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後編 その19 「それ行け! ガムのねばねば大作戦!」

 コミュニティー上空に、果てしなく広がる金色の空。

 今にも日が沈みかけようとしていたその時。

 自分たちはグリフォンと共にコミュニティー侵入を敢行した。

 そうしてグリフォンと共に、上空から急降下している最中のこと。


「曹長! フレデリック・ウォーター曹長! 空からこちらに何か向かって来ます!」


 自分たちの遥か真下にいるコミュニティー内の兵士から、続々とそのような声が聞こえてきた。

 夕日をバックに突然降って湧いたように、兵士たちの前に姿を現したグリフォン。

 地上から見れば、さぞかしそれは映画GOZZIRA(ガズィラ)に出てくる大怪獣キングキドランのように映っているに違いない。

 案の定、その空からの侵略者に下の警備兵たちは大騒ぎだ。


「キメラだ! キメラの襲来だ! 総員、配置につけ!」


 腕に赤い腕章をつけた者が周りの警護兵に対し、指示を飛ばす。

 警備兵たちはその指示通り、迅速にそれぞれの配置についた。


「曹長! フレデリック・ウォーター曹長! 伝令です!」


「何だっ!? 伝令兵!」


 双眼鏡を手に持った伝令兵と思しき人物が、その赤い腕章の男に以下の報告をする。


「上空のキメラ、どうやらセバスティアーノ様の屋敷の方角に向かっている模様!

 ……現在、あそこには誰も警備の者がついておりません!

 ガラ空きです!」


「なぜだっ!? その周辺の警備はどうした!?」


「はい! 大変申しにくいことなんですが、実は本日コミュニティー創立記念イベントが開催されるに先立ちまして、あのペトラルカさんがビンゴ大会をですね……。

 そのため周辺の警備がガラ空きです!」


「ビ、ビンゴ大会だと!? ……それと警備がいないことに何が関係あるんだ!?」


「はっ! 実は、ペトラルカさんの姿を一目見ようと、マルコス班の者達が全て、大広場の方に向かってしまいまして……」


「んなバカなことがあるか! あのクズどもが! ビンゴ大会などにうつつを抜かしやがって……。

 今すぐそいつらを呼び戻せ! そして前線で戦わせるのだ!」


「了解です! 早速伝令を飛ばしてきます!」


「急げ! 事態は一刻を争うんだぞ!

 万が一セバスティアーノ様の身に何かあってみろ。俺たち全員、軍法会議であの世行きだ!」


「はっ! 了解です! 曹長!」


 伝令係の者はそう答えると、足早にコミュニティーの中心広場に向かっていった。


「野郎ども! 放て、放て! セバスティアーノ様の屋敷に一歩も近づけるな!」


 それから少しして、銃弾が雨あられのようにグリフォンの腹に飛んできた。

 ロケットランチャーに対戦車ミサイル、他様々。

 しかしいかに威力の高い殺傷兵器をもってしても、硬質化されたオートメイルのようなグリフォンの皮膚が、それらをことごとく跳ね返す。

 強靭なグリフォンにとって、彼らの攻撃はかすり傷にすらならなかったのである。


「ひーっ! ありゃ俺たちの手には負えませんぜ! 曹長! 

 わしら一足先に退散させてもらいます!

 退避ぃー!」


 圧倒的なグリフォンの防御力に恐れをなしてか、続々と武器を置いて逃げ出す者が出てきた。


「このクズが! 敵を前に尻尾巻いて逃げる奴がどこにいるんだ!?

 武器を手に取って、戦え! 逃げるんじゃねえ!」


「ですが曹長! あのキメラ、俺達の兵器では歯が立ちません! このままでは防衛ラインを突破してしまいます!」


「黙れ! 考えるより行動しろ! ここで食い止めるんだ!」


「は、はいぃ~!」


 学習能力がないとはこのことだろうか。下の兵士たちは性懲りもなく、攻撃を重ねてくる。

 いくら撃っても、このグリフォンに対しては何ら効き目がないと言うのに……。

 赤い腕章の曹長は引き続き、あらゆる武器と人員を総動員して、抵抗を続けてきた。


「ひー! グリアムスさん! 怖いです! たった今、自分の頬に銃弾がかすめました!」


 続々と撃ち込まれる銃弾の嵐に、自分は大木の幹にしがみつくような思いで、グリフォンの背中にしがみついていた。


「問題ありません、ベルシュタインさん! というか、そろそろ頃合いです!

 ガム作戦、ただちに決行してください!」


 当のグリフォンはすでに、飛行機の低空飛行のような態勢に入ろうとしていた。

 段々と下の兵士との距離が近づいてくるにつれて、放ってくる弾の勢いも増してきている。


「わ、わかりました! じゃあ早速行かせて頂きます!

 ……グリフォン! ガムの糸だ! 大量のガムを吐き出して、攻撃してくる兵士たちの動きを止めるんだ!」


 グギャギャアー!


 ようやくここでガムの糸作戦が、実行に移された。

 ガムの粘り気のあるもちもちっとした瞬間接着剤を、グリフォンの口から大量に解き放つといった非常にシンプルな作戦。

 ガムの持つ粘着力でもって、兵士たちの動きを封じ、彼らがガムに囚われているその隙に、セバスティアーノ邸に突入するといったものだ。


「曹長! キメラの口から何かが……。ぐはっ! 何ですこれは!?

 ネバネバしてて、身動きが取れません! 曹長、お助けを!」


 あれよあれよという間に、兵士たちの頭上に一斉に降ってくる大量のチューイングガム。

 銃口を真上に差し向けていた兵士たちは、まるで冷凍保存にあったように、ガムの糸に完全に囚われてしまったのである。


「キメラの癖に、何て姑息な真似を! 許せん! 俺の部下を!」


 唯一グリフォンのネバネバ攻撃から免れた、赤の腕章男はそう吐き捨てる。

 自分たちの思っていた通り、兵士たちのほとんどはグリフォンが吐き出したガムの糸に阿鼻叫喚としていた。

 その様はまるでトリモチにひっついた弱った虫のようだ。

 兵士の彼らがそうして身動きが取れなくなっている間に、自分たちはセバスティアーノ邸へと向かった。


「作戦成功ですね、ベルシュタインさん!」


「はい! グリフォンが湖で制御装置を拾ってくれたおかげです!」


 グリアムスさんと一言二言話し合っている内に、自分たちはあっという間にセバス邸の前にたどり着いた。

 自分たちはこうして誰も殺めることなく、ガムの糸で兵士たちの動きを封じることに成功したのである。


「ベ、ベルシュタインさん。足元に気を付けてくださいね」


 セバス邸前で、地上一杯に広がるガム溜まりに足を取られぬよう、慎重にグリフォンの背中から降りる。 

 自分たちがグリフォンの背中から降り、セバス邸の玄関前にたどり着こうとしていたその時。

 ちょうど時を同じくして、中の邸宅から猫耳のカチューシャをつけたメイド服の女の人が出てきた。


「きゃあ! 何よこれ! 兵士がみんな……ゴキブリホイホイみたいに捕まってるじゃない!」


 チューインガムがまるで路上の水たまりのように、辺り一帯に広がる異様な光景。

 その茶髪のメイドの彼女は口に手を当てて驚くと言った、まさにテンプレのようなリアクションをしていた。


「ちょっとそこのあなたたち! ……確かベルシュタインとグリアムスだったっけ?

 後ろのキメラを使って、いったい何をしたのよ!? 正直に答えなさい!」


 例の茶髪の彼女は玄関口から眉をひそめながら、指差してきた。


「えっと、これはその……」


 突然のメイドさんからの追及に、自分は歯切れが悪くなる。

 あとなぜか、この茶髪のメイドさんは自分とグリアムスさんの名前を知っている。

 さらには自分たちの背後に居るグリフォンを見ても、大して驚く様子がなかった。

 ……いったい何奴なのだろう。この猫耳茶髪娘は。

 そのことに少々思考を巡らせていたそんな時。そこに割って入るように、またあの赤い腕章男がセバス邸に向かってやって来たのである。


「おい、お前ら! キメラを連れたお前ら! よくもまあ、あんな手荒な真似を……。

 何で普通に正門の方から入ってこなかったんだ!? お前ら、クラーク先生から話を聞いてなかったのか!?」


 手持ちの拳銃を自分たちに向けながら、赤い腕章男はそのようなことを言った。

 彼の拳銃を持つ手は、ブルブルと震えている。


「え? クラーク先生から? ……いったい何の話です?」


 腕章男の言っていることに、自分は何の心当たりもなかったため、思わずそう聞き返してしまった。


「だからあれだ! お前たち2人の姿を見かけたら、門を通すお達しがクラーク先生から衛兵たちに出ていたって話だ。

 それを含めて、俺はなぜお前らがあんな手荒な真似をしたのか聞いている。

 なぜ正門から通らなかった!」


「……いや、自分たち別にクラーク先生からそんな話、1つも聞いてないんですけど」


「へっ? そ、そうなのか? ……おっほん! じゃあ今の話、全て聞かなかったことにしてくれ。

 ……おい! キャサリン! お前、いつまで驚いてるんだ! 

 お前もクラーク先生から話は聞いてるとは思うが、こいつらは俺達の味方だ。丁重に奴の屋敷に案内してやれ。

 それから事が終わり次第、こいつらを例の隠れ家のところへ……」


「わかったわ」


 茶髪のメイドさんはそれまで見せていた表情と打って変わり、キリッとした表情を見せた。


「じゃあ、案内します。どうぞこちらへ。……あと、フレデリック。このガムの処理、お願いね。

 完全に乾いてしまわないうちに」


「ああ……。急いで他の奴らに処理させておく。なんてこった」


 フレデリックのその一言には、明らかに落胆が含まれていた。

 その後、両者間で、ある程度の意思の疎通が図られたところで、自分たちはキャサリンと言う猫耳のメイド娘に、セバスティアーノの邸宅に案内されたのだった。

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