その41 「なんたる豹変ぶりだ!?下僕現場監督」
その41のサブタイトルはこれに変更します。
「・・・・当然ながら、豚小屋から逃げ出した無能生産者には、ペナルティーが課せられる。
・・・・わかってるよな?ベルシュタイン」
突如、自分の目の前に現れた下僕現場監督。・・・・彼の片手には物騒な金属棒が握られていた。
下僕現場監督はその金属棒を自分に対し、ちらつかせるようにしながら、じわじわと詰め寄ってくる。
・・・・まるで自分が刑務所に収監されている囚人のように思えてきた。刑務所の看守に、警棒をちらつかされ、脅されている・・・そんな感じだ。
「い・・・いや、わかりません・・・・べ・・・別に自分は逃げ出したわけじゃ・・・」
「しらばっくれるな!・・・・無能生産者が豚小屋から脱走するのは、規律違反!・・・それを忘れたとは言わせねえぞ!」
「い・・・いや、だからですね・・・・」
「口答えは許さん!この無能生産者のリトルピッグどもがぁぁ!!」
「ひっ!!」
下僕現場監督は怒り心頭だ。鉄条網をぐるぐる巻きにした鉄の棒をブンブン振り回しながら、さらに自分に対し、圧力をかけてくる。
「ゲームオーバーだ!ベルシュタイン!!お前の逃亡劇はこれにて、終焉ってわけだ」
「だから・・・・自分は別に最初から逃げも隠れも、してないっていうか・・・・」
「うるさい!黙れ黙れ!!口答えするな」
ゴツンッ!!ゴツンッ!!ゴツンッ!!
下僕現場監督は、鉄条網をグルグル巻きにした鉄の棒を、地面へとひっきりなしに叩きつける。
・・・・完全に自分をその物騒な棒で脅しに来ている。まさにこれは圧迫面接だ。
就活生時代に経験したその時のトラウマがこうしてまた蘇ってきた。
意地悪な質問や投げかけをしてきたり、唐突に机をバンッと叩いて、大きな音を出して脅かしてきたりするあれだ。
まさに今、あの時の、あのサングラスといい、髭と顔の濃いあのおっさんのことを思い出していた。
「あ・・・あの・・・」
「黙れって言ってるのがわからねえのか!?ベルシュタインよぉぉ!!
俺様は今すぐ口を閉じろっと言ってる!」
あの時のくそオヤジと手口がまるっきり酷似している。机を叩き、暴言を一方的に吐き散らし、こちらからは一言もしゃべらせてくれない。
しかも今回の下僕現場監督が持っている物は、鉄条網ぐるぐる巻きの金属棒。・・・・やることが卑劣すぎる。
「さっきから気になっていることがあるんですが、よろしいでしょうか・・・・」
「はあ!?・・・・・いったい何が気になるってんだ!?
・・・・なら、今回だけは特別に3秒間だけ、お前の発言を許してやる!!いいか!?3秒だけだぞ!?
・・・・ほら!!とっとと言いやがれ!!くそ無能生産者!!」
「その・・・・手に持っている棒は何なんでございましょうか!?」
さっそく下僕現場監督の右手に握られた金属製の棒を指さす。
「これのことか!?」
首を縦に振った。
「これはなぁ・・・・俺様特製のしばき棒ってやつだ!!」
「し・・・しばき棒?・・・しばき棒って・・・・」
なんだそのしばき棒って・・・。まさに刑務所の看守そのものじゃないか・・・・。
「そう!しばき棒だ!!・・・・これで働きの悪い無能生産者のリトルピッグどもを、徹底的に血祭りにあげるんだよ!!」
「リ・・・・リトルピッグどもに・・・・血祭り?」
「そうだ!!この棒で無能生産者のリトルピッグどものたるんだ根性を叩き直すのだ!
あのパワハラ現場監督亡き今、この俺様がしっかりやつの意思とやらものを、引き継いでいかなければならないからな!」
「そんなもの引き継がなくていいんですよ!!現場監督さん!!」
「うるせえ!!口答えするんじゃねえぞ!ベルシュタイン!!」
「うぅぅ・・・」
またどやされてしまった。まだまだ言いたいことは山ほどある。しかしこれ以上口を挟むと、こちらとしてもどうなるかわかったものじゃない。
・・・・だが自分は言いたいことがあれば、すぐに言う男。ここは男としてガッツを見せなければならない。
息を大きく吸い込み、1度深呼吸してから、再び口を開いた。
「あ・・・あのパワハラ現場監督でも、しばき棒で無能生産者のみんなをしばき上げるような真似・・・してなかったのに!!や・・・やりすぎですよ!!現場監督さん!!」
「何がやりすぎなもんか!ベルシュタイン!!やっとなぁ・・・やっと、やつが消えてくれたおかげで、俺様の時代が来たんだ!!
・・・・今まではずっと奴の操り人形に過ぎなかった。だがしかし!奴があの一件で、失脚した今!俺様の天下がやってきたんだ!
・・・・だからこそヘマはできねえ。俺が俺であるために、この棒は是非とも必要なんだ!豚小屋の秩序を今後保つためにもなぁ!!」
「げ・・・現場監督さん・・・。あなたいったいどうしちゃったんですか!!
土砂処理作業中の時のあなたは、そんな暴力的な人じゃなかった!
・・・あのパワハラ現場監督よりも温厚で、自分たちにも優しくしてくれたあの現場監督さんはどこに行っちゃったんですか!!」
「ごたごたうるせえ!!ベルシュタイン!!とっとと豚小屋に戻るぞ!!話は終わりだ!!」
「嫌ですよ!!あんなところに戻りたくはないし、あなたのそのやり方は到底許されるべきものではない!ただの恐怖政治ですよ!それ!」
「うるせえ!!黙れ!!黙れ!!黙れ!!」
今の下僕現場監督にあの時の優しさの面影はどこにもなかった。
会社の上司が居なくなった途端、それまではとある例の部下が、ずっとその上司に対して、ゴマをすっていた。
しかしいざその上司のポストにその例の部下の人が後釜として着任すると、いきなり性格が凶変。見事なまでの傍若無人ぶりを発揮し出し、周囲に迷惑をかけてしまう。そのあれと似ている。
まさに下僕現場監督は、その性格豹変病にかかってしまったのだ。
「おい!!なにグズグズしてるんだ!?早く俺についてこい!
・・・でないと、このしばき棒で、お前の頭をかち割ってやるぞ!!」
自分が豚小屋から離れてこの方、無能生産者たちを取り巻く環境は、この人によって、大きく変わってしまったと思われる。
今、目の前に居る下僕現場監督はパワハラ現場監督以上に凶暴化しており、こんな彼が豚小屋の総監督に就任している。
・・・・状況は最悪だ。
ひょっとするとグリアムスさんも、この下僕現場監督によって危険にさらされているかもしれない。
・・・・・グリアムスさんのがことが非常に心配になってきた。
・・・・ここはおとなしく、この下僕現場監督の言う通りにして、豚小屋までついて行こう。そもそもおとなしく彼の命令に従っておかないと、そのしばき棒とやら物で、自分の命も脅かされる事態となりかねない。
「わ・・・わかりました。・・・・現場監督さん」
自分は素直にそう言って、彼の意向に従うこととした。
「おい!ベルシュタイン!!」
「はい!なんでしょうか」
「一言だけ付け加えておく!俺様は今、無能生産者のリトルピッグどもから、カイザー様と呼ばれている!ヘンドリック・カイザー様だ!!
・・・・以降俺のことはヘンドリック・カイザー様とお前も呼ぶように!わかったな!!」
「はい。・・・・わかりました。カイザー様・・・・」
・・・・この下僕現場監督は、やはり頭が相当イッちゃってるとしか思えない。
自分の事をカイザー=皇帝とお呼びしろなんて・・・・。その凶暴性に加え、下僕現場監督は中二病までも発症していた。
・・・・豚小屋全体が今現在、とてもカオスな状況となっていることが容易に想像できる。一刻も早く戻って、グリアムスさんの安否を確認しなければ!!
「ちょっと!あなた!!何をしてるの!?」
「・・・・カ・・・・カステラおばさん・・・」
カステラおばさんが今まさに、自分がこの下僕現場監督に連れられようとしていたところを見て、遠くから駆けつけてきてくれたのだ。
「わたしに何の断りもいれないで、どういうおつもりかしら?・・・・勝手にその子を連れて、どこに行くつもり?」
カステラおばさんから普段のにこやかさが消え去っていた。下僕現場監督に対し、突っかかっている。
「何なんだ!?このババアは!?」
「申し遅れました。わたしはカステラと言います。はじめまして。あなたの名前は?」
「うるせえ!!勝手に自己紹介してくるんじゃねえ!!・・・・てかそもそもババアが俺に何の用だ!?」
「ベルシュタインくんは、わたしの仕事仲間です。・・・・そんな彼を勝手にわたしの許可なく連れ出すことは認められません。どうかお引き取りください」
「黙れババア!!こいつは俺様の所有物だ!!俺が好き勝手使い古していい無能生産者どもなんだよ!口出しは許さん!!」
下僕現場監督はカステラおばさんの言い分を聞き入れようとしない。
「何を言ってるの!?ベルシュタインくんは、わたしが引き抜いたのよ!無能生産者からこの牧場にわざわざ異動させたのよ!
だからもうあなたの所有物でも何でもないの彼は。・・・・言い方は悪いけど、今のベルシュタインくんはわたしの所有物なの!」
その所有物か否かの主張を互いに交わし合うのは是非ともやめていただきたい。何かもっといい例え方があるでしょうに・・・・。
「ババア!あんた更年期障害か何かを患ってるのか?何でこいつの所有権がお前なんかに移ってるんだよ!!こいつは無能生産者のリトルピッグだ!!こいつが無能生産者な時点で一生豚小屋生活を送ることは決まってるんだよ!!」
「何を言ってるの!?それはもう終わったことのはず!あなたもセバスティアーノさんからの報告は受けたはず!!・・・・知らないとは言わせないわよ!!」
「もう話にならんわ!更年期ババア!・・・もうおめえと話をするだけ無駄じゃ!!おい!ベルシュタイン!!とっととずらかるぞ!!」
そして自分は下僕現場監督に、彼特製のしばき棒で後ろから脅されながら、黙って前を歩かされる。
「よしいいぞ。このままお前は、俺の前を歩いていればいい。少しでも変な動きを見せてみろ。すぐにお前の頭をこれでかち割ってやるからな。・・・・覚悟しておけ」
「待ちなさい!!その子を連れていくのは許しませんよ!!」
カステラおばさんは背後から声を張り上げていた。
「おい!ババア!!今すぐ黙らねえと、こいつでババアの脳天を叩き割ってやるぞ!!
・・・・おめえの頭がスイカ割りのスイカみたいになりたくなかったら、今すぐ口を閉じろ!」
「ううぅ・・・・」
カステラおばさんは、その下僕現場監督の脅し文句に屈してしまった。それからカステラおばさんは一言も発しなくなった。
「・・・・・更年期ババアのくせして、大変物分かりがいいようで。・・・ほらいくぞ!!リトルピッグ!!」
そして結局自分はそれから何の抵抗もすることなく、下僕現場監督の彼に豚小屋まで連れられてしまった。
後ろを振り返り、カステラおばさんが今どんな表情を浮かべているのか確かめてみたかった。そうしたいのは山々だったが、背後にはしばき棒を持った悪魔が居る。背後を振り返りたくても、振り返れない状態だ。
・・・・抵抗なんてしても、向こうには武器がある。・・・・どう考えても老体のカステラおばさんに、戦闘能力が低い自分ら2人がかりで抵抗したって、何の勝算もない。
それこそ無理に戦おうとしたら、しばき棒で頭をかち割られ、カステラおばさんの命まで危険にさらしかねない。
・・・・これは自分だけの問題。あの時に無能生産者と認定されてしまった自分が故の面倒ごとを持ち込んでしまっただけに過ぎない。
最初から有能生産者だったカステラおばさん、ペトラルカさん、ミーヤーには何の関係もなかった話。
ここからは全て、自らが幕引きを図れば、丸く収まる。
自分が素直に豚小屋まで戻って、また無能生産者としての職務を果たしていけば、彼女らには何の危害も加わることはない。
こうして約2週間に渡ったこの牧場での生活からは、おさらばすることになった。
カステラおばさん、ペトラルカさん、ミーヤーの協力があって、この生活を実現させ、日々楽しく過ごしていたが、それもこうした唐突な出来事によって、いとも簡単に崩れ去ってしまったのである。
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※『アポカリプス』世界崩壊編、2話から6話までが完全新規エピソードです。そちらの方もどうか閲覧のほどをよろしくお願いします。