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その30 「ミーヤーは変態だぁ!」

 ごくごくずっくん!



「やりますね!ベル坊!ここまで張り合えるなんて思ってもみなかったよ!」



「ベル坊やくん!ナイスファイトだよ~!」



「ぐへえ・・・」



 自分とミーヤーは互いに何十杯ものテキーラを飲み明かしていた。ミーヤーに至っては、自分とは違い、顔色も呂律も全く怪しくなってない。自分は頭の中がお花畑と言うか、時折変な妄想や空想にかきたてられ、気分を良くしており、とうにほろ酔いレベルを通り越していた。


 完全に理性は崩壊し、突拍子もない発言を連呼していたような気がする。具体的にどのようなことを口走っていたかなんて、全くもってわからない。高揚した気分そのままで、無意識のうちにあれこれしゃべりまくっていた。



 テキーラが進むにつれ、だんだんお互いの飲むペースは落ちていった。飲むにつれて、自分の視界もさらにグニャグニャとぐらついてくる。そのテキーラ酔いを覚ますため、何杯かの水を飲んだ。するとすこしばかりかその症状もおさまりを見せ、理性もほんのわずかだが戻ってきた。


 そして自分は思った。このままミーヤーとのテキーラ一気飲み対決を続行すると命が危ないということを。そんな当たり前のことを、やっと冷静に考えることが出来た。



(これ以上ミーヤーに付き合わされるのはご免被りたい!)



 何杯もテキーラをも飲まされ続けるなんて正気の沙汰ではない。ついでに尿意の方も限界を迎えていた。テキーラ対決をしている間、一度たりとも席を立っていなかった。これ以上付き合わされると、いろいろな意味合いでまずかった。



「だが待てよ・・・」



 左隣にいるミーヤーに聞こえないくらいの声で静かに独り言をつぶやいた。


 まさに今が、この地獄のような状況を抜け出せる最大のチャンスなのではないのかと思いついた。ミーヤーは自分と同じく何十杯もテキーラを飲んでおり、決して酔っている素振りもパッと見だと、あまり感じはしないものの、しかし実際には顔に出さないだけで、ミーヤー自身も酒の力で脳内を相当お花畑と化しているのではないかと思った。



 そうであるなら、今のミーヤーは合理的にものを考えられる状態ではないのでは?ガードが甘い今のミーヤーならこっそりと、この酒場から抜け出せるのではないか?逃げる素振りを見せても、それに気づかないのでは?そもそも彼女とのテキーラ一気飲み対決の白黒つけることに興味などない。とにかく今大事なことはこの勝負から合法的に降りることだ。そのためにも今このタイミングで抜け出すのがベストだと思った。



「そうとなれば、さっそく実行しよう」



 ベルシュタインはそう思い立ち、ゆっくりと腰を上げ、次の一言をミーヤーに言った。



「ちょっとトイレに・・・・」



 ミーヤーにそう言ったあと、大将にトイレの場所をたずねる。すると大将は店を出てちょうど右隣の建物にあるよと答えてくれた。やっぱりそうだったか。店内の奥の方を時折ちらちらと見ていたのだが、トイレの表札、目印らしきものが全く見当たらなかったのだ。これでやることが決まった。



 トイレに行く振りをして、そのままこの酒場からおさらばしよう!ミーヤーも表情こそ出さないものの、かなり酔いつぶれて、ベロンベロンになっているはずだ。自分がこの場から逃げ出すといった決意のかけらですら、酒に酔って判断が鈍っている今のミーヤーに勘付かれるわけがない。


 せっかく自分のために食事なり、飲み物なりを全部おごってくれたミーヤーには悪いが、もうカラダが持ちそうにない。限界だ。もうテキーラを飲むこと自体が気合いや根性をもってしてでも到底無理であった。


 変にこの場に居座っても、自分を破滅に導く。ゆえにこっそりと抜け出すのである。トイレに行く振りをして、そのままおいとまさせていただくのだ。



 少し足元がフラフラで歩きにくいのを感じつつも、ドアの方にむかった。



「今日はありがとうございました。この御恩は生涯忘れません」



 まるで去り際の捨て台詞を吐くみたいに、そっとその言葉をこの店内にいる者に聞こえないようつぶやき、外に出たのであった。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 外に出るとすっかり暗くなっていた。昼間からこのバーに入り浸っていたので、だいぶ時間が経過してしまっていたようだった。夜風が心地よい。夜風に当たったからなのか、酔いが少しばかり覚めた気がする。まだ視界はグルグル回っていて、足元もふらつき、ちゃんとまっすぐに歩けてないが、ひとまずグリアムスさんの待つ豚小屋まで頑張って足を運ぶことにした。



 キィィーー!バタンッ!



「あれ?さっきちゃんとドアを閉めておいたはずなのに・・・」



 店を出た際にドアがしっかり閉まったのを確認してから、外に出たはずなのに、その後なぜかドアを開け閉めする音が聞こえてきた。



「・・・テキーラで酔ったせいで、聞こえないはずの音まで聞こえているのか。これが酔った時に起こる幻聴ってやつか」



 そうブツブツつぶやきながら、背後を確認する。するとそこには・・・・



「お~~いベル坊。トイレはこっちだぞ~。なに真反対のところに行ってるの~?」



 そこにはミーヤーがいた。さっきまで店の中で大将とペトラルカとで仲良くべちゃべちゃしゃべっていたのに。まさかミーヤーもこのタイミングで外に出てくるなんて思ってもみなかった。



「さあ!ベル坊、一緒にトイレに行こ~」



 ここは仕方なしに、彼女と一緒にバーの隣の建物の中にあるトイレと向かった。まあこれぐらいならまだいいか。ミーヤーが女子トイレに入ったのを確認してから、足早にその場を立ち去ればイッツオーライってやつだ。その隙を見て逃げ出せばいいだけの話である。


 頭の片隅でその事を考えながら、彼女のあとをついていった。








 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







「もしもし?ミーヤーさん?」



「はいはいベル坊。なんでございましょう?」



「ここはどこだかわかってます?」



「ばっちし!そこのところはちゃんとわきまえているよ!」



 ミーヤーは右手でピースサインをつくり、自信ありげな態度を示してくる。



「あの~ここは男子トイレです。女子トイレは隣にありますよ?大丈夫ですか?」



「大丈夫、大丈夫~♪」



 ミーヤーはあろうことか、男子トイレに女性の身でありながら堂々と入ってきていた。まだアルコールが体内に相当残っているのだろう。女の子が男子トイレに入るといった暴挙に出ていた。



「よいではないか、よいではないか。わたしがベル坊の後ろでちゃんと見張っているから、ベル坊はわたしのことは気にせず、遠慮なくそこで出すものを出してくれ!」



「いや女の子にぴったり後ろにつかれているとなると、緊張してしまい、一向に出すものが出せないのですが・・・」



「さきほども言ってるじゃないか。わたしのことは気にせずここで思いっきりだすといいよ!」



「いや無理ですよ!ミーヤーさんはさっさと隣の女子トイレに行ってくださいな!」



「そんなことはいいからとっととここで出すもの出して、出てくるのだ~」



 ミーヤーはかたくなにこの男子トイレから出ようとしない。ミーヤーの悪ふざけも酒の力もあってますますひどくなっている。



「あの~これは立派な逆ナン痴女行為ってやつですよ?警察呼びますよ?」



「なんだそれ?意味わかんねーこと言ってないで、とっとと済ませろよ~ベル坊」



 思わず警察を呼びますよ?と口走ってしまったが、そもそも警察なんてキメラ生物が発生した段階で、その存在は消滅してしまった。自分はこの場では完全なる被害者側なので、もしこの世界になって警察がまだ機能していたら、迷わず911番通報をしていただろう。



「なら一層のこと、ベル坊がちょろちょろと出しているところを、わたしが後ろでこうしてこうして揺さぶってやろうか?」



 そう言うとミーヤーは突如として、自分の肩をガッ!っとつかみ左右に揺り動かしきた。



「うわうわうわ!ちょっとやめてくださいってば!離れてください!すぐに出しますから!」



「よし!その言葉に嘘偽りはないな?ならとっととやっちまいな!」



 そうしてミーヤーはパッと自分の肩から手を離し、自分との距離をあけた。そしてようやく自分はじょろじょろとその小便器に向けて、出すものを出していった。


 ミーヤー自身、さきほど距離をあけたとは言っても、自分のすぐ後ろのところにスタンバイしていたため、最悪自分のその用足しの一部始終を見られていた可能性が高い。いやミーヤーの性格上、見ていなかった可能性の方が低いと言わざるを得ない。興味本位で絶対覗いたに違いない。何もかもが最悪だ・・・



「自分はこの通りもう終わったので、ミーヤーさんもとっとと隣に行って済ませてきてくださいよ」



「ん~~。でもわざわざ隣まで足を運ぶのもめんどくさいから、ここで済ませちゃおっかな~」



 ミーヤーはまたしてもとんでもないことを口にしだした。



「もういい加減にしてくださいよ!悪ふざけが過ぎますって!」



 自分はちょっと怒り気味な強い口調でそう彼女に物申した。



「よいではないか、よいではないか~。別に減るもんじゃないし」



 十分に減るもんだよ!っと言って、その発言に突っ込みたくなる自分。



「そうだな~、う~~んどれにしよっかな~」



 ミーヤーはなにやら品定めをするみたいに、用を足すための小便器の品定めに入った。



「よし!君に決めた!」



 そう言うと、ミーヤーはさきほど自分が済ませた便器の右隣の小便器の前に立った。



「ちょっと・・・本当に冗談ですよね?」



 まじでここで用を足すつもりなのか?さすがにそれは口だけのでまかせだと思って、ミーヤーに聞いてみたが、当の本人からの返答はこうだった。



「冗談でも何でもないよーだ。たかがベル坊ごときの男におしっこするところを見られたって、わたしは一向にかまわないし!気に留めないし!」



 そう言って、ペトラルカはデニムのショートパンツを脱ごうとする仕草を見せてきた。



「うわぁぁぁ!!!まじでやるつもりだぁぁぁ!!もう無理だ!付き合ってられない!!」



 ベルシュタインはその狂気じみたミーヤーの行動に耐えかね、男子トイレから猛スピードで逃げていった。



「あっ!逃げたな!?ベル坊!?待て待て待てーい!」



 自分がすぐさま逃げ出したのを見て、ミーヤーも全速力で追いかけてきた。



「うわああああああああああ!!!来るな!!!」



 トイレから外に出た。ふと後ろを振り返ると、全速力で追いかけてくるミーヤーの姿があった。



「待て待て待てーい!」



「まじで勘弁してくださいよおおおお!!」



 ミーヤーに捕まらないよう、必死な思いで逃げていたものの、すぐさまとっ捕まえられてしまった。



「さてと!敵前逃亡は許さないよ~ベル坊。なにわたしとのテキーラ一気飲み対決から、逃げ出そうとしてるのかな?」



「え?別にそんなことは・・・・」



「あんたのような小心者の考えることなんて、想像つくってもんよ!トイレに行ったすきにわたしから逃げ出そうと考えていたでしょ?」



 図星だった。自分の心の内はすべて彼女に見透かされていたのだった。なんでテキーラをたくさん飲んでいるはずなのに、そこまで頭がさえわたってるんだよ!



「さあ!戻るったら戻る!勝負の再開だよ~」



「ひぃぃぃぃぃ!!もういやだぁぁぁ!!」



 そうして自分の酒場からの逃亡作戦は失敗に終わり、再びミーヤーの手によって酒場に引き戻されていったのだった。


ここまで閲覧いただきありがとうございます!


次回は 本編 その30「思いっきり笑ってショータイム」です!近日アップします。

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