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その38 「強制労働からの解放」

新たに第1部から第8部まで、新エピソードの追加、及び加筆を行いました。


もしよければ、序章『アポカリプス』世界崩壊編、全8話あるので、閲覧いただけたらと思います。


※ 本編その38のタイトルは以下に変更します。「コサックダンス体操」は次回のタイトルとします。

 お祝いパーティ―はついにお開きとなった。ここからは後片付けの時間だ。



 食卓に並べた小皿などをキッチンに集めておき、手分けしてペトラルカさんやミーヤー、カステラおばさんたちが固形石鹸でごしごしと皿を洗う。


 その間自分は牧場の井戸から何度もバケツで水を汲んでは、カステラおばさんの家に向かって、彼女たちが懸命に皿洗いをしているのをよそに、井戸から汲んできた水入りのバケツをそっと置いた。


 これを何往復も井戸とカステラおばさんの家のキッチンとで、行ったり来たりしていたのである。



 ・・・・散々無能生産者として強制労働に従事していた身であるから、これくらいの仕事は朝飯前だ。



 まさにこのバケツリレーの仕事は、自分ベルシュタインにお任せあり!彼女たちは自分を全然頼りにしてもらってもいい。



 この時をもって、やっと彼女たちに自分が頼りがいのある男として、アピールすることができた。


 これで彼女たちの自分に対する評価も少しばかり上がったのではなかろうか?


 そうであってくれれば、喜びもひとしおというものである。



 そうしているうちに、パーティ-の後片付けはついに終わりを迎えた。


 その終わったタイミングを見計らって、カステラおばさんにグリアムスさんのことをさっそく打ち明けてみた。



「いいわよ。また明日、セバスティアーノ邸に行って、そのグリアムスさんってお方の無能生産者からの牧場勤務への配置転換。しっかりお願いをしてくるわ」



 反応は上々だった。


 とのことで、グリアムスさんも晴れて、ここの牧場へと、新たに労働者としてやって来る可能性が大になった。


 自分みたいな人間ですら、統領セバスティアーノは無能生産者からの鞍替えを認めたのだから、グリアムスさんが認められないことは断じてないと思う。


 グリアムスさんは自分よりも格段に優秀な人間なのだから、それもあって、グリアムスさんが牧場労働の異動を拒否される理由はないと思っていた。


 まあ以前同様、自分みたく、そう上手くことが運ぶかどうかは定かではないのだが。



 それでも期待せずにはいられないのであった。



 グリアムスさんがこの牧場へとやって来てくれるのであれば、大変心強い。自分はその日が来るのが待ち遠しかった。



 そしてお祝いパーティーの翌日のこと。


 カステラおばさんは昨夜自分と交わした約束通りに、セバスティアーノ邸へ出向いてくれて、その旨をまたお願いしに行ってくれた。



 そしてまたまた夕方ごろ。町から再びこの牧場へと、カステラおばさんが戻ってきたかと思うと、以前のようにおばさんは真っ先に自分に駆け付け、その経過報告をしてくれた。



「セバスティアーノさんは今回も、好きにしていいって、言ってくれたわよ。

 前にあなたの配置転換を願い出た時と、全く同じことを言ってくれたんだから、今回も大丈夫よ!無事あなたの願いはセバスティアーノさんに、聞き入れられたわ」



「ありがとうございます!カステラおばさん!・・・・にしても好きにしていいって・・・・なんだか気に食わないなぁ~」



 好きにしていいって・・・・。


 別に自分とグリアムスさんのことなど、セバスティアーノにとって、どうでもいい存在だと言ってるようなものだった。



 その2人に何が起こっても知りません。


 だから勝手にどうぞそちらの方で、好きにやってください。


 自分は2人に何があっても、一切干渉も何もしませんからっといった責任の逃れな印象を、自分はカステラおばさんの語ってくれたそれらの状況から勝手に想像し、受けていた。



 豚小屋に強制収容され、1日16時間労働を強いられてきた無能生産者の日々。


 統領セバスティアーノのそれらの言い方自体、ひどく鼻にはつくものの、何はともあれ結果的に、グリアムスさんも自分と同じく、その強制労働から解放されることが、ちゃんとセバスティアーノの口から確約されたということになる。



 グリアムスさんの、強制労働から無事に解放されるそのXデーは、いつになるのか?


 ずっとその日を待ちわびていた。



 だがしかし、それからというものの、いつになっても、グリアムスさんがこの牧場にやってくることはなかった。



「もうあれから4日・・・・、どうしちゃったんだ?グリアムスさん」



 いつまでもグリアムスさんが、この牧場に姿を見せないので、彼を待ち焦がれ続けていたその期間中、何度も何度も、カステラおばさんにはしつこく詰め寄った。



「グリアムスさんは来ますよね?・・・・・何だか遅すぎやしませんか?」



 この期に及んで、カステラおばさんのことを疑うような真似はあってはならないのだが、それでもグリアムスさんがこの牧場で働くことを統領セバスティアーノが許可してくれたと、自分に言ってくれたおばさんの言葉そのものが、嘘ではないのかと言った不信感を抱くまでになっていた。



 ・・・・・その時、自分に誓ってくれた言葉もただの口約束で、カステラおばさんは本当のところ、統領セバスティアーノにグリアムスさんが牧場で労働することの許可を得るためのお願いすら、そもそもしていなかったのではないか?



 カステラおばさんが統領セバスティアーノに一度たりとも面会などしておらず、はなから、グリアムスさんをこの牧場で働かせるつもりがなかったのではないか?・・・・っといったそんな疑念を心なしか抱き始めたのだ。



「おかしいわね。あの時はちゃんとセバスティアーノさんは、許可してくれたのにね。

 好きにしていいって・・・・。確かにそう言ってたわ」



「ほ・・・・本当ですか?」



「わたしを疑わなくても大丈夫よ。あなたを裏切るようなマネなんて、絶対にないって心から誓えますもの」



「そ・・・そうですか。それを聞いて安心しました」



「もしかしたらそのグリアムスさんってお方に何かあったんじゃないかしら?・・・・・この牧場に今はどうしても来れない事情ができたとか・・・・」



「・・・・ケガや病気・・・・とかですかね?」



 それならまだ納得のいく範囲ではあった。



 強制労働中に不慮のケガをしたため、この牧場までどうしても近日中に来れなくなってしまったとかなら、可能性として大いにあるかもしれない。



「・・・・・まったくグリアムスさん・・・・どんだけ自分を()らせば、気が済むんですか・・・・」



 この時の自分はそう大したことはないと見くびっていた。


 早くても明日中に、遅くても明明後日(しあさって)中には、ここにやって来るものとばかり思っていたのだから。



 しかしその後、自分は思い知ることになる。


 ・・・・ここがコミュニティードヨルドであることを。


 有能生産者であらずんば人にあらずという、このコミュニティードヨルドきっての不文律のことを。


 まさかこれから、あんなあるまじきことが自分たちの身に降りかかることになるとは、自分も含めてペトラルカさん、ミーヤー、カステラおばさんに至るまで、誰も思ってもみなかっただろう。



 ・・・・今にして思えば、



「好きにしてよい」



 ・・・・この言葉に隠れていた違和感そのものに、どうして気付くことが出来なかったのか?


 もしこの時にその違和感に気づいてさえいれば、あのような悲劇が起こることなど絶対になかったはずだった。


 本当に、本当に迂闊だった・・・・・。

ここまで閲覧いただきありがとうございます!


次回は その39「コサックダンス体操」です。


※ 序盤の『アポカリプス』世界崩壊編は、主に2話から6話が完全新規エピソードとなっているので、そちらの方も是非、閲覧いただけたらと思います。 

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