その47 「無責任だぞ!お前!」
「ど・・・どうか!・・・お・・・お許しを」
無能生産者のその彼はある路地裏に追い詰められていた。後方に逃げ場はなく完全に袋のネズミだ。
地面に手を付き後ずさりしている。下僕現場監督を前にしてか、完全に腰を抜かし、立ち上がれない様子だった。
鉄条網をぐるぐる巻きにした、しばき棒を手にじわじわと下僕現場監督は彼に近づいていく。
「黙れ!無能生産者のリトルピッグが!よくも俺にあの汚ねえバケツの水をぶっかけてくれたな!!」
「申し訳ございません!申し訳ございません!どうかお許しを!」
「何度同じ言葉を喚いたところで同じことだ!おめえは俺を怒らした。骨の1本や2本は覚悟してもらうぞ!!」
「どうか!どうかぁぁぁぁ!!!」
彼が路地裏で断末魔の悲鳴のようなものをあげ、泣き叫んでいたその時。
ベルシュタインがようやく2人の元にたどり着いたのであった。
「現場監督さん!あんた一体、彼に何を!?」
ベルシュタインは下僕現場監督に対し、声を荒らげる。下僕現場監督はすでに無能生産者の彼にしばき棒を振りかざしていたところだった。
だが彼にしばき棒を振る寸前のところで、ベルシュタインのその声を聞いて一旦その手を下に下したのであった。
無能生産者のその1人は、全身がガクブルで、目に涙を浮かべていた。
彼は地面に手をつきながら、自身の元に駆けつけてくれたベルシュタインに対し、感謝の涙を浮かべている。
「・・・ありがとう。・・・ほ・・・本当にありがとう」
彼はそう呟いていた。
「はあ?なんだ!?おめえ!?・・・・せっかく盛り上がっていたところを邪魔しやがって・・・。
今からこいつにヤキを入れるところだったのに・・・。すっかり気分を害しちまったぜ」
「そ・・・そんなことはさせない!ヘンドリック現場監督!」
自分はそんな彼に対し、反抗的な態度を取る。しかし彼に臆する様子はない。
しばき棒と言った強力な武器を持っていることもあってか、自分と同じくらい細身のひょろひょろした体型であるにも関わらず、随分と横柄な態度を取っていた。
「・・・・それよりおめえ、持ち場の方はどうしたんだ!?あぁーん!?」
下僕現場監督はこれみよがしにしばき棒を何度も地面に叩きつけ、威嚇してきた。
ガンを飛ばし、自分を戦意喪失させようと働きかけている。完全にやることがDQNのそれだ。
だからといってここで引き下がるわけにいかない。グリアムスさんが無能生産者のみんなを引き連れてくるまで、自分は何としてでも下僕現場監督の彼を足止めしなければならない。そうグリアムスさんに頼まれてるんだ。
「も・・・持ち場どころじゃないでしょ!そこの彼が大変な目に遭おうとしているのに、黙って見過ごせるわけがない!!」
「フッ・・・なるほど。そうか、そうか・・・そういうことか。おめえはこいつを助けに来ようとここに来たってわけか」
「そうだ!・・・何か文句あるか!?」
「へえ~。やっぱりそうか。なるほど、なるほど・・・。
リトルピッグのくせして、変にカッコつけやがって・・・。おめえがそういう考えならこっちにも考えってもんがある」
そう言うと下僕現場監督は突如、邪悪な笑みを浮かべ出した。・・・片方だけ口角を上げ、にやりと笑っている。
その顔には何かよくないことを企んでいるように見えた。狂気にとらわれ、今から恐ろしいことを実行するかのような・・・そんな顔つきをしていた。
すると下僕現場監督は再びしばき棒をおもむろに無能生産者の彼に振りかざした。
「もういいや。せっかく時間をかけて、じっくりとこいつに恐怖を植え付けようと思ったのにな~。
・・・ベルシュタインの野郎がここに来ちまったから俺の気が変わった」
「ど・・・どういうことだ?・・・ヘンドリック現場監督」
「そのまんまの意味だ。・・・・ちゅうわけで、さいなら。無能生産者のリトルピッグ。
・・・・二度とおめえが俺様に口をきけねえようにしてやるよ!おらぁぁ!!」
下僕現場監督は、しばき棒を彼の膝めがけて叩きつけたのであった。
「ぎゃあああああ!!!」
彼の悲痛な叫び声が辺り一帯に響いた・・・。傷みのあまり悶絶し、地面を転がりまわっていた。
「喚くな!喚くな!耳障りだ!」
下僕現場監督はそう言いつつ、その無能生産者の彼の両ひざをしきりに何度も殴りつけた。膝からはおびただしい流血が・・・しばき棒で殴りつけられる度に広がっていった。
「ぐあああああああ!!!」
「うるさい!黙れ!黙れ!黙れ!これはただの教育だって言ってんだろ!?
リトルピッグ風情が何、一丁前の人間みたく泣きじゃくってんだよ!!
おい!喚いてばっかりいないで、少しは何か言ったらどうだ!おらぁぁ!!」
下僕現場監督はそれからも何度も何度も執拗に殴りつけた。
「や・・・やめてください・・・ヘンドリック現場監督」
自分はその場でただ立ちつくすしかなかった。顔を覆いたくなるような光景だった。・・・正気じゃない。
何で下僕現場監督はこうもむごいことを平気でやってのけるんだ・・・。
信じたくない。今自分の目の前で下僕現場監督は1人の人間をバットで殴りつけ、もがき苦しんでいるさまを見て、楽しんでいる・・・。
「ひ・・・ひどい・・・」
自分はその無能生産者の彼を助けるわけでもなく、ただ唖然として眺めているだけだった。
そのあまりにも衝撃的な光景に恐れをなしてか、肝心な時に一歩たりとも動くことが出来なかった。
「いい加減、泣き止め!リトルピッグ!」
下僕現場監督は今度はなんと頭を狙った。無能生産者の両膝から、その狙いを彼の頭部に定め、先程の膝を殴りつけた要領で、何度も叩きつけた。
・・・・ひどい・・・ひどすぎる。グリアムスさんの言う通りだった。
パワハラ現場監督が豚小屋を去り、今、目の前に居るこいつがリーダーとなってからこんなことになっていただなんて・・・。
信じたくなかった。・・・これは夢か現か幻か?・・・そう思いたかった。
これを現実の事だと受け止められなかった。
「ベルシュタインさん!みんなを連れてきました!」
そんな時にグリアムスさんが約束通り、無能生産者を十数名ばかり引き連れてやってきた。
しかし一足遅かった。無能生産者の彼の頭はすでにスイカ割のスイカのようにぐちゃぐちゃにされ、絶命していたからだ。
彼は下僕現場監督に散々おもちゃのように弄ばされ挙句、むごい最期を遂げてしまった。
・・・何も出来なかった。いざ恐怖を目の前にして、何一つ行動がとれなかった。
「はははは・・・また俺様特製のしばき棒に新鮮な赤が塗りたくられてったぜ!ははははは!!」
下僕現場監督はその血塗られた鉄の棒を見て、恍惚とした表情を浮かべ、高笑いしていた。
そんな下僕現場監督は振り向きざまに、自分とグリアムスさん、そしてそんな彼に連れられた無数の無能生産者たちに対し、こう言い放ってきたのである。
「おい!リトルピッグども!揃いも揃って今さら何しに来た?
・・・・持ち場は?持ち場の方はどうしたんだ?あ~ん!?」
下僕現場監督は片耳に手をかざしながら、自分たちを挑発するかのようにそう言ってきた。
「おい・・・グリアムス・・・大変なことが起きた!・・・ってつまり、こういうことかよ!!」
「おい!俺らになんちゅうもんを見せつけてくれたんだ!」
「なぜ俺らをこんな場所に連れてきた!無責任だぞ!お前」
「責任とれ!責任とれよ!おい!俺らまでカイザー様に殺されちまうぞ!!おい!!何とか言えよ!グリアムス!!」
グリアムスさんに連れられた無能生産者はみな身勝手なことを思い思い口にし始めた。
「リトルピッグども!・・・・何のつもりだ。特にベルシュタインにグリアムス!そいつらを呼んで俺様をどうするつもりだ!?・・・そのことを今からじっくり説明してもらおうか・・・」
下僕現場監督はそう言って、今度は自分たちの方へと血塗られたしばき棒を片手に歩み寄ってきたのであった。
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