後編 その22 「不死鳥の如く」
コミュニティーの大広場では、大勢の人が踊り狂っていた。
あちこちにビールを飲んだくれた連中がバカ騒ぎを起こしたり、今日はいつにもましてコミュニティー雰囲気がいい。
大広場に設営されている即興の野外ステージでは、紅の鳥をモチーフにしたドレスを身に纏ったペトラルカさんがセンターマイクを握り、歌を歌っていた。
「~~~~~♪」
肝心のペトラルカさんの歌声は、まるで極寒の地に放り出された時のように震えに震えているが……。
きっとペトラルカさんは極度の緊張しいなのだろう。
それでも彼女の美声は会場全体に響き渡り、観る者の心を1つにしていた。自分もその中の1人だ。
また彼女の周りには、キレッキレのコサックダンサー達がおり、彼女の単独ライブを引き立てている。
聴衆はペンライトのようなモノをブンブン振り回したりしていて、まさにライブで熱狂している人達のそれだった。
そうして狂乱の群衆が渦巻く中、グリアムスさんと共に彼ら彼女らをかき分けながら、前に進んでいると、ちょうどペトラルカさんの一曲が終わった。
するとその余韻が冷めやらぬ頃、突然壇上にあのクラック隊長が……
「へいへいへい! ワオ!」
と南国のDJのようなノリではしゃぎながら、上がってきた。
「ブーー! ブーー!」
「下手くそー!」
「何でクラックがペトラルカとデュエットなんだー!」
「そこ、俺と代われー!」
と、クラック隊長の登場早々から、会場のあちこちで罵声が飛び交っていた。ブーイングもおまけつきで。
……それらもライブのお約束ごとというか、1つの余興なのだろう。
クラック隊長はそんな野次を飛ばす人達の声にめげず、淡々と演奏の合間のスピーチを始める。
そんな彼は時折、ジョークなのかどうなのか曖昧な言葉を吐いていたが、自分は少なくともその1つたりとも笑えなかった。
……まあそれはさておき、会場に居るみんなはなんだかんだ言って、とても楽しそうにしており、こちらとしても何だか微笑ましくなってきた。
できるなら自分もそんな彼ら彼女らの輪に加わりたかったが、あいにくクラーク先生の約束事がある。
今もなお、頭の中で鳴り響いているチップ爆弾を除去してもらわなければならないのだ。
コミュニティーの大広場で開催されている、コミュニティードヨルド創立2周年記念イベント。
噂に聞くと、ビンゴ大会をはじめ、祝辞の言葉、コサックダンス、音楽ライブなど様々な催し物が行われているらしい。
あとメイド服を着た女の人達が、ソフトドリンクやアルコール、各種食べ物をまるで売り子のように、会場に居るみんなに色んな人に配っていたりする。
ちょうどその頃。野外ステージでは、ペトラルカさんがクラック隊長と一緒にデュエットソングを歌い始めていた。
……それらの初めから終わりまで見ることが叶わないのは大変悔やまれる。
また一年間、グリアムスさんと共にこの過酷な環境下で生きながらえて、今度こそは2人そろってイベントに参加し、思う存分楽しんでやろう。
自分は強くそう思った。
「みんなー! 盛り上がってますかー!?」
「「イエス! ラブリーエンジェル、ペトちゃーん!!」」
……まだこの世界にも、これだけの活気が残っている。
超有機生命体といった、人類が生み出した膿みの存在に世界を支配され、現実に打ちのめされているにも関わらず。
人間にはこれだけの活力が潜在的に眠っているのだ。
きっとこの活力さえ失わなければ、例え超有機生命体とは言えど、これから十分に抗って行けるはずだ。
希望はまだある。決して潰えてなどいないのだ。
先のセバスティアーノの任務を無事達成し、自分たちはようやく彼らの輪に入ることが許された形になった。
無能生産者としてではなく、晴れて有能生産者として。
……奴に仕掛けられたチップ爆弾が自分たちの頭の中にまだ残っているが、これからクラーク派の隠れ家へと向かい、手術で除去してもらえれば、奴の手によって爆発させられる心配もなくなる。
ついに、ついに勝ち取れるのだ。自分たちは人並みの暮らしを。
先程のフレデリック・ウォーター曹長の話によると、グリフォンキメラは自分たちを残し、どこか遠くへ飛び去って行ったらしいが、この虹色の石さえあれば、いつでもまた奴を呼び出せるだろう。
とにかく希望を持って、今現在人類が置かれている現状を自分たちが主体となって、変えていくのだ。
そしてグリフォンを再び、手中に収めた暁には、今度はクラーク先生達と共に、このコミュニティーをより良い世界にしていこう。
狂気に囚われているセバスティアーノを統領の座から失脚させ、もっと平等な世界へ。
支配、被支配の構図を取っ払って、コミュニティーのメンバー全員に公平に食料や物資を分け与える。
……そんな共存共栄の精神に則ったコミュニティーにしていければなと思う。
有能生産者になるからには、それらを目標を念頭に、これから課せられるであろう日々の業務をこなしていくつもりだ。
その後、自分たちは大広場を抜け、キャサリンさんから手渡された地図の通り、指し示されていた例の隠れ家に向かったのである。