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後編 その16 「地下研究所へ向かえ」

「グリアムスさん! やっと見つけました! 地下の入り口!」


 堆く積まれた雪を、ひたすらかき分け続けた結果、自分たちはようやく地下に続く階段を見つけることが出来た。

 ここまでの所要時間50分。

 グリフォンの怒涛の活躍がなければ、まずたどり着けなかっただろう。

 自分たちよりも一回りも大きな瓦礫が多く点在していた中、このグリフォンは自ら率先して瓦礫を運び出してくれた。

 自分がわざわざ命令するまでもなく。

 まるで上司がとやかく言わなくても、そつなく仕事をこなしてくれる優秀な部下を持った気分だった。

 奴のおかげで自分はある程度、快適に瓦礫の処理に専念することができた。

 自分の労働生産性の低さを、この優秀な直属の部下が全て補ってくれるなら、面倒な仕事は部下に丸ごと押し付け、自分はとっとと定時退社したいものだ。

 ……と、まあそんなことはさておき。

 自分がこうして地下の入り口を見つけてから、少し経った頃。

 山の茂みの方からグリアムスさんが、即席の紐で束ねられた木の枝を2つほど持って来てくれた。


「お待たせしました、ベルシュタインさん。……どうぞ」


 彼から早速、その束の内1つを受け取ると、グリフォンにガスバーナーと命じる。

 すると奴の口から、少量の火が木の枝の先端部分に放たれ、瞬く間に火が燃え移った。

 自分たちは、この先の暗い地下道の中を、即席で作った松明の明かりを頼りに進んでいったのであった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 地下通路の天井はところどころ崩落し、自分たちの行く手を遮った。

 が、しかしそれでもどうにか、ほんのわずかな隙間を細身な体躯を活かしてくぐり抜けているうちに、再びあの超有機生命体研究所の入り口の所までたどり着けた。

 幸い、自分がここに来るまで、崩落事故に巻き込まれることはなかった。

 行きしな天井からは水が漏れ、それがグリアムスさんの持つ松明の火にもろにかかり、明かりが消えてしまうハプニングはあったものの、最終的に自分は無傷で突破できたのである。


『ううう……。暗いですね。怖いですね。

 悪いですが、わたくしを置いて一足先に行っててください。後で追いつきますから』


 元来暗いところが苦手なグリアムスさんが、いざ手元の明かりを失うと、このように急に頼りにならなくなってしまった。

 いい年こいたおっさんが、壁にへばりつき、そこから微動だにしない姿は何ともみっともない。

 が、背に腹を代えられぬこの状況下では、いちいちそのようなしょうもないことにかまけている余裕はなかった。

 そのため掛けていた眼鏡をどこかに落っことした人のように、動きが鈍くなったグリアムスさんを、自分は暗い地下道に1人置き去りにして、単身研究所の扉を開け、中に入っていったのである。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 研究所エリアは、頑丈なつくりになっているのだろうか。

 さっきの地下道のずいぶんな崩落っぷりと比べて、この研究所には崩れ落ちている箇所が一切なかった。

 早速、制御装置とその横に添付されていた資料が入っていた机の場所を思い出そうとする。だがしかし……。


「たしか、えーっと。あそこでもないし、ここでもない。う~ん……。

 忘れた。もう一度片っ端から探すしかないか」


 このように物覚えの悪い性格が災いして、再び制御装置と添付資料の入った机を探す羽目となってしまった。

 自分の頭の悪さをこれほど心底恨んだことはない。


「学生時代、もっと勉強してればよかったなー……」


 後悔先に立たず。起きたことはしょうがない。こうなったら血眼(ちまなこ)になって、制御装置を探すほかあるまい。


 先程の瓦礫撤去で、肉体をより一層酷使したせいで、喉は干上がり、腹も減り、言い知れぬ脱力感に襲われている中での作業。

 自分があのコミュニティードヨルドに来てから、ずっと無能生産者として強制労働をさせられ続けたおかげなのか、このような極限状態に陥っても、制御装置をひたむきに探し続けるその手を止めることはなかった。

 以前の体たらくな生活を行っていた時の精神状態なら、”喉が渇いた”、”腹が減った”、”力が出ない”といった様々な理由を盾に、頑張らなくていい口実を探して、とっくに作業を止めていただろう。

 変なプライドに囚われ、万能感にずっと支配され、事あるごとに都合の良いように考えていた自宅警備だった頃の自分。

 終末世界になってから、自分といった人間は一切の価値がないと、非情な現実を突きつけられ、それまで持っていた無敵の感情はことごとく破壊されてしまった。

 コミュニティーに来てからも相変わらず人間関係を構築、輪に入ることすら上手く行かず、唯一の喋り相手はグリアムスさんしかいなかった。

 彼がいなかったら、状況はさらに悪化していただろう。

 もし万が一彼が無能生産者の中の、誰か1人でも個人的に親しくしている人がいたら、自分は確実に見向きも、相手にもされなかっただろう。

 誰とも群れず、誰の色にも染まらないことが、潔いとそれまでの自分はずっと思っていた。

 しかしその反面、関わり合いになれる人が誰1人いないということは、それすなわち自分に人間的な魅力がないことの何よりの裏返しだと、このコミュニティーに来てからやっと気付けた。

 今まで何て恐ろしいことを、無自覚にやっていたのだろうと思うと、ぞっとする。

 人生の経験値が周りと比べて、格段に低く、これらの物事を今までの積み重ねのなさ故に、それらの経験値の低さ故に、適切に判断できる能力がなかったからだとしか言いようがない。


「……よし、ようやく見つけた。制御装置と、この理系まみれの文章」


 自分の人生の経験値が、コミュニティードヨルドで鍛えられていなければ、きっと机の中にあったもう1つの制御装置と、添付資料も発見できなかっただろう。


「もう時間がない。急ごう」


 まだまだこのエリアを探索し切れてなかったが、暗い地下で1人置いてきたグリアムスさんのことを考えると、いつまでもここに残って居られなかった。

 片手には制御装置と資料。もう片方は松明を持って、自分は再び来た道を引き返したのだった。

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