表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/133

その29 「ミーヤーの悪ふざけ。付き合ってらんねえよ!」

「ぷはーー!くー!お代わり!」



「はい!わたしも!」



 ペトラルカさんとミーヤーは、アルコール度数が高いとされているお酒をまるで、湯水のごとくガブガブ飲んでいた。どれぐらいの量のお酒を2人は飲んだのだろうか。なにせ想像を絶する量であったということだけは言っておく。


 自分はあまりお酒が飲めない体質なので、彼女たちの飲むペースをよそに、カステラおばさんのミルクを飲んでいくしかなかった。



「ミルクおかわり!」



「はいよ~」



 大将は自分の飲みかけのコップを受け取った。



「そういえば、ベル坊ってお酒まだ一つも頼んでないね」



「あ~たしかに!言われてみれば!」



 お酒があまり飲めないから、ミルクをこうして浴びるほど飲んでいるのに・・・。大学のサークルの新入生歓迎会の時に、かつて10杯か15杯くらい酒を飲んで、吐いてしまったことがある。


 その店で食った物体が、胃の中から食道を通じて口元まで逆流してくる感覚に襲われた。急いでその店のトイレに駆け込んで、ブツをすべて便器に吐き散らした。何度もそこでえずいたことによって、肺がぜんそくを起こしたみたいに苦しくなった。そんな苦い経験があったため、あれからお酒とは縁を切っている状態なのだ。



「あ~えっと、それはですね・・・」



 自分はお酒に強くない体質の人間だと、はっきり彼女らに言っておく必要がある。お酒は好きではない。おいしくもないし、強くもない。だから飲めないし、飲まないのだ。きっと彼女らには事情を話せば、理解を示してくれるはずだ。


 彼女らにどう言えば、納得してくれるかどうか考えをまとめているうちに、ミーヤーが口をはさんできた。



「じゃあわたしがなにか代わりに頼んであげる!どうせわたしのおごりだから何頼んでもいいよね?」



「え?」



 ミーヤーは人の気も知らないでそのようなことを言ってきた。お酒が飲めないというのに、あろうことか「わたしのおごりだから、何頼んでもいいよね?」とまで、釘を刺してきた。


 自分は今現在、飲食の代金をミーヤーに立て替えてもらっているいわば彼女のしもべにあたる。


 人の金でミルクなり、ヒツジ肉をたくさん飲んだり食ったりしている身であるにも関わらず、お酒が飲めないからといった理由で、彼女の自分に対する酒の注文を断るというのは身勝手にもほどがある。


 故に断りようがなかった。もしここでお酒は飲めないからと言って、彼女の注文するお酒を断ったとなれば、場の空気が読めない陰キャラとして認定され、彼女にさげすまれかねない。ここは彼女の言うことに泣き寝入りするしかなかった。



「じゃあ・・・たのんます。お任せします」



 ベルシュタインは苦渋の決断の末、渋々ミーヤーの提案を了承してしまった。自分の保身に走ってもよかったが、さすがに今盛り上がっている酒場の雰囲気をぶち壊す行為だけは、何としても避けなければならない。致し方ない決断だ。



 そうして運ばれてきたのは、よりによって彼女がずっと飲み続けているテキーラというお酒だった。

 

 テキーラって、酒豪のペトラルカさんでも「そんなの飲めないって!」と言って騒いでいたくらいのブツである。


 大丈夫なのか・・・そもそもそんなものを自分は飲みきれるのだろうか。



「よ~~し!というわけで、今からわたしとベル坊とで、テキーラ一気飲み勝負を敢行したいと思います」



 わお!待て待て待てーい!それはいかんでしょうに。ただでさえお酒飲めないのに!


 おっかないことを唐突に口にしだしたミーヤー本人に対し、その勝負の敢行に異議申し立てをしても、彼女の性格上、それが認められないことは明白だ。となればここは人思いで優しいペトラルカさんに救いを求めるしかない。そして自分は右横にいる彼女の瞳をのぞきこんでいく。



 するとペトラルカさんは、



「いいんじゃない!?2人の一気飲み勝負!見物ですね~」



 ペトラルカさんにちゃんとSOS信号を目に込めてチャージインしたはずなのに、完全に酒におぼれ、すでに出来上がっているのか、いつもの慎ましくおとなしめな彼女はむしろ自分とミーヤーとの勝負を心待ちにしているようだった。


 ミーヤーの悪ノリがまかり通ってしまう。



 まずい!



 大将の方にも目線をおくる。察してくれ!自分の救難信号!



「いいんじゃないか?そうとなれば、ベル坊くん!1人の男としてここはミーヤーの勝負受けて立とう!」



 大将までもがミーヤーの悪ノリに完全にのっかってしまった。


 形勢は完全に3対1。孤立無援状態だ。


 ここはもはや、意地でもその勝負を受けて立たなければならなかった。この場はそういった空気感で、包まれてしまった。ボルテージが上がる。2人の観客は今か今かと、その勝負の決行を待ちわびていた。



「わかった!受けて立ちましょう!(内心ぴえん)」



 ついに場の空気に流され、テキータ一気飲み対決を受けてしまった。無謀で絶望的な戦いである。ミーヤーのおごりの酒である以上、飲まずにはいられない!



「はいよ!ベル坊くん!テキーラだ!」



 目の前にテキーラジョッキがどん!とおかれてしまった。自分にテキーラが差し出されたのを見て、ミーヤーは自身のジョッキの取っ手部分を手に取る。


 ジョッキを手に取ることに対し、未だ躊躇していた自分にミーヤーは早く取るようにと、さらに圧をかけてくる。その彼女の圧にも負けてしまい、泣く泣くジョッキを持ってしまった。


 ※よい子のみんなには強く言っておく。こんなテキーラ一気飲み対決など、絶対に受けてはならない。最悪死ぬかもしれないからな。急性アルコール中毒ってやつです。



「いざキックオフ!」



 大将の一言で、テキーラ一気飲みによるデスマッチがはじまった。


 まずはミーヤー選手。ものすごい勢いで、ゴクゴクとのどを鳴らして飲み干していく。ものの十秒で彼女は一杯を飲み終えた。



「プハ―!おかわり!」



「はいよ!まずミーヤーに1ポイント!」



 完全にわるふざけが過ぎる。自分以外みんながそのデスマッチを楽しんでいる模様だった。ミーヤーは度数が高い酒を一気に飲み干していてもなお、余裕しゃくしゃくとしている。



 なんたることだ。彼女の肝臓はどれだけアルコールに対して、耐性があるのだろうか・・・。自分もぐずぐずしていられない。ミーヤーと同じく一気に飲み干す覚悟で、テキーラをまず口につけていった。



「ぶく!?」



 これがアルコール度数が高いと言われるテキーラの味か。口につけ、少量だけ試しに飲んでみたその瞬間、食道付近に何か重厚感あふれるドロドロの液体が通過していったのを感じ取った。


 これは肝臓が一気にやられそうだ。こんなものを何杯も何杯も飲んでいては、肝臓がもたない。肝硬変待ったなしだ。


 少量すすった程度の状態で、そのことが真っ先に脳裏によぎった。


 これはギブアップ要件。さすがにこの勝負、分が悪い。それゆえに自分はついにジョッキをすぐさまカウンターにどん!と置いてしまった。



 するとそれを見たペトラルカさんは、自分の目をまっすぐ見つめながらこう言ってきた。



「どうしたのベル坊やくん?まだ一滴も飲めてないよ。頑張って!あなたならできる!ミーヤーにだって勝てる!」



 ペトラルカさんにそう鼓舞された。どんな根拠でもって、自分がミーヤーとの勝負に勝てると思ったのかは謎ではあるが、それはともかく!こんなに可愛い女の子に応援されたとなれば、がぜんとやる気が出てしまう。


 神経を全集中させる。そして自分の脳内はこう語りかけてきた。


 飲み干せ。一滴も残らず。


 脳の指令をそのまま受け、自分はついにテキーラをぐいぐい飲んでいった。



「ブクブクブク!!」



 テキーラをどんどん飲んでいるうちに、ますます肝臓に重々しさを感じていく。


 魚がブクブクと水中で呼吸するみたいに、テキーラの中で自分はブクブクしていた。あまりにもアルコール度数が高すぎて、一気に飲み干すことができないために起こった現象だった。



 それを見てペトラルカさんは、



「ベル坊やくん!なんかジョッキの中でブクブクいわせてるよ!」



「まるで魚の呼吸みたいだな!面白いぞ!ベル坊!」



 魚のえら呼吸みたいだと揶揄されていたが、それでも気合いと根性だけで、テキーラをブクブクいわせるといった不格好をさらしながらも、なんとか飲み干していった。



「うううう・・・・なんとか飲み切った」



「すごいよ!すごいよ!ベル坊やくん!わたしでもテキーラ飲めなかったのに!すごい!すごい!」



「見事だね!ベル坊!」



 ミーヤーも自分がジョッキいっぱいに入れられたテキーラを飲み干したことに健闘をたたえる。



「ペトラルカどう?このベル坊の飲みっぷり!?ベル坊のこと好きになっちゃいそう?」



「うん!ベル坊やくんかっこいいよぉ~!ほんとうに好きになっちゃいそう!」



 うん?今何か聞き捨てがたいことを言っていたような?テキーラを一気飲みした反動のせいか、意識がもうろうとしてきたため、彼女らの発言をはっきりと聞き取れなかった。さっきから時空がゆがんだような感覚に襲われている。目の前に見えている情景が飛ばし飛ばしになってきて、それどころじゃなかった。



 そうしているうちに、第2号のテキーラがやってきた。



「さあ2杯目いきまーす」



 そしてミーヤーは勢いよく飲み、またしてもテキーラを平らげる。



「ベル坊やくんも負けないで!」



 自分もミーヤーに続き、テキーラを口につける。さきほどにもまして、肝臓が重々しくなる。これ以上は、キャパオーバーだ。まずい・・・胃の中のものを盛大に吐き散らしてしまう自信がある。


 気持ち悪いのがこみあげてくるのを必死に抑えつつ、2杯目のテキーラもなんとか飲み干していった。



 このいつ終わるとも知れない、不断のテキーラ飲みあい合戦になんとも底知れぬ不安を覚えるベルシュタインであった。


 これをこのあと何十杯もミーヤーが参ったというまで飲み続けなければならなのか・・・ミーヤーが酔い潰れるまで自分は耐えて、耐え抜かなければならなかった。


ここまで閲覧いただきありがとうございます!


もしよければブックマークの登録と評価ポイントの方をお願いします!


またここまでのストーリーや文章の指摘、感想などもどしどしお待ちしております。


次回は 本編 その30「逃げるなら今でしょ」です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ