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その42 「鬼教官め!下僕現場監督!」

 豚小屋。コミュニティードヨルドにおける無能生産者のための寮ないしに収容施設の俗称である。かつて自分が統領セバスティアーノと初めて謁見した際、無能生産者認定を受け、その直後に強制連行された先の施設であった。


 コミュニティードヨルドの端の端に位置するこのおんぼろな建物。建物自体老朽化が進んでいるのか、外壁や屋根の損傷も大きく、軒裏や塗料のはがれも著しい。


 自分は下僕現場監督に後ろからしばき棒でどやされながら、施設の中へと入った。・・・床が相変わらずギシギシときしんでいる。


 かつて豚小屋の床が崩落した事件があった。それは自分が食道の給仕係を翌日に控えた時のこと。ちょうどその日になって、厨房の床が抜け落ちるといった悲惨な出来事があったのだ。


 その日給仕係にあたっていた者はみな大けがを負った。幸い死者は出なかったものの、足の骨を折るなどの重傷を彼らは負っていた。


 その後、その崩落した穴が修繕されることは一切なく、結局今に至るまで放置されたままだ。廊下を歩き、食堂をちらっと見てみたが、依然として厨房にはぽっかりと穴が開いたままであった。



「たかが無能生産者ごときに貴重な建築資材など使いとうはない」



 まさにそんなところだろうと思う。無能生産者に対するコミュニティードヨルドないしに統領セバスティアーノの方針がこういうところにも顕著に出ていた。


 ギシギシと豚小屋の廊下がきしむのを聞いていると、その日のことをふと思い出してしまう。


 そして2階へと向かわされた。中部屋だ。


 この集団部屋の窓のすぐ外には1本の大木が生えている。夏のシーズンでは、この木がちょうど日陰となって部屋のむしむしとした暑さから身を守ってくれる守り神のような存在となってくれるが、これが冬のシーズンとなると逆に部屋の寒さを助長させる悪魔へと成り代わる。


 冬の時期になると決まって、グリアムスさんのいる集団部屋にお邪魔してポーカーなりババ抜きなりのお相手をしていたものだ。ちなみにいつもグリアムスさんと自分の2人しかその部屋にはいない。他のルームメイトは必ずどこかへ出払っていた。


 そんなグリアムスさんとはこのコミュニティーに行き着いてからというものの、実に様々な遊びをやっていたが、ここ最近はチェスもその遊びの1つとして加わるようになった。


 チェスに関して自分は全く詳しくなかったので、グリアムスさんにはボードと駒の並べ方から細かい戦略に至るまで、手取足取り教わっていたのだが、自分の覚えが悪すぎることもあって、駒1つ1つの動かし方すら未だに頭に入っていない有り様だった。そのたびにグリアムスさんは、



「ベルシュタインさん。あなたはずいぶんと物覚えの悪い人ですね。この駒はこちらにしか動かせませんよ。・・・・再三に渡って言ったはずです・・・」


「これはこれは。失礼しました、グリアムスさん。じゃあこれはここに置いてっと・・・・」


「そこに置いてしまうと・・・・はい。このようにチェックメイトとなってわたくしの勝ち~となってしまいます」


「ありゃりゃりゃりゃ」



 とこんな風にほぼほぼチェスの勝負すらままならない状態だった。毎度毎度こうしてチェスで対局している時は、決まってグリアムスさんによるワンツーマン講座となっていた。


 つい2週間前までは、こうしてグリアムスさんの集団部屋にお邪魔して、何かしらのゲームで遊んでいたものだった。・・・・今日からはまた彼にはお世話になることだろう。


 このところ寒さも幾分かましになり、いよいよ新しい季節の到来を迎えようとしている。もうすぐグリアムスさんとのおしくらまんじゅうから解放される日も近いことだろう。



「用意はできたな!?ならさっさと下に降りてこい!ベルシュタイン!」



 下僕現場監督はそう言い残すと、部屋から立ち去り、つかつかと先に階段を下りていった。自分も急いで作業用ブーツの紐をちゃんと結びなおしてから、彼の後を追った。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 外に出る。そこには豚小屋の前で整列している多数の無能生産者達が居た。彼らはずっと背筋をピンと伸ばし、突っ立っている。


 現場監督係は総勢6名ばかり。


 左からヘンドリック・カイザー、ファルコン、メンフィス オドリーゴ、アンデルセン、キースがいる。まるで上官によって、隊列を組まされているようだ。


 ・・・ここは軍隊か何かか?みな引きつった顔をしていた。


 まさに戦場の最前線に出撃する前の張り詰めた空気。あれと似たようなものを感じる。自分が豚小屋の外に出ると、そんな無能生産者からの視線を一身に浴びた。・・・やけに彼らが自分をにらみつけているような気がする。・・・気のせいだろうか?



「遅いぞ!ベルシュタイン!」



 外に出て早々、カイザー下僕現場監督にはそのような言葉を浴びせられる。



「お前のせいでみんなを待たせている!さっさと並べ!!右から3列目の最後尾!そこに行け!」



 自分は言われるがまま、カイザー下僕現場監督に従った。3列目の最後尾へと向かい、みんなに倣って気を付けをする。



「よし!ようやくベルシュタインもこれで揃ったってわけだ!おおよそ2週間!

 2週間もベルシュタインは逃亡した!連帯責任を取ってもらう!連帯責任として、無能生産者のリトルピッグどもに腕立て伏せ20回を命ずる!構え!」



 その声と共に、無能生産者たちは続々と地面に手を突き、腕立て伏せの体勢へと入る。



「へっ?」



 その様子に唖然とする自分。



「遅い!ベルシュタイン!トロトロしてんじゃねえ!追加だ!腕立て40回だ!」



「ふぁ?・・・よっ・・・40回?」



 今これってどういう状況?さっきは腕立て20回と言っていたはず。なんでこうも倍々ゲームみたくカウントが増えていってるのか?理解できない。ってか、そもそもなんで今から腕立てをやらされることになってるわけ!?


 状況を飲み込めないまま、ぼーっと突っ立っていたその時。ふと自分に対し、声をかけてくる者がいた。



「ベルシュタインさん。ベルシュタインさん」



 そこには聞き馴染みある声が。腕立て伏せの姿勢のまま顔を見上げ、突っ立っている自分に話しかけていた。



「グリアムスさん?」



 もちろんそれは言うまでもなくグリアムスさんだ。・・・・実に約2週間ぶりの再会となる。



「お久しぶりです。ベルシュタインさん」



「こ・・・こちらこそお久しぶりです!グリアムスさん!な・・・なんかまたこうして再会できて嬉しく思います!」



「・・・・せっかくのわたくしたちとの再会を喜んでいるところ、水を差して悪いのですが、今はそんな感傷に浸っている場合ではないのです・・・・はやくあなたも・・・」



 グリアムスさんがそう言った束の間。



「おい!ベルシュタインにグリアムス!俺様がこうして前でしゃべっているときは私語厳禁だ!何度も言ってるだろ!連帯責任だ!リトルピッグどもは追加で50回腕立て伏せだ!」



「ふぁ!?ま・・・また増えてる・・・」



「ベルシュタインさん!どうかそれ以上は口を閉じてくださいまし!今はこうしてあなたと駄弁を(ろう)している場合ではないのです!はやくあなたも腕立ての体勢に入ってください!さもないと・・・・」



「グリアムス!私語は厳禁だって言っただろう!腕立て60回!増量だ!」



 さらに回数は増えていく。



「うわわわ!なんかどんどん増やされていってる!?これってひょっとして減点方式とかそんなやつなの!?た・・・ただの罰ゲームじゃねーか!」



 いつまでもグズグズして一向に腕立ての体勢に入らないベルシュタインのせいで、無能生産者らの腕立ての回数が何度もかさ増しされていく。



「ベルシュタインさん!いい加減にして下さい!腕立てを!はやく腕立てをしてください!

 さもないとわたくしたちはいつまでも永遠に腕立てをやらされる羽目に!」



「グリアムス!私語厳禁だと言ってるのがわからんのか!?腕立て70回!さあリトルピッグども!さっさとやった、やった、やった!」



 無能生産者のみんなは下僕現場監督にそう号令をかけられたタイミングで、一斉に腕立てをはじめていった。



「80回に追加!ベルシュタインはまだ腕立てをやってない!」



「おい!逃亡犯!いい加減にしろ!空気を読みやがれ!」



「ひっ!!」



「お願いです!・・・ベルシュタインさん。・・・一刻も早く腕立てを!」



 グリアムスさんは喉から振り絞るようにして大声を出していた。



「90回!90回に追加だ!」



 このままウジウジしていると、自分のせいでみんなの腕立て伏せの回数が増えていってしまう。なぜこのヘンドリック・カイザーをはじめとする下僕現場監督らに命令されて、わざわざ腕立て伏せをさせられなければならないのか?


 納得いかないが、左隣でせかせかと腕立てをするグリアムスさんが苦しそうにしているのを見て、渋々自分も彼らにならって腕立て伏せをすることにしたのであった。

ここまで閲覧いただきありがとうございます!


もしよければブックマークの登録と評価ポイントの方をお願いします!


またここまでのストーリーや文章の指摘、感想などもどしどしお待ちしております。


次回も宜しくお願いします。


※完結まで刻一刻と近づいています。今後近日投稿が難しくなってしまうと思いますが、それでも完結の方までお付き合いいただけたら幸いです!

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