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その8 「パリピらは踊らされる。踊り食いだ」

「おい!ハミルトン!聞いてるのか!」



「なんだよ~さっきからよ~クローラ君」



「この道であってるのかよ!?ほんとにこの通りに進めばいいんだな!?」



「だと思うよ~。だからこうして引き返してるところじゃん?」



 ハミルトンとクローラは先程から口論が絶えなかった。その言い争いには同行している連中もうんざりしていた。



「ちょっとやめてよ!さっきからうるさくてたまらない!」



「おい!よしてくれ!ミクもこういってるんだ。こんなところで喧嘩しないでくれよ」



 2人がこうして口論になっているのには理由があった。それはというと・・・・



「うるせえ!こいつのせいで道に迷ってるんだろうが!ちくしょうめ!お前についてきた俺がバカだったわ!」



「もういいって!なんでそうクローラはいつもカッカするの?」



 ミクは憤っているクローラに対して、強く責め立てる。



「そんなの今はどうだっていいだろ!遭難してるんだよ!俺らは!ソ、ウ、ナ、ン!」



「参ったな~。こっちだと思ってたのに、違ったじゃん?・・・・これやばくね?」



 そんな二人に対し、何の悪びれる素振りも見せずひょうひょうとしているハミルトン。



「みんなを先導しておいて、失態を犯しておいてもなお、こういう調子だから俺もカッカしてるんだよ!」



「・・・たしかに、わたしもその点は否定しないかも」



 ハミルトン一行は、元の道を順調に引き返してきたと思えば、進むにつれて見たことのない景色ばかりにぶちあたっていた。


 そう完全なる遭難だ。総勢10名のハミルトン軍団は、暗い山中を迷ってしまった。




「これもあれも、全部アリアスのせいだ!くそが!あいつが有りもしない山小屋を捜しに行かなければこんなことになってない!」




「でも言い出しっぺはクローラ君じゃなかったっけ?小屋を捜しまわろうとか、まずはじめに言ってたよね~?そうじゃなかったけ~?これクローラ君がやばくね~?」




「うっせえ!もうお前は何もいうな!イライラするわ!その口調と言い、あれと言い・・・うおおおおおおお!!!」




 クローラはあたまをくしゃくしゃに掻き毟り(か むし)ながら、あたり一帯に80db(デシベル)に到達するくらいの大声を出した。




「おい!いい加減静かにしてくれよ。ただでさえ夜は危険な生物でいっぱいになるって、お前さっき言ってたよな!大声出して、やつらに勘付かれたらどうすんだよ!」




「うっせえ!そんなの知ったことか!うおおおおおお!」




「おい!誰か!こいつの口を何かで縛りやがれ!ガムテープはどこだ!」



「そんなもん持ってきてるわけないでしょ!」




 もはやこの場は収拾がつかなくなっていた。


 クローラは騒ぎ立て、その周りには彼を押さえつけようと必死になっている。まさに統率が取れない集団とはこのことだろう。



「とりあえず何か俺がこいつをしばれるようなものを探してくる!それまでだれかそいつを羽交い締め(はがいじめ)にでもして、押さえつけておいてくれ!」




 そう言うと1人、騒ぎ立てるクローラを拘束できそうなものを捜し、その場から離れていった。




「よし。とりあえず俺らだけでこいつを取り押さえておこうぜ」



「おう・・・」




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 暗い山中に単身1人で、シュールレは今も暴れ散らかしているクローラを束縛できそうなものを探していた。



「・・・そうだなぁ、やっぱりツルみたな丈夫な材質のモノがあれば、あいつを拘束できる。でも見た感じあれでもない、これでもないな」




 いろいろと辺りに生えている植物をあらかた見渡しているものの、そこらにツルが生えている様子はなかった。


 しかも今は深夜帯の時間でもあるため、暗くて足元もおぼつかない。暗すぎて目の前の物が何も見えないほどだった。

 幸い松明を一本だけ持ってはいるが、その明かりだけでは正直心もとない。




「くそ・・・・懐中電灯を持って来ればよかったぜ。・・・そういえば俺ら有能生産者は近くのキャンプに泊まり込みして、働く手はずになってたのに!コミュニティーの奴らに騙された!くそ!

 なんで俺らが野宿させられなきゃいけないんだよ!」




 シュールレはそう1人暗い中、ぶちぶちと文句を言いながら、真夜中の山中を突き進んでいく。



「くそくそくそ・・・・腹立たしい、腹立たしい、腹立たしい」




 いらだちを隠せないでいるシュールレ。そんな中、



 グニュッ!



「ん?」



 ふと足元に何やら不快な感覚がした。




「なんだろう?枝を踏みつけたにしちゃあ、感触が柔らかな感じだし・・・」




 その踏んづけた物体の正体を探るため、彼は靴裏(くつうら)を見てみた。




「うげぇ・・・こ・・・これって・・・・動物のフンじゃん・・・」




 靴の裏には、これでもか!っていうほどにフンがこびりついていた。足元が暗かったため、そこに落ちていたフンの存在に全く気が付かなかった。




「なんて日だ!遭難はするし、フンは踏みつけるし・・・・・くそ・・・」



 ザザザザッ!!!



「え!?何!なんだっていうんだよ!」



 靴裏を見ていたその時。背後から突然、草木の茂みがガサガサ揺れる音が聞こえた。彼はハッとなりすぐ後ろを振り向いた。



「えっ?・・・・嘘だろ・・・」



「・・・・・・・・・・・・・」



 彼の背後には何かがいた。その何かは彼を射程圏内にとらえる。




「・・・・まずい!・・・・こんなところでやつらに出くわしちまった・・・」




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





「よし!なんとか抑えることが出来たよ!」



「サンキュー!ミク。悪いな女の子まで手伝わせてしまって。なにせ俺らだけじゃこいつをおさえきれなくてさ」



「いいよ別に。私元々柔道をやってたから、こんなの朝飯前だし。・・・むしろあなたたちの代わりに、私1人で対処すればよかったかもね」




「そうだな。俺ら全員、こいつにコテンパンにやられてしまったしな。そんなひ弱な俺らと違ってミクは手際よく、あいつを羽交い締めにしてみせたもんな・・・・すげーや」




 クローラは今、大きな木の幹にぐったりしておとなしくなっていた。


 クローラも見事なまでに女の子に羽交い締めされ、押さえつけられてしまったことに対し、情けなく思っているに違いない。




「シュールレの奴、どこまで行っちまったんだろうか。そういえば戻ってくるの遅いな」




「たしかに・・・・」




「ちょっと見てくるわ。みんなはちょっとそこで待っていてくれ」




「あ~ちょっと待ってよ、キーン!シュールレはそっちじゃなくて、こっちの方だって!」




 ミクがそう注意するも、キーンはシュールレが向かった方向とは全く別方向へ向かってしまった。




「もう・・・どうしてこうも・・・・んっ?」




 ミクはキーンが向かって行った先を見つめていた。


 しかしそんな時だった・・・。彼女の背後にやつらが迫っていたのだ。くちばしをカタカタと鳴らしつつ、彼女に近づいていた。




「・・・・なに?・・・このカタカタって音・・・気味が悪い」




 そうしてミクは恐る恐る後ろを振り向いた・・・・




「・・・・うそでしょ・・・みんな・・・どうして・・・」





 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







「きゃーーー!」




「ん!?あの声は・・・ミクか!」



 シュールレを探していた途中、キーンにミクの悲鳴が聞こえてきた。




「何があったんだ!?・・・ミク!」



 キーンは踵を返し、今来た道を引き返そうとした。



「・・・・・・おい・・・・」



 その束の間、ふと彼の足元から弱々しい何者かの声が聞こえてきた。



「・・・・おい!シュールレじゃねえか!・・・・・それにどうしたんだよ!その傷は!?」



 足下を見ると、そこにはキーンが探し求めていたシュールレ本人がいた。彼は全身血だらけで地面にうつ伏せで倒れていた。



「おい!・・・一体だれに襲われたんだ!おい!シュールレ!」



 シュールレの傷口が深い。特に背中部分が深く(えぐ)られていた。


 それはまるで鋭利な刃物か何かで背中の中身の肉を取り出されたかのような・・・彼の背中にはぽっかりと大きな穴があけられていた。


 

 そのシュールレの様子にキーンは戦慄を覚え、わなわなとカラダを震わせていた。



「えっと・・・こういう時はなんだ・・・・傷口を何かで押さえればいいんだっけ?・・・・何かないか、何かないか・・・」



 キーンはシュールレの背中の深くぽっかり空いてしまった傷口をまず塞ぐべきだと判断してか、何か止血できるものはないかと、あたりを探し始めた。



 すると彼はふと近場にあった30cmほどの大きな葉っぱを見つけた。それはシュールレの傷口をすっぽりと覆えるぐらいのサイズであった。


 その大きな葉っぱを拾い上げると、駆け足でシュールレの元に戻るキーン。



「・・・これでこいつの背中の傷をおさえつければいいのか?・・・・どうなんだ!」



 本来ならば、この場でガーゼか何かを用意できればベストなのだが、彼は別に医療に携わっている系の人物ではないので、当然そのようなものは持ち合わせていなかった。


 キーンはどこにでもいるようなごく普通の文系の大学生であった。


 大した医療知識もない彼は今、手に持っているこの大きな葉っぱがガーゼの代わりになるのかどうか、考えあぐねていた。



「ああああ!!!わかんねえよ!!応急手当とか大学のマネージャーにずっと任せっきりだったし!

 ああああ!!こんな時にマネージャーのあの娘が俺のそばに居てくれたらなぁぁ!!」



 そんなキーンをよそにシュールレがぼそぼそと彼に対して、小声で何かを言ってるのが聞こえた。



 キーンはその声に耳を澄ます。



「・・・・・二・・・・ゲ・・・・・・ロ・・・・・・・・・・」



「うん!?聞こえねーぞ!何だって!?」



「・・・ニゲロ。・・・ミンナ・・・シンダ」



「・・・みんな死んだだって!?・・・おい!・・・それは確かか!?冗談ならほどほどに・・・」



 ズシン!・・・ズシン!・・・



「!?」



 その時、地面を揺るがすほどの何かの足音が近づいてきた。


 その足音と共に、ボリボリと何か硬い物質をかみ砕いているかのような音も鳴らしつつ、こちらの方へ近づいてくる。



 視線をシュールレからそれらの音の方へと向ける。そこには・・・・・・・




「おい・・・・食ってやがる・・・あいつらを・・・・こいつが丸ごと・・・・」




 その足音の主であるキメラ生物はまるでエビを踊り食いしているかのようにして、長いくちばしの中、生身の人間を何人も踊り食っていた。


 そこにはクローラ、ハミルトンの物と思われる衣類の類が、キメラ生物のくちばしからほんの僅かながら、まろびでていた。


 人間の骨までかみ砕く強力なくちばしを持ったクジャクのなりをしたキメラ生物。


 通称クジャクキメラは彼ら彼女らの骨の髄からカラダの至るところまで、しゃぶり尽くしていたのであった。



 土砂処理作業の志願をしたD班の若い有能生産者軍団。彼ら彼女らのその後の行方は、ほぼ全員が今に至るまでわかっていない。


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