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その48 「数は力なり!」

 下僕現場監督が徐々に距離を詰めてくる。

 路地の奥の方にはしばき棒で頭をかち割られた血まみれの死骸が横たわっていた。

 ・・・キメラ生物がはびこる前の元の世界なら、まず間違いなく殺人の現行犯で逮捕される案件だ。

 刑務所に収監され、懲役200年は免れないのは言うまでもない。


 下僕現場監督はそれほどの大罪を犯したのである。

 しかも命を奪われた理由は取るに足らないものだった。


 ・・・たかが掃除後のバケツの水を顔に浴びた。その程度のものだ。

 たったそれだけのことで彼の尊い命は失われたのである。


「リトルピッグども!・・・・俺様に歯向かったらどうなるかわかってるよな!?

 俺様の後ろで伸びちまったあいつと同じ運命をたどることになるぞ!?」


 下僕現場監督は凄むようにそう言った。もはや今の彼はマフィアのドンそのものだ。

 無能生産者という部下とは名ばかりの彼自身にとって体のいい奴隷に対し、頭をかち割られ、絶命してしまったあの彼をまるで見せしめのように、利用している。


 この場に居る無能生産者は全員、その反社のドンの迫力にすっかり怯え切っていた。


「おい!グリアムス!!どうしてくれるんだ!てめえ!」


 無能生産者の1人がそんな押しつぶされそうな空気に耐え切れなくなったのか、唐突にグリアムスさんの胸ぐらを掴みだした。

 下僕現場監督の狂気に恐れをなしてか、この場の全責任をグリアムスさんになすりつけようとしている風に自分には見えた。



「やめろ!今は仲間割れしてる場合じゃない!状況を考えてくれ!」



 自分はこの状況に置かれてもなお、無礼にもグリアムスさんの胸ぐらを掴み、責任逃れをしようとしているその彼をグリアムスさんから引きはがそうとする。


「ベルシュタインに飽き足らず、グリアムス。あと、おめえらまでも、俺様に盾突くつもりなんだな!?

 ご丁寧なことに、こんだけ大勢のリトルピッグどもが集まりやがって・・・。

 リトルピッグどもは揃いも揃って一体何を企てようって言うんだ!?あ~ん!?」


 下僕現場監督はしばき棒を地面に叩きつけながら、さらに激昂する。

 そんな下僕現場監督を見て、無能生産者の彼はますます怖気づいてか、


「おい!みんな!急いでグリアムスとベルシュタインをヘンドリック・カイザー様に突き出すぞ!

 命には代えられねえ!こいつらを突き出して、俺たちカイザー様の忠誠の証としよう!」


 と言った。


 終いには無能生産者のその1人は卑怯にも仲間を売る発言までしだしたのだ。

 それを皮切りに他の無能生産者からも我が身可愛さからか、続々と彼に呼応する。


「そ・・・そうだな!

 ・・・カイザー様のお怒りを静めるためにはそれしかねえ・・・」


「やっちゃえ!やっちゃえ!そもそもこの件に俺らは無関係だ!

 俺らはグリアムスに訳も分からず、勝手に連れてこられただけなんだからな!」


「そうだ!そうだ!俺らはただの被害者だ!俺たちは悪くない!悪いのは、グリアムスとベルシュタインだ!」


「生贄だ!生贄にするぞぉぉぉ!」


「「「おおお!!!」」」


 何と場はたちまちにして、生贄を差し出せムード一色となっていた。


「おう!!リトルピッグども!なんと素晴らしき団結力!ビューティフル!それでいい!」


 下僕現場監督はそんな無能生産者達の態度にご満悦のようだ。彼らに対し、しばき棒を脇に挟みながら仰々しく称賛の拍手を送っている。


「よし!おめえら!そうとなれば、その2人を今すぐ俺様の前に(ひざまつ)かせろ!

 それができれば、今回のことは水に流してやろう・・・」


 下僕現場監督も好機と見てか、無能生産者のそのムードをさらに煽り立てるように言葉を重ね出した。


「ほ・・・本当ですか?カイザー様。・・・・たったそれだけのことで俺たちを許してくれるんですか!?」


「約束してやる!・・・俺様に歯向かった不届き者のこいつら2人にヘンドリック・カイザーが天誅を下す!それでおめえらの免罪符としてやろう!」


「あ・・・ありがとうございます!カイザー様!」


「よし!おめえら!2人を取り押さえろ!!」


「「「「ハイル!カイザー!」」」」


 その号令と共に無能生産者たちが一斉に自分たちに飛びかかってきた。

 まずグリアムスさんの顔面を。彼の胸ぐらを掴んでいた1人が真っ先に先制パンチを食らわせ、そのパンチにひるんだすきに、背後を無数の無能生産者たちが取り固める。


 続いて自分。自分に至っては無能生産者たちが一斉に腹パンやみぞ打ちを連発し、痛みで地面にふらふらっとしたところを取り押さえられてしまった。

 多勢に無勢。・・・どうしようもなかった。


 そして自分たちはそれぞれ腕を後ろに回された状態で膝をついて座らされ、いとも簡単に下僕現場監督の前に突き出されてしまったのである。


「よくやった!おめえら!数は力なりだ!ガハハハハ!!」


 彼らに無理やり地面に跪かされると、これみよがしに無能生産者たちは自分達2人の顔に唾を吐きかけてきた。


「お前ら!よくも我らヘンドリック・カイザー様に逆らってくれたな!絶対に許されることではない!・・・・罪を償え。愚か者めが!」


「そうだ!そうだ!・・・この愚か者が!」


 唾を吐きかけるのと同時に、蹴りを入れる者までいた。

 今、唾を吐きかけないと、ヘンドリック・カイザーに示しがつかないとでも思っているのか、必要以上に彼らは殴ったり、蹴ったりしてきた。

 ・・・おかげで徹底的に痛めつけられてしまった。

 下僕現場監督の忠誠の証のためのパフォーマンスとしても、度が過ぎると思う。



「ではカイザー様。思う存分こやつらを懲らしめてやってください」



 無能生産者たちはボカスカ殴るだけ殴ってから、自分たちの元から離れていった。

 それを見て下僕現場監督は一歩前へ出る。・・・自分たちはしばき棒の射程圏内に入ってしまった。

 少しでも妙な動きを見せると、一振りいかれてしまうだろう。そうなったら最後だ。

 ・・・だからといって、今何かしらの行動を取らなければ、自分たちはやがて殺されてしまう。

 待ってばかりだと、ただ死のカウントダウンを引き延ばしているだけに過ぎない。


 ・・・どうすればいい。膝をついて座らされているため、素早く立って逃げたところで、そもそも立ち上がったタイミングで、頭をフルスイングされてしまうだろう。


 グリアムスさんの顔を見た。・・・・この世の最期だと言った絶望的な顔をしている。きっと自分も彼と同じような顔をしているのだろう。



「ベルシュタインは、持ち場を離れ、あろうことか俺様の邪魔をした。グリアムスに至っては、リトルピッグどもを大勢引き連れ、俺様に圧力をかけようとした。

 おめえら2人の行動は浅ましい。死に値する。

 ・・・・できることならもっと時間をかけ、じっくり死の恐怖を味あわせたいところなんだが、なにせノルマのことがある。

 ちと時間を食いすぎた。持ち場を離れたリトルピッグも多い。・・・残念ながら今回はスパッと行かせてもらうぜ。

 何か言い残したことは?」



 そう聞かれ、まずグリアムスさんが口を開いた。



「・・・・このような暴力政治。・・・長くは続きませんよ。いずれ無能生産者たちの反乱が起きるでしょう。・・・あなたの時代もそう長くないですよ。下僕現場監督さん」


「それだけか。・・・・最後の最後まで頭に来ること言ってくれるなぁ~!グリアムスよ。

 まあその減らず口もここまでだ。・・・地獄に落ちな!グリアムス。

 次!・・・ベルシュタインだ。・・・何か言い残すことは?」



「ううう・・・ううう」


 自分はさきほど無能生産者たちに散々サンドバックにされてか、そのことがトラウマになり、何1つ言葉が出てこなかった。

 悔しさと恨みが織り交ざったような感情が渦巻いている。下僕現場監督の言葉を返す余裕がないくらい今の自分は追い込まれていた。



「はははは!死人に口なしってか!面白いぜ!ははははは!!」


 下僕現場監督は上半身を仰け反(の ぞ)らし、嘲笑っている。


「じゃあな!おめえら!来世で会おうぜ!アディオス!アッミーゴ~♪」


 下僕現場監督のしばき棒がいよいよ自分たちに向かって振りかざされてしまった。

 ついに自分たちの人生のエンドロールを迎えてしまったのかと思ったその時だった。



「いた!ベル坊くんだ!」



 路地裏のちょっとしたギャラリーの背後から、なんとペトラルカさんの声が聞こえてきた。もしかすると、この路地裏での騒ぎを聞きつけ、やってきてくれたのかもしれない・・・。そしてもう一人・・・。



「おい!そこのお前!ベル坊に一体、何してくれてんだ!」



 ミーヤーも一緒のようだ。ミーヤーの声色(こわいろ)からもひしひしと怒りを感じる。

 彼女たちの方へと振り向くと、2人ともは顔を真っ赤にして憤然としていた。

 このように眉を顰め、人を睨み付けている2人を自分は今まで見たことがなかった。


 そしてペトラルカさんとミーヤーはしばき棒を持った下僕現場監督に対して、何らビビりあがることなく果敢にも立ち向かっていったのであった。


ここまで閲覧いただきありがとうございます!


次回その48「瞬殺!ペトラルカVSミーヤーVS下僕現場監督!」です!


次回もよろしくお願いします!

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