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後編 その18 「空からの侵略者。その名はグリフォン」

 自分は引き続き、グリアムスさんの口から超有機生命体に関する情報を聞いていた。

 彼の手元にある資料によると、キメラ生物とはそれすなわち超有機生命体であること。

 キメラニアウイルスに感染した生物の成れの果てが超有機生命体であって、ウイルスの作用により、驚異的な身体能力と知能を有するようになったこと。

 あとそのウイルスの作用によって、あらゆる物質を体内に取り込めるようになったことが語られていた。

 またこれら以外にも、グリアムスさんは……


『キメラ生物の中には、肉体が再生する個体も存在するようです。

 銃で撃たれ、肉体に損傷個所が生じた場合でも、細胞が無限増殖し、何事もなかったかのように息を吹き返すとか。

 あとこれらのキメラニアウイルスは、人間には一切感染しないとのこと。

 哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類といった脊椎動物を始め、節足動物、軟体動物といった無脊椎動物にも感染は確認されているが、未だに人間への感染例だけは確認できていないとされている』


 とのことも言ってくれた。

 またこれ以外にも、超有機生命体研究所は、第1、第2といった具合に世界各地に拠点をもっており、昼夜問わず研究が行われていること。

 中でも超有機生命体の制御装置は、この第8研究所で製造されていたとか。


 もう何がなんやら……。話がてんこ盛りすぎて、思わず頭がオーバーヒートを起こしてしまった。

 これまでかろうじて理解できたことと言えば、ウイルスがバイオハザード? を起こして、ごく普通の生物が化け物と化したこと。

 そしてそのキメラニアウイルスに感染した生物が、地球上に存在するあらゆる物質をコピー&ペースト。

 人類を凌駕する力を手に入れ、超有機生命体が人類へと牙をむいたことで、世界は滅びてしまったこと。

 その他の込み入った難しい話は、自分の頭ではあまり理解できなかった。

 とりあえず自分は、ここテストに出るぞーといった要点みたいなものだけを、最低限おさえることにしたのである。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 グリフォンキメラが再び、湖の上空を通りかかった。自分が道中、誤って制御装置を落っことしてしまった、例のあの湖だ。

 例の湖を通りかかった際、突然当のグリフォンキメラは何の前触れもなしに、カパッと口を開けた。

 それから奴は湖の底に向かって、まるでカメレオンのように舌を目一杯伸ばし出したのである。


「グ、グリアムスさん! このグリフォン、いきなりペロンっとし始めました!」


 このグリフォンはいったい何をおっぱじめたのだろうと気になり、奴の動向を探っていると……。

 何と上空高くから、コンマ何秒もかからないうちに、ビローンと伸びていくチューインガムのような奴の舌が、あの時誤って落っことしてしまった自分の制御装置を、湖の底から拾い上げたのである。

 カメレオンが舌を出して昆虫を捉えたようにして、奴は一旦その制御装置を口に含めると、しばらくしてから奴の背中に掴まっている自分の方に首をクルッと回転させ、回収した制御装置をガムをペッと吐き出すようにして、手渡してきた。

 

「うわっ! なんじゃこれ! 超ヌメヌメしてる!」


 グリフォンによって吐き捨てられた、唾液まみれの虹色の石。

 しかし不思議と生臭さはなく、むしろチューインガム特有の甘い匂いが辺りに漂っていた。

 奴の唾液には、ガムの成分が含まれているのだろうか。

 文房具のノリや市販のローションのように妙に粘り気のあるヌメヌメした液体に、何とも不釣り合いな香しいガムの匂い。

 超有機生命体特有の、あらゆる物質をコピー&ペーストするその能力のことから考えるに、きっとこのグリフォンはどこかの駄菓子屋を襲撃した際に、大量のチューインガムをむさぼり食ったのだろう。

 普通それだけのガムを大容量食べていたら、体調を崩すものだが、そこはやはり人類を滅ぼしただけの生物だ。

 キメラニアウイルスの影響で、強靭にカラダが作り上げられているだけのことはある。

 

 まあともあれ、こうして無事に虹色の石が自分の手元に返ってきた。

 奴が湖の底に向けて舌を伸ばすまで、一個目の制御装置の存在を自分はすっかり忘れていたが、これで2つの制御装置が揃ったことになる。

 あとはコミュニティーに帰還し、セバスティアーノの元に制御装置を献上するだけである。

 コミュニティーへの帰還途中、研究所から回収した2つ目の制御装置があまりにもヌメヌメしていたため、ポケットにしまうのもはばかられ、一旦自分はグリアムスさんに、その制御装置を代わりに持ってもらえないかと頼み込んだ。

 しかし肝心の彼には頑なに断られてしまい、結局自分がこれらの虹色の石を2つとも持つ羽目になってしまったのだった。

 グリフォンのその唾液が、加齢臭独特のツンとくる匂いを放たなかったのは幸いだ。

 もし仮に奴の唾液から、加齢臭のような思わず鼻を塞ぎたくなるような強烈な匂いが、ひっきりなしに放たれていたとしたら、帰りの道中は地獄の様相を呈していただろう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 グリアムスさんの手元の時計は午後5時40分を指していた。

 自分たちは今、コミュニティーの壁がはっきりと見える地点で、立ち往生ならぬ空中で足止めを喰らってしまっている。

 いざコミュニティーが目と鼻の先まで捉えているものの、ここからどうコミュニティーの中に入っていけばいいか、考えあぐねているところだ。


「グリアムスさん。自分たちどうしたら……」

 

「そうですね。わたくしたちはつい5時間ほど前、このコミュニティーを出た際、無断で壁外へ逃亡するという大罪を犯しました。

 そんな重罪人なわたくしたちを、コミュニティーの門兵の方々が快く通してくれるものとは到底思えませんしね」


「いざコミュニティーから出れたはいいものを、一度出た国は2度と戻ってこれない……。いわば亡命の罪を自分たちは犯してしまったってことですね。

 何と罪深いことを」


 いざ片道で旅行に出かけたものの、帰りのことを全く考えていなかったまさに典型のようなことが今起こってしまっていた。

 お土産を買い過ぎて、帰りの運賃が底を尽きたような気分に自分たちは今、支配されているのである。

 一応ここに来るまでに、色々とグリアムスさんとこのコミュニティーに再び入国する方法を協議はしていた。

 グリフォンを連れて、正面から堂々と壁の中に入れてくれと、衛兵たちに懇願するか。

 もしくはひっそりと、サーチライトがどこもかしかもひっきりなしに飛び交っている中を、ミッション・インポッシブルさながらに、壁を伝ってこそ泥のように侵入するか。

 グリフォンに”ここ掘れワンワン”と命令して、トンネル掘削機のように地中に穴を掘って、セバスティアーノの邸宅のところまで掘り進めてもらうか。

 このように自分たちは不法入国並びに、正攻法と色々な方法を考えていた。


「しかし中々最善な方法が思いつきませんね。

 ベルシュタインさんが言った壁外を伝って、こそ泥のように侵入するといったアイディアも現実的じゃありませんし。

 このグリフォンに地中に穴を掘り進めてもらうといった、わたくしのアイディアも色々と不確定要素が多すぎますしね」


「だって地中にぽっかり穴なんて開けてしまったら、上の地面が陥没しかねませんもんね。普通に考えて。

 地盤沈下が起こって、崩落事故なんて起こした日にゃあ、たぶん死刑より重たい罰が待ち受けていると思います。

 永遠に火にくべられるか。ジパングの伝承にある五右衛門風呂に入れられ、釜茹でにされるか……ですね」


「それは恐ろしい。どうせ殺されるなら一思いにやってくれっと願うばかりです。はあ……」


 グリアムスさんと自分はほぼ同じタイミングでため息をつき、がっくりと肩を落とした。


「しかしグリアムスさん。考えては見たんですけど、どのみち自分がどんな方法を取ったとしても、やっぱりこれだけ厳重な警備の中だと、遅かれ早かれ衛兵の人たちに見つかってしまうように思います。

 なので、ここは1つ覚悟を決めた方がいいかと……」


「はあ……。と言うと?」


「こうなれば空から堂々と、敷居をまたいでいくしかありませんよ。

 グリフォンと一緒にセバスティアーノの邸宅まで急降下しましょう」


「それはちょっと流石に……。内部の人からしてみれば、キメラの奇襲攻撃だと思われますよ? そんなの空からの侵略者じゃないですか」


「確かにそうなんですけど……。でも、グリアムスさん。この残り少ない時間で他にいい方法なんて考えられると思います?」


「むむむむ。まあ非常に厳しいと言わざるを得ませんね。となればですよ、ベルシュタインさん。

 わたくしたちは決死の覚悟で挑まなければなりませんよ。玉砕覚悟で、敵陣真っただ中に乗り込んでいくその覚悟を。

 何かしらの報復攻撃は十分に考えられます。銃弾が飛び交う中、流れ弾で命を失うことも十分考えられます。

 ……それでもいいんですか? ベルシュタインさん」


「他に手段がなければ、こうするより他はありません。

 こちら側からは一切の死傷者を出さず、向こうの方にも被害を出さないような方法で、乗り込んでいきましょうよ。

 作戦名はズバリ、ねばねばガムの糸作戦です!」


「なるほど……。それで上手く行けば、死傷者を一人たりとも出さずに済みそうですね。

 そうと決まれば、突っ込んでいきましょう! 敵陣の真っ只中に!」


 豚小屋で同じ無能生産者として同じ釜の飯を食い続けてきたグリアムスさんとは、こうして多くは語らずとも、容易に自分の考えを汲み取ってくれた。

 そうして意を決した自分とグリアムスさんは、勢いよくグリフォンキメラと共に、コミュニティーから堂々と侵入をかましていったのだった。

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