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その39 「コサックダンス体操」

新たに第1部から第8部まで、新エピソードの追加、及び加筆を行いました。


もしよければ、序章『アポカリプス』世界崩壊編、2話から6話までが完全新規エピソードです。是非とも閲覧いただけたらと思います。

 お祝いパーティーをして、1週間後の朝を迎えた。もうその頃になってくると、あらかたの牧場作業が身についていた。


 仕事にもやりがいがあるといった感覚を知ったのもこの頃だった。


 それまで仕事なり、バイトといった労働は例外なく全てにおいて、ただ苦痛であり、時間を犠牲にして、お金を頂戴するだけしか価値のない行為だと思っていた。



 今となっては、そんな働いたら負けの代名詞的存在である、労働そのものに対するマイナスイメージは完全に払拭されている。



 毎日牧場の動物たちと触れ合い、ペトラルカさんとミーヤーとも仲良くやらせてもらい、充実した日々を送っている。



 もはやこの牧場仕事に対するドヨルドチップといった対価も、今の自分には必要ないくらいだ。


 牛とヒツジ、ニワトリたちと、彼女らが居る。


 そんな日々を過ごしているだけで、十分自分の心は満たされている。



 サッカーゲームだけをやり続け、ぐうたら過ごしていた日々では絶対に得られることのなかった充足感。


 ゲームをやること以外で、充実した日々を送った経験がなかった自分にとって、新鮮味溢れる毎日だった。



「そういえばあの豚小屋から離れて、もうすぐ2週間か・・・・」



 グリアムスさんとはあの葬儀以来、もうずっと会っていない。


 この牧場での日常に、グリアムスさんというワンピースがもう1つ加わってくれさえすれば、これ以上望むものは何もないだろう。



 グリアムスさんと長らく顔を合わせていない中、ペトラルカさんとミーヤーと共に、ずっと牧場で暮らしているうちに、お互いに自然と敬語で、丁寧口調で話すことは完全になくなった。


 今では完全に、双方ともに砕けた関係性となっている。



 グリアムスさんのあの丁寧口調で会話を交わしていた時が、遠い昔のように感じてきた。


 またグリアムスさんとバカ丁寧語のトークを繰り広げたいものだなぁと、心なしか思っていたその時だった・・・・




 カンカンカンカンカン!!!




 そのカンカンカン!っと鳴らされた音に、自分の安眠はまたもや妨害された。



 ・・・・またあいつだな・・・。



 何をやらせても穏便に物事を済ませられない、あの褐色系の女の仕業だ!


 それらを1つ1つ挙げても、きりがないくらいもめ事を起こす張本人!



 ・・・・・トラブルメーカーの申し子であるミーヤーその人のご登場だ。



「さあ!ベル坊!起きろ~~!!毎朝恒例の早朝トレーニングの時間だよぉ~」



 カンカンカンカンカン!!!



「うわっ!!」



 自分の耳元で、毎朝行われるフライパンの打楽器演奏による目覚まし。


 鉄製のフライパンはよく音が響く。・・・・鼓膜を本気で破りにきているとしか思えない。


 まだ布団の中で、すやすやと眠っていたい自分の気持ちをミーヤーは、そんなのお構いなしと言わんばかりに、容赦なく削いでくる。



「起きた!起きた!ベル坊!」



 カンカンカンカンカン!!!



「わわわわわ!!もうそれやめてくれよぉ~!来る日も来る日も自分の部屋に忍び込んできやがって!

 てかそもそも今日は、ちゃんと部屋に鍵をかけたはずなんだが!?・・・・どうやって入り込んできたんだ!?」



「へっへっへっへっへーー・・・・。そんな小細工なんて、このお姉さんの前には全くもって無力!」



「ピ・・・ピッキングでもして、部屋に侵入したのか?・・・・それ完全に犯罪だぞ!」



「コ・・・・コミュニティードヨルドの法律に、ピッキングして人の部屋に勝手に侵入してはならないなんて、どこにも書いてならギリギリセーフ!」



「いや、ギリギリどころか完全にアウトだから!それ!

 ・・・・住居不法侵入をしてはいけないことぐらい、ここのコミュニティーの法律に書いてなくたって、みんな暗黙の了解として、当然理解してるはずだよね!?」



「はいは~い。ぐだぐだ言わない~。そんなことより大事なことがあるでしょ?

 トレーニング!トレーニングだよ!・・・・ベル坊も入隊したいんでしょ?武装班に」



「うん・・・そうだね。・・・・武装班に入れば、外に出る機会も増えるだろし、そうしたらあの日から行方不明になった母親も同時に探せるかなぁと思って・・・・」



「そうでしょ!だから毎朝、わたしが直々にコサックダンス体操を指南してあげてるんだよ!何ごとも継続が力なり!・・・だよ?」



「わかってるよ!・・・・わかってるけどもう嫌なんだよ!あのコサックダンス体操!」



「そんな弱音吐くなんて、ベル坊らしくないよ!あれからもう1週間経つんだよ?

 ・・・・そろそろ仕上げの時期に入ろうとしてるのに、こんなところでまた逃げ出すつもり!?」



「・・・・・あのコサックダンス体操をやらされてから、ずっと膝と股関節がズキズキ痛んできて、日常生活にもろ支障をきたしてるんだよ!・・・・そろそろ膝と股関節も限界なんだが!!」



「それはまだまだ修行が足りないってことですな!ベル坊!

 あのペトラルカでさえ、1週間でコサックダンス体操をマスターしたんだよ!ベル坊はそれでいいのか!?男ならもっとガッツを見せんかい!」



「ペトラルカさんもミーヤーも本当に別次元なんだって!あんなに腰をガクンと落として、足を交互に出すなんて真似、到底無理だよ!」



「だってベル坊って、めちゃくちゃカラダ硬いもんね~。本当にガッチガチだもん。

 そんなんじゃ、武装班の入隊試験なんて通らないよ!武装班に加わるのもまた夢の夢~」



「まさか武装班に入隊するのに、コミュニティーの皆の前でコサックダンスを披露しないといけないなんてな。・・・・どうなってんだよ!このシステム!」



「ぐだぐだ言わな~い!それが武装班の代々伝わる伝統なんだから!ハッスル!ハッスル!ベル坊!」



 そもそも伝統も何も、このコミュニティードヨルドができてまだ1年も経ってないんだろ!?


 ・・・・・たった1年にしか満たないものに、伝統もクソもないと思うんだが!?



「うぅぅ・・・・自分も2人みたいに華麗にコサックダンス踊れるようになりたいなぁ~」



 自分がコサックダンスを毎朝やらされているのは、こうした理由があったからである。


 武装班に入隊するためには、月に1回行われるコサックダンス舞踏会で、コミュニティーのみんなの前で華麗にコサックダンスを踊れる必要があった。



 そのコサックダンスの披露会が、実質的に武装班の入隊試験を兼ねているのであった。



 そんな自分が武装班に晴れて入隊するために、この1週間の間、ミーヤーから直々の指南を受けていた。



 つまるところ、行方不明の母を探すために、自分はコサックダンスをやらねばならないのである。



 武装班の物資調達班に加わり、あれからずっと生き別れになっている母を見つけ出し、感動の再会を果たすために、自分はコサックダンスをやる。


 そのためだけに来る日も来る日も、ペトラルカさんとミーヤーと共に、コサックダンスをし続けていたのだった。



 牛の乳を搾っている合間の時間に、コサックダンスをした。


 ヒツジの毛刈りの合間の時間も、ニワトリの世話をしている合間の時間も、コサックダンスをした。


 しまいには、彼女たちといつものように楽しく会話する時であっても、コサックダンスをしながらってことがあったほどだ。



 もはや自分はコサックダンス中毒となっていた。・・・・今、完全にコサックダンス依存症を患っているところである。




「さあ!コサックダンス体操、第1!ハイハイハイハイ!ハイハイハイハ~~イ!

 さあペトラルカ!わたしに続いて、やってみなさい!」



「ハイハイハイハイ!ハイハイハイハ~~イ!」



「よくできた!ペトラルカ!腕もちゃんと組めているし、体幹もちゃんと保てて、足の曲げ伸ばしまで、完璧にできている!

 よし次はベル坊!!ペトラルカに続け~!」



「ハイハイハイハイ!ハイハイハイハ~~イ!」



 ずて~~~ん!



 自分は体幹をキープできず、また後ろからすっころんで、勢いよく尻餅を打ってしまった。



「こらぁ~!ベル坊!何なんだ!そのみっともないコサックダンスは!?

 もっと腰を落として!体幹もフラフラだし、足の曲げ伸ばしも全然できてないじゃん!

 はいやり直し!もう1回!」



「うおぉぉぉぉぉ!!!ハイハイハイハイ!ハイハイハイハ~~イ!」



 ずて~~~ん!



「こらぁ!!さっきから何も変わってないじゃんか!ちゃんと頭使いなさ~い!ベル坊!

 ただがむしゃらにやってても、コサックダンスは一向にできるようにならないよ!!」



 自分はずっとこの調子だった。何度もすってんころり~んを繰り返していた。



 ちなみに武装班に所属している人は全員これが難なくできるらしい。


 ・・・・武装班の身体能力が心底、恐ろしく思えてくる。



 母を見つけるために、コサックダンスをやらなければならない。


 武装班に入隊するためにコサックダンスをやらなければならない。



 ・・・・・これもうわかんねえな。



 近頃コサックダンスのやりすぎで、コサックダンスをやるために母を探す。コサックダンスをやるために武装班に入隊すると言った、当初の目的からだんだんずれてきているように思えてきた。


 つまりコサックダンスをやるために母を探し、コサックダンスをやるために武装班に入隊すると言った目的に変わりつつあった。



 それだけ自分はこのコサックダンス体操に、どっぷりと浸かっていたのであった。

ここまで閲覧いただきありがとうございます!


もしよければブックマークの登録と評価ポイントの方をお願いします!


またここまでのストーリーや文章の指摘、感想などもどしどしお待ちしております。



次回は その40「しばき棒を持った悪魔」です。次回も是非よろしくお願いします。

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