで団結するんです。
豚小屋に居る同胞みんなで、これから待ち受けているであろう明日以降の強制労働をボイコットしてやるのです。
・・・今がその時だと思います。今こそ! 無能生産者が立ち上がる時です!」
グリアムスさんの凄みのある説得にその場に居る無能生産者を問わず、現場監督、ペトラルカさんとミーヤーまでもがすっかり聞き入っていたのであった。
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